聖女の訪問
その日はいい天気。私は洗濯物を干すものの、風の具合を見て、これは今日は大漁過ぎてお店に人は来なそうだな、どうしようと考えているときだった。
「ミーナさん、お疲れ様です。お洗濯もう終わりましたか?」
スザンナがやってきたのに、私は手を振った。
「ごきげんよう、スザンナ。今ちょうど洗濯物が干し終わったところ。私のつくったお菓子の反響どう?」
「ええ、ありがとうございます。お菓子作りをひとつミーナさんにお任せしたおかげで、少しだけ休める時間が増えました」
「うん、あんまりスザンナは無茶しちゃ駄目だよ。ジーノだって四六時中手伝いできる訳じゃないでしょう?」
「それなんですけど」
スザンナが口を開いた。
「王都に売り込みに出かけていたジーノが帰ってきたんです。そこでミーナさんとちょっとお話したいと」
「あらぁ……」
ジーノには、王都の現状どうなっているか見て来てって頼んだし、ティーサロンで話せる内容でもないしなあ。
私は「わかった、今日はどうせ店には人が来ないだろうし、クローネに店番頼んで神殿に向かうよ」と話をしてから、仕事にやってきたクローネに頭を下げた。
「ごめんね、ちょっとスザンナに呼び出されたから、神殿に行ってくる」
「はい? そりゃかまいませんけど。神官さんと話ですか?」
「うん。今日は多分人来ないと思うけど、店番頼んでいい? 今日出すお菓子は、焼き菓子だけでいいから」
そうは言っても、今日は普通に焼き菓子のアマレッティは焼いていた。あまりに残るようだったら、砕いてポセをつくろう。
私はクローネに任せてから、そのまま神殿へを向かう。そろそろレモンの収穫時期のせいか、すれ違うレモン農家の人たちは皆荷車を持ってせわしなく働いていた。
それを眺めながら、私が神殿に向かうと「ああ、ミーナさん!」とジーノが顔を出した。
「ジーノ。お帰りなさい。王都どうだった?」
「それが……ミーナさんが聖女を辞めたことで、王都がちょっと大変なことになってたんですけど」
「あらまあ」
神殿側はあれで頑張ってたんだけどね。問題は貴族側なんだよなあ。貴族側は、はっきり言って聖女を権力維持のためのオプションくらいにしか考えてないし、自分ところの娘の嫁入りのための箔付けくらいにしか思ってない。寄付してんだから権威を寄越せとか、そんな頭の中ギャングスターな連中が多過ぎる。
私はジーノが神殿内食堂で聞いてきた話を聞いて、私の予想が概ね正しかったことに「あらまあ」と言った。
「これ、どうしましょう?」
「というかねえ、これ私にはお手上げよ。いくら聖女やってたからって、貴族に意見言える立場じゃないし、基本的に神殿所属の部品扱いなんだから、こうなることは予想できたとしても、防ぐことは無理」
元々、聖女だって魔族がいてドラゴンがいて幻想種が跋扈していた時代だったら、威厳もあったし奇跡の力を使わないと助けられない人たちがいたんだろうけれど、今は時代が変わった。
貴族が聖女のことをパフォーマンスとして使うようになったら、そりゃ貴族出身の聖女は腰掛け扱いされて嫌われる。一方庶民出身の聖女は、魔力が枯渇するギリギリまで加護や祝福の力を酷使されて、あちこちの土地の改良や病気の治療に宛がわれる。
公爵令嬢出身の聖女だったら、そりゃ嫌われるだろうことは、今までのことを考えたら予想できただろうに、現場のことを知らなかった貴族たちは、聖女になった貴族令嬢に丸投げしたんだ。悪循環は止まらない。
「ですけど……このままじゃ作物が獲れなくなって飢餓になるやもしれません」
「そうねえ、この島の場合は大丈夫とは思うけど。ここでしか獲れない魚もあるし、この島ひとつ分だったら私の魔力でもなんとかなるし。でもよそが聖女の機能がどうにもなってないんだったら大変でしょうねえ」
「そんな他人事な……」
「というかねえ、魔力持ってるのって本来は貴族階級なのよ。庶民出身の聖女の魔力をギリギリまで搾り取る現状がおかしいんだから、そっちをどうにかしない限り、聖女のシステムが終わってるのは変わらないと思う」
私がそう言い切ったら「それなんですけど」とスザンナは口火を切った。
「そのことでミーナさんに教えを乞いたい人がうちに伺ってきたんです」
スザンナの言葉に私は「え」と言う。
ジーノが申し訳なさそうに肩を竦めた。
「すみません……聖女様が、先代のお話を聞きたいと伺いに来まして……」
「ごきげんよう、聖女様。わたくし、現聖女をしております、アダルジーザと申します」
私は思わず「ぴゃっ」と「みゃっ」の間の声で悲鳴を上げた。




