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追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─  作者: 石田空


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聖女の性分

 白い髪に菫色の瞳。聖女の神官装束。たしか公爵令嬢が今回の聖女だとは聞いていたけれど、こうも高貴な身分の特徴ばかり出されたらこちらも身が竦む。


「ええっと……私が聖女様に教えられることなんて、なにもないかと思いますが……?」


 そもそも私、元農民だし。聖女もう辞めてるし。そんな人が今の聖女に教えられることってなによ。

 私がそう言うと、アダルジーザ様はぷるぷると首を振る。


「そんな謙遜は必要ありません。あなたのことを、誰もが素晴らしいと讃えてらっしゃいましたもの」

「いや、それは単純に私が信者にとって一番都合がいい聖女だっただけで、素晴らしいとか言って褒めてる訳じゃないと思いますよ。マジで」


 アダルジーザ様、多分本当に育ちがいいんだなあ。農民たちのいい加減さを知らない。もっとも、加護や祝福をもらわないとやってられない場所で畑作業をしている場所はその限りじゃないんだけど、そんなの普段から土地を見て回っている領主や農民じゃないとわからないもんなあ。

 私の言葉に、こちらのやり取りをずっと眺めていたスザンナが見かねて口を挟んできた。


「ミーナさん、そんなことおっしゃらずに。アダルジーザ様も本気で困ってらっしゃるんですから。私も残念ながら神官職までならば教えることができますが、聖女職に講義ができるほどの知識は持ち合わせておりません」

「スザンナ、そう言っても……」

「そもそもミーナさん、婚約相手が嫌過ぎて引き継ぎもきちんとせぬままに神殿飛び出したんでしょうが。このまま飢饉が来てもこの島は困らないかもわかりませんが、王都がどうなるかわからないんですよ? 他はたしかにミーナさんが被害者ですが、引き継ぎをし損なった一点だけはミーナさんが悪いです。ですから」


 そう思いっきり圧をかけられると、こちらも「やだー、もう聖女辞めたもん」とは言いづらい。ジーノも「そうですよぉ、ミーナさん」と訴えてくる。


「聖女様がいてくれて、農民は本当に感謝してるんです。たしかに無神経な農民が多いことも事実ですが、そうじゃない者もいますから、あまり目の敵にしないでください」

「んー、目の敵にしてるつもりはないんだけど……でもわかった。それで、聖女様はいったいなにをそこまで困ってらっしゃるんですか?」

「はい……わたくしの元に、たびたびに陳情にいらっしゃる方々がおられるんですが……」

「ああ、いますね。たしかに」


 神殿には定期的に村ぐるみで困っていることを訴えに来る人たちは大勢いた。

 それにアダルジーザ様は続ける。


「……なにをおっしゃっているのかが、わたくしには本当にわからないんです」

「うん?」

「土が痩せ衰えてこのままだともたないから、加護や祝福が欲しいとおっしゃる方がいらっしゃって……神殿まで来られるお金があるのならば、それで土を入れ替えればいいんじゃないかと答えたら、そのまま怒って帰られてしまって」

「……うーん」

「他にも治水が怖いという話とか、草の病気が怖いという話とか……はっきり言って聖女の役目と関係ないように思えて、これはわたくしの仕事ではありませんと答えたら、そのままどんどん悪い噂が流れるようになってしまったんです……わたくしの前の代では、いったいこれをどのようにしていたんでしょうか?」


 彼女は困り果てていたけれど、私は頭が痛くなっていた。

 アダルジーザ様の言い方は半分は正しい。でも半分は間違っている。


「……これについて、いろいろ言いたいことがありますが、まず村人たちがわざわざお金をかけてまで神殿に行くってことは、地元の神殿や領主との話し合いが上手く行ってないからというのがあります。だからアダルジーザ様が行わないといけなかったのは、聖女だからできないという話ではなく、村人たちの話を聞いたあと、事情聴取のために領主の元に足を運ぶことだと思います。本当にほとんどの領主はそんなことありませんけど、ときどき村人の訴えを全部領主が面倒臭いと完封してしまっていることがあります。が。聖女がそれを見た上で、やめろと言ったら、村人の陳情が通る場合があります。アダルジーザ様が行ったことは、奇跡を起こす聖女としては正しくても、聖女の持つ政治力を無視して発言したのだったら、それは間違っています」

「まあ……聖女は、そこまでやらないと駄目なものなんですか?」

「そこまでやらないと駄目です。というか、私は聖女やってたとき、ほとんど死にかけていた先代から、全部の訴えをそのまんま聞いていたら最悪加護死するけれど、加護を使わなくていい部分では聖女もできることがあるから、加護は最終手段と聞いた上で行動してました」


 そりゃなあ。安月給だし、これ聖女の仕事なんだろうかと自問自答したことなんて何度でもある。でもなあ。

 庶民は権力に負ける。訴えて無理だと言わない限り、不作で税金をまけてくれることなんてないし、蓄えまで持って行かれてしまうことだってある。

 不作だった際に、農民だったら最悪家の子を身売りしないといけなくなることだってあるし、そうしないと税金を払えないことだってある。

 聖女だったら、どれだけ象徴扱いされようが、政治的にいいように使われようが、意見ができるんだ。貴族が聖女をいいように使うっていうんだったら、それを使ってなんとか弱い人たちを守ろうとしてなにがいけないのか。

 そもそもアダルジーザ様は、聖女職を終えたあとに王族に嫁ぐ。その人が王様になるのかどうかまでは知らないけれど、庶民の苦悩をきちんと持ち帰って、国の偉い人に意見してくれたほうが嬉しいよ。そもそも私たち庶民側の聖女は、加護死したくないからというしょうもない利用とはいえど、向いてるとはお世辞にも思えない政治にだって口を挟まないといけなかったんだから。政治の中に嫌でも入らないといけない人だったら、余計にそのことを覚えて帰ってほしい。

 私の言葉に、しばらくアダルジーザ様は考え込んでしまった。

 まあなあ、彼女は今まで、話をすれば聞いてくれる人しかいない環境だったから、余計に農民からの訴えに困ったんだと思うし、どうしてそこまで嫌われるかわからなかったんだと思う。

 農民が欲しいのは、貴族たちとは違って、象徴ではなくって、実益をくれる聖女なんだから。


「わたくし、考えたこともありませんでしたわ。本当に困ってらっしゃる方たちを追い返すような真似をして。どうにかその方々ともう一度話し合いをしたいのですけれど、どうすればよろしいでしょうか?」

「……お菓子を持って話し合いに行くとか?」

「それは懐柔にはなりませんの?

「神殿でお菓子をつくるのはよくある話ですから。神殿のお菓子を持って行って、そこから少しずつ、なにが不満か聞きましょう。たとえば土が痩せている場合。土の入れ替えを領主に言えばなんとかなる問題なのか、傾斜とかの影響で土がふくよかで軟らかくなったら困る場所の場合は、加護を使ったほうがいい場合もありますから、一度見てみればいいと思います」


 そういえば、アダルジーザ様はお菓子つくったことあるのかな。

 私はスザンナに尋ねた。


「ここの台所借りていい?」

「ええ、どうぞ」


 わかってましたと言わんばかりに、スザンナににっこりと笑われてしまった。

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