神殿のお菓子
牧場でジェラート機でつくる以上、うちみたいに出すお菓子と一緒に添えるものじゃなく、ミルクと一緒に混ぜられるものでつくったほうがいいだろうと、牧場のジェラートの味をいろいろと考える。
オーソドックスなのは、ココアと混ぜたチョコジェラート。ひと口食べると元々味の濃いジェラートのミルクの味に、ココアの風味が重なって思っているよりさっぱりとしながらもいい感じのジェラートができる。
続いて折角小島ではレモンをつくっているからと、レモン汁やレモンの皮を削ったジェラート。おいしいけど……こちらはレモンの味を強くしてしまったらチーズみたいな感じになってしまい、レモンらしいフレッシュさが足りない気がする。レモンだけでジェラートをつくったら、もう牧場と関係なくなっちゃうもんなあ。
「んー……レモンミルクはいい線いってると思うんだけど」
「いっそレモンジェラートは、レモンソースをジェラートにかけるって感じで、レモンソースを提供って感じに切り替えたらどうです?」
クローネがそう言ってくれたので、私は「おお」と言う。
「じゃあレモンソース、どれが一番ジェラートに合うか考えようか」
「まあそれくらいなら」
レモン汁を鍋に入れ、砂糖を加えてシロップ状にする。それぞれ砂糖の量や皮を加えて、どれが一番ジェラートに合うかを試食してみた。
「レモンの皮、私はおいしいとは思いますけど、この苦みがジェラートのミルクの味をえぐみにしてしまう感じがします」
「そっかあ……それじゃあ駄目かな。こっちはレモンの皮を削ったけど、苦い部分は入れてない分。もったりするようにバターと卵黄も混ぜてみたんだけど」
「あれ……これバターと卵黄入れてるのに、一番レモンの味が濃い気がします」
レモン汁だけだとどうしてもサラサラしてしまうし、だからと言って砂糖をたくさん入れたらあんまりレモンの味にならない。ジェラートのおいしさを引き立つようにとバターや卵黄の匂いが消えるように心がけたら、これが一番ジェラートにかけても違和感がない味になったみたい。
このレモンソースを牧場に持って行き、チョコジェラートも紹介してみたら、かなり女将さんは喜んでくれた。
「これ……おいしいね、これなら文句なしだよ」
「ありがとうございます。今後もジェラートよろしくお願いしますね」
「こちらこそだよ。うちのバターや生クリームも、いい感じに使ってくれてるみたいだしね」
「素材がおいしいと、本当になにを焼いても煮てもおいしいですから」
「アハハハハ! お褒めに預かり光栄!」
私はここでの材料の買い付けについても話をしてから、緩やかに牧場を降りていく。
今日は海から吹いてくる潮風が爽やかだ。いつもだったら少々べたっとした風なのが心地いい。そう思いながら私は風を浴びて歩いていると。
「あら、ミーナさん」
「スザンナ」
スザンナがよろけてたくさんの荷物の入ったリアカーを引いているのに、私は慌てて後ろに回って押しはじめた。
「ありがとうございます」
「別にいいけど。すごい荷物ね、これどうしたの?」
「はい。今度の礼拝のために」
「ああ、そういえばここでも礼拝してるんだっけね」
「港側の方たちはあまり神殿にいらっしゃいませんけど、牧場や農場の方はいらっしゃいますから」
海側と山側、緩やかに信仰が違うんだよなあ。
神殿も奉っている神様はそこまで形式張った神様ではないんだけれど、海側はどちらかというと海の精霊を信仰している印象。海の精霊は嫉妬深いから、あんまりよそ見しちゃいけないってことで、精霊を信仰している人たちは、神殿側のほうにあまり足を向けない。船の転覆とかしけとかに見舞われているから、そういう考えが根付くのかも。
一方牧場や農場は神殿がよく礼拝をし、そこに聖女や強い力を持った神官を呼んでいるから、普通に今でも聖女の力が現存していることを知っている。あの人たちからしてみれば、タダで肥料や災害対策をしてくれる聖女の存在がありがたいから、自然と神殿にも寄付をしてその年の豊作祈願を行う人が増えちゃう訳だ。
この辺りは聖女として各地で行脚していて知ったことだ。私の実家だと普通に神殿に礼拝に行くのが普通だったからカルチャーショックだったけれど、聖女の加護や祝福を海規模でなんか使ったら、普通に聖女も命を使い果たしてしまうから、そりゃ聖女の力を利権に使っている神殿側もさせないわなあと思ったりする。
それはさておいて。私はスザンナの載せている荷物を眺めた。
「礼拝用のお菓子?」
「はい、礼拝にいらっしゃった皆さんに配るんです。今回はカヌレを焼いたんですよ」
「カヌレ! でもこの量大変だったんじゃない?」
「まあ、ここの神官は私だけですからね、慣れちゃいました」
「相変わらず仕事熱心ねえ……」
スザンナはここで神官をして、礼拝にやってきた人たちの話し相手や畑の手入れ、礼拝に使うワインづくりやそれで出た消耗品でお菓子づくりなど、様々なことをしている。はっきり言ってひとりでやっていいタスクを越えてるから、少々サボっても文句はないはずなんだけど。
私は「んー……」と尋ねた。
「せめてお菓子づくりくらいはなんとかならない?」
「そうは言いましても……ワインを濾すのにどうしても卵の白身を使いますから、黄身を捨ててしまうのももったいないですし」
「その黄身、私がもらっちゃ駄目? なんかつくるけど」
「そりゃまあ……もらってくれるなら捨てずに済むのでかまいませんけど」
「黄身! 黄身があったらお菓子がもっとグレードアップするから!」
「ですけど……ミーナさんところ、普通に卵を使ってますよね? 卵の量増やしていいことってありますか?」
スザンナはますます困惑