SS 勇者様の内政チート ? (7)
内政チートは知識だけじゃだめだというのは当然なのですが、じゃ何があれば良いのかという回答が見つかりません。指導者としての資質と言えば良いのでしょうか。
特に中世の身分社会では、知識があるだけでは成功しても職人や技術者として便利に使われるだけで出世していくことは出来ないと思います。
そういう社会では無能でも生まれが良い身分の高い人間が、能力のある平民よりも優遇されるのは歴史が示しています。
やっぱり内政チートや知識チートの類というのは物語ほど簡単ではないでしょう。
異なる考えの人も多いとは思いますが、現代人の知識を持ったニートなんかに内政チートは不可能だというのは同意してもらえるものと思います。
「年上の私でご不満なら、気に入った娘を側室にしても結構です。志村様が望まれるのでしたら側室の生んだ子供を跡継ぎにしてもかまいません。」
更に姫様の話は止まることなく、良く見ると目の焦点があってない。
「いや、結婚を考えたこともないのに側室とか・・ちょっと。姫様。
ファランシア姫ちょっと待ってください。」
僕は思わず姫様の方に身を乗り出して話を止めようとした。
ファランシア姫は僕を見つめながら涙をポロポロ流し初めた。
唇が震えて次の言葉がなかなかつむげないようだ。
「あ~あ。姫さん泣かしてしまったな。バカ殿様なんとかしろよ。」
タクが呆れ顔で僕を見ている。
「なんで結婚話になるんだ。領地経営の話じゃなかったのか。」
「お姫様の中では話が繋がってると思うんですけど。」
沢渡さんが困ったようにつぶやく。
しばらくして、大きく息をした後ファランシア姫は気を静めるために紅茶を口に運んだ。
今日買ったばかりの絹のハンカチで涙の跡を拭きながら改めて話を続けた。
「大勢の人々を動かす為には知識ではなく、指導者を人々が信頼しついて行こうと思えることが重要なのです。カリスマと言っても良いでしょう。
志村様は既に勇者としてそれをお持ちです。
こちらの事情で無理やり召喚されたのに、なんの関係もない私たちの為にドラゴンと戦ってくださいました。
そしてドラゴンから私たちを解放してくださいました。
自らは質素な暮らしをしながら、森を切り開き水路を引いて荒地を農地に変えて農民達に与えておられます。
しかも、免税処置や様々な領民への支援策等。こちらでは当たり前かも知れませんが私たちの世界では考えられないことです。
更に他所からやって来た流民たちのことまで心を配るお姿に、領民たちは今までの領主との違いに驚きを通り越して崇拝にも似た思いを抱いています。
志村様がもし、本気で領民たちのことを考えて政を行ったならいったいどういうことになるでしょう。
それこそ本当の内政チートになるのではないでしょうか。」
姫様は相変わらず瞳を潤ませて僕を見つめているが、気持ちが落ち着いたのか静かに話しを続けた。
「最初は、粗末な服を恥ずかしげもなく身にまとい、農民と共に泥にまみれて働くお姿に、志村様のことを軽んじる貴族や庶民もおりました。
身分社会とはそういうものです。身分に合った服装や態度をとらないと上からも下からも馬鹿にされるものです。
身分の高い人間はただ威張っているのではなく、身分が判る服装や態度を通じてそれに見合う権限や責任さらに義務があることを周囲の人に示しています。
周囲の人からは身分に見合ったノブレス・オブリージュを求められるのです。
逆に志村様のように他の人と変わらぬ服装や態度の人は、自分で責任を取る気がないのだと見られます。
勿論、贅沢して威張るだけで無責任な貴族もいます。そういう貴族は軽蔑され信用されなくなります。
しかし、志村様は周囲からどのような誹りを受けようと、全く態度を変えることなく誰にも分け隔てなく接しておられました。それにも関わらず、責任から逃れようとはなさらず、流民達の支援に必要な費用も領民からの税ではなくご自分の財産から出しておられます。
家臣の登用も、身分や姿形に囚われずやる気や能力しだいで流民の中からも登用するので、有能なのに身分が低いために認められない人々が各地から志村様の領地に集まっております。」
「姫さん。それと姫さんとの結婚とどう繋がるの?
