灯台守の親戚
ポネをつくるため、ひとまずはこの間焼いていたアマレッティをボウルに入れて、麺棒で叩いて砕きはじめた。
「焼いたアマレッティ砕いちゃうんですねえ」
「うん、生地に入れるときに食感がよくなるの。とりあえずクローネも手伝って。カラメルつくってくれる?」
「ああ、それくらいなら」
そう言いながらクローネは小鍋に砂糖と水を入れると、調理台に輝石を嵌めて火を入れはじめた。
「私、調理台に嵌めるのは魔法石だって思ってましたけど、ミーナさんのいた場所だったら輝石嵌めてるんですねえ」
「ハハハ」
魔法石と輝石には実のところあまり区別がない。
魔法石は魔力を込めて魔法を使えるようにするものなのに対して、輝石は聖女の魔力を込める石のことを差す。ちなみに私が定期的に輝石をつくってるのは他でもない。
聖女の魔力は定期的に加護や祝福で抜いておかないと、暴発したら危ないからだ。これは魔力が強い魔術師なんかもそうなんだけれど、定期的に魔力を引っこ抜いて溜めていたものをなんとなく使ったら、いい感じに魔法が使えるようになったからという話で、今も魔法石や輝石は燃料として使われている。
それはさておいて。クローネはいい感じにカラメルをつくりはじめた。
カラメルも焦がし過ぎたら苦過ぎて食べられないんだけど、クローネは日頃から漁師の家の子で魚の火入れをわかっているせいか、これ以上焦がしたら駄目というタイミングでちゃんと輝石を止めてくれるから、いい具合のカラメルをつくってくれる。
「できた奴どうしましょう?」
「そこにプリン型あるから、そこの底に敷いておいて」
「はあい」
その間に私はポネの生地をつくる。
卵を黄身と白身に分けてから、他の材料を取り出す。
この辺りだと貴重なココアパウダーに生クリーム、卵黄、砂糖を加えてよーく混ぜる。香り付けにはアーモンドリキュール。そして卵白はメレンゲにする。
プリン生地の中にメレンゲをちょっとだけ混ぜて馴染ませてから、少しずつ残りのメレンゲも馴染ませていく。生地とメレンゲが混ざったところで、先程砕いたアマレッティを投入。メレンゲの泡が潰れないようにざっくりと混ぜてから、生地をカラメルの入った器に流していく。
「あとはこれを蒸し焼きにして終わり」
「鉄板にお湯を入れて、オーブンで蒸し焼きにしますか?」
「んー……今日は量もそこまでないから、鍋でやっちゃおうか」
鍋にお湯を敷いて、その中にプリン型がお湯にかからないように並べて、沸騰させる。しばらく放置してたら、そこまですの入らないプリンになる。
出来上がったポネを蓋して籠に詰め、保温容器に淹れたミルクで割ったシナモンローズティーを入れると、「それじゃ灯台にまで行ってきまーす」と言って出かけていった。
今日は浅瀬漁はやっていたらしく、港のほうは賑やかだ。そんな灯台だから、灯台守がいないと困っちゃうもんねえ。私はスザンナが言っていた灯台へと向かう。
昔ながらの石造りのそれは質実剛健な雰囲気で、比較的カラフルな街並みの中では浮いて見えた。
「こんにちはー、神殿からデリバリー頼まれてやってきたティーサロンのミーナでーす。入って大丈夫ですかー?」
「あー、すまんねえ」
ガラガラの大声が帰ってきた。
「ちょっと腰をぐねっちまって立てねえんだわ!」
「あー、そりゃ大変ですねえ、すぐ行きますね」
こうして許可をもらって、私は慌てて灯台の中に入っていった。
灯台の作業台はもうちょっと上層部らしく、中は螺旋階段に、二階にはプライベートルーム。そこには小さな調理台に水道、そしてベッドがあった。灯台守さんはそこで寝ていた。スザンナが通っていたと言っているだけあり、手作り湿布のハーブの匂いが漂っている。
「やあ……ずっと神官さんに診てもらってたものの、なかなか治らなくってなあ……」
「まあ、神官さんでも祝福が使えるような人なんてそうホイホイその辺にいる訳ないですしねえ。湿布替えたほうがいいですか?」
「ああ、すまんねえ」
可哀想に、立ち上がれなくなっている。腰をやられたら、もう四つん這いになって生活するしかないけど、小島は基本的にあちこちに坂があるし、そもそも灯台守は階段を往復するのが仕事の一環だ。仕事にならなかったら駄目だろう。
私は湿布を交換しつつ、こっそりと自身の手先に魔力を溜め込んだ。
最近はせいぜい輝石に私の魔力を注ぐくらいしかしてなかったから、久々に魔力を練れるかなと思ったけれど、違和感なくちゃんと魔力は練れているみたいだ。私はそのまま灯台守さんの腰に魔力を流し込んだ。
聖女の祝福は、誰にでもできるものではない。魔力量がある程度多めに出せる人間が一定時間流し込まなかったら、祝福になんかならない。
私は湿布を貼り替えつつ、一定量の魔力を流し込むと、だんだん灯台守さんが「うん?」と違和感に気付いた。
「あれ、痛みが引いた……?」
「そりゃよかったですね。ああ、こちら神官さんから頼まれましたデリバリーのお菓子とお茶です。ポセとミルクシナモンローズティーです」
「お、おお! 久々だねえ……」
灯台守さんはおっこいしょと起き上がる。心配して若干介助したものの、私の祝福はきちんと効いたらしく、普通ベッドの縁に座ると、ポセを嬉しそうにすくって食べはじめた。
……うん? 久々?
「あれ、灯台守さん、ポセって最近王都で流行りはじめたお菓子なんですけど。私は最近まで王都にいたんで知ってますけど、ご存じだったんですか?」
「ああ、甥っ子が今王都で働いててね。前に遊びに来てくれたときにお土産にくれたんだよ。甥っ子が商売してるから、こうして珍しいココアとかも用意してね。いやあ、やっぱり美味いねえ!」
「商売……あ、あのう、灯台守さん」
私は前々から思っていたことを提案してみた。
「その商人さん紹介していただけませんかっ? うちもそろそろ王都から持ってきたハーブティーとか切れそうですし、ココアを入手できるラインが欲しいんですよ」
せっかく常連さんもできたんだから、こっちだってあれこれおいしい店は維持したいし。もしその甥っ子さんを紹介してもらえるなら渡りに船だ。




