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追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─  作者: 石田空


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デリバリーの相談

 港でカーラさんの炊き出しに手伝ってからというもの、ティーサロンに船を出してない漁師さんたちも来るようになった。

 もっとがっつりとした、サンドイッチとかを頼むのかと思いきや、意外なほど甘いお菓子を漁師さんたちは食べに来るのだ。


「美味い……肉もそうだけど、甘いものは船の上だったらあんまり食べられねえから……」


 その日出したのはパンナコッタだった。レモンソースをかけたそれは、ミントティーとよく合い、ミントティーを食べながらパンナコッタを食べている人たちがたくさん並んでいると、日頃相手にしている客層よりも横にも縦にも大きいせいで、いつもよりも店内が狭く見えてしまう。


「意外……漁師さんたちって、もっとこう、アルコールと塩分が好きなのだとばかり」

「それはですねえ。船上だと水は長時間は持たないんで、船の上に載せている飲み物は専らアルコールなんですよ。だから長期間の漁が終わったあとには、アルコールに飽きてるんですよね。ついでにどこを向いても潮水しかないんで、塩分にも飽きてます。陸の上だけですからね、こうやって甘いもの食べてお茶飲めるのは」

「なるほど……それは盲点だった」


 クローネの解説を聞いて納得した。

 そっか、浅瀬での漁と違って遠方漁に出ている人たちからしてみれば、だいぶ貴重なんだなあ。なによりも、甘いものを出している店は小島だと私の開いたティーサロン以外だったら神殿まで行かないと食べられない。

 そんなもんなんだなあと、私はしみじみと思ってしまった。


「もしリクエストありましたら、またメニュー考えますよ。次の遠方漁までに食べたいものありましたらどうぞー。なんでもはできませんけど、つくれるものだったら」

「ああ……なら、保存の利く焼き菓子が! 船上だったら食しか楽しみがないしなあ」

「保存の利く焼き菓子ですか……でも、船上だったら水は貴重ですし、あんまり水分ないものだと口の中ぱっさぱさになりません?」

「なら酒に合うといいなあ!」


 酒が進み保存の利くお菓子かあ……。

 あることにはあるけど、ほんっとうにぱっさぱさだから、今度やってきた漁師さんたちと試食会して採用か否かを考えよう。

 こうしてその日の漁師さんたちが帰っていった。大柄で言動も大きいものの、荒くれ者っぷりを考えると農民よりも紳士的だなあと思うのは、その分女将さんたちが強いからだろうなあ。家出娘たちがときおり漁師さんたちとデートするようになったのを微笑ましく思っていたところで、「こんにちはー」と声をかけられた。

 久しぶりのスザンナだ。今日も神官服で歩いてきた。


「あら、お久しぶりスザンナ」

「ミーナさん、ここでの暮らしは慣れましたか? ティーサロンも盛況だと伺っていますけど」

「うん。思っている以上に皆甘味に飢えてるから、出し甲斐があるしね。あと思っている以上にハーブティーが売れていくから、そろそろ買い足さないといけないかも」

「うふふ、繁盛してなによりです」

「あれ、ミーナさん。神官様とお知り合いですか?」


 クローネにそう尋ねられ、どう言ったもんかなあと考える。小島で私の前職を知っているのは、ジーノとスザンナくらいで、カーラさんにもクローネにも、当然ながら伝えていない。私が押し黙っていたら、スザンナがフォローをくれた。


「はい。本土に行く際にお世話になりましたから」


 上手い、スザンナ。たしかに嘘はついてない。

 それにクローネは「へえ……」と間延びした声を上げた。それに対してカーラさんは「スザンナが丘から降りてくるのは珍しいねえ、なにかあったかい?」と尋ねられた。

 話しを戻されて、「ああ、すみません、要件を伝えていませんでした!」とスザンナがポンと手を叩いた。


「ミーナさんに相談があるんです。デリバリーを頼めませんか?」

「ええ、デリバリーって……お菓子とお茶のデリバリー? 神殿に?」

「いえ。私がこの数日通っている灯台の灯台守さんです」

「あら……」


 スザンナは言った。


「はい、灯台守さんがぎっくり腰になってしまいまして。私も通って治療を行っているんですけどなかなかよくならなくって。でも灯台が使えないと皆困ってしまうでしょう? だから、元気になってほしくってお菓子をつくって持って行ってほしいんです」


 傍から聞いていると、それはただのお菓子のデリバリーにしか聞こえないけれど、だいたいの意図はわかった。

 スザンナだと手に負えないから、私に聖女の祝福を使って治療してほしいんだろう。そうだなあ、ぎっくり腰は一度癖になったら、神官の治癒魔法だけだったらちょっと動き回ったらすぐぶり返しちゃうもんなあ。

 私は頷いた。


「うん、わかった。じゃあデリバリーって、どんなお菓子だったら灯台守さんは喜んでくれるかな?」

「まあ! ありがとうございます、そうですねえ……ポネはどうでしょうか」

「ポネね。うん、わかった。それで考えてみる」


 ポネは王都で最近流行りつつあるチョコレートプリンのことだ。ただのチョコレートプリンと違うのは、生地の中にクッキーの一種のアマレッティを加えることで、ぷるんぷるんした食感の中にサクサクという固めのアクセントが加わること。

 たしかにこれならデリバリーしたら喜んでくれるだろうし……食べてるついでに祝福で治療もできるだろう。私は「よーし、つくるからクローネも手伝って!」と台所に入ることにした。

 ポネと合わせる飲み物は、ミルクたっぷりのシナモンローズティーがいいだろうとあたりをつけて、早速調理を開始した。

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