なんか、内政で最も大事なことは「人」って言う話とずれているような気がするんだけど」
タクがいぶかしげに口を挟む。
「ですから志村様が一番大切な存在なのです。
領地をうまく治めるにしても国を守るためにも志村様の存在が要となります。
志村様が理想とする政治を揺るぐことなく示し続けるならば我が国の政治は大きく変化するでしょう。」
「政治の真髄というか、そういうのを聞けるかと思ったんだけど。」
沢渡さんの言葉にファランシア姫が困ったように応える。
「皆様は私のことをどういうふうに思ってらっしゃるんですか。
私は皆様が言う中世程度の文明世界から来て、ほんの数週間こちらの文化を学ぶ機会を得ただけの女です。
ローザンヌ王国では王族として十分な教育を受けていますし、自分なりに人よりも多くのことを学んできたという自負はあります。
しかし、こちらの世界の政治家や学者が集まっても回答を見つけることができない政治の真髄など知るはずがないではありませんか。
私に答えられるのは、志村様の領地の経営についてだけです。」
「志村君の領地経営は解るの?」
サクラちゃんが不思議そうに首をかしげる。
ファランシア姫は軽く頷いた。
「私ならお助けできると思います。
ローザンヌ王国の王女として生まれ、あの国のことは詳しく学んでまいりました。
日本でも短期間ではありましたが、こちらの政治や経済について学びました。
志村様についても・・・・」
ファランシア姫は目を伏せてうつむいた。頬が僅かに赤らんでいるように見えるのは照明のせいだろうか。
「国王陛下は志村様と私を結婚させることで国内外の問題をまとめて片付けるおつもりだったのです。
私も王家と国民のために志村様と力を合わせて領地を治めていく覚悟はついております。」
王家と国民のため。
僕の心に何かが引っかかった。
やっぱり、外見が変わっただけで態度が変わってしまうような男では好意を持ってもらうのは無理か。
今朝、姫様に会った時に感じた重い塊がまた心に沈んでいくのを感じる。
「ファランシア姫。王女なら仕方ないのかも知れませんが、国のために好きでもないのに結婚しようというのならお断りします。
確かに、最初ファランシア姫の外見や年齢を聞いて国王からの申し出を断った僕に対して好意的になれないのはわかりますが、責任感や義務感から結婚してもお互いに幸せになれるとは思いません。」
ファランシア姫は慌てて椅子から立ち上がった。
「いいえ、決してそういう意味ではありません。
志村様のことをよく知らなかったのは私も同じです。
最初、アンジェリカに勇者様が興味を惹かれなかったことで、国王陛下が私に話しを持ちかけてきたときは、志村様の名前さえ知らないのに、ただ勇者様の妻になれると喜んでしまいました。
誰とも結婚せずにこのまま生涯を終えると思っていましたから。」
「アンジェリカって誰だ?」
タクが僕に尋ねた。
「召喚の場にいた王女様だよ。そこでドラゴンを倒して欲しいと頼まれたんだ。」
僕の答えにタクは笑った。
「テンプレだな。勇者召喚の場に綺麗な王女様がいて“私たちを助けてください”って言うのは。」
「いや、でも子供なんだよ。小学生にしか見えなかった。ファランシア姫ならいざ知らず、あんな子供が王家の代表だなんて・・・確かに可愛い子だったけど。」
「アンジェリカは十二歳です。我が国では適齢期ですし、今では大陸で最も美しい王女として評判で、既に外国から幾つかの縁談も来ています。」
「今ではって、以前は別の人だったの?」
沢渡さんの何気ない言葉にファランシア姫は頬を赤らめながら答えた。
「ちょうど私が十五になった年にドラゴンが我が国に降り立ち巣を作ろうとしました。
何度か追い払おうとしましたが騎士団や魔術師達に大勢の犠牲者が出ただけでした。
とうとう最後に、ドラゴンを倒した者に私を与えると国王陛下が宣言したときは、十を超える国の国王や王子たちが軍隊を率いてドラゴン討伐に向かいました。
国内の有力な貴族も領軍を率いて討伐に向かう者が少なくありませんでした。」
ファランシア姫が少し誇らしげに見えるのは気のせいだけではないだろう。
「勝ったのか・・・。って。
勝ってたらバカ殿様を召喚する必要もないか。それに姫さんも結婚してるはずだし。」
タクの言葉に姫様が苦笑を浮かべながら頷いた。
「はい。討伐に向かった人々の半数近くはドラゴンを見ただけで戦わずに引き返してきました。実物を見て怖気づいたのでしょう。
戦いを挑んだ王子達のうち三人が亡くなりました。
残りも、大勢の兵士を死なせて命からがら逃げ帰り、誰も倒すことはできませんでした。
Sランクの冒険者も、一騎当千と言われた英雄達の誰もドラゴンに傷をつけることさえ出来ませんでした。
最後に、王太子だった兄が王家所有の魔法武具を全て持ち出して、国王軍の半分を引き連れて戦いを挑みましたが、結果はご存知のとおりです。
それ以降ドラゴンに挑むものは現れなくなり、私はただ無為に年を重ねることになりました。
今では私の存在を忘れている者もいるでしょう。」
ファランシア姫は寂しげに笑いながら僕を見つめた。
「勇者様を召喚する場に私ではなくアンジェリカが選ばれた時、私は既に無用の存在になったのだと、その日は食事も喉を通りませんでした。」
バカ殿様に土下座させてファランシア姫を口説かせようと思ったのに、何故かファランシア姫のほうからプロポーズ。
やっぱりイケメンリア充は社会の敵ですね。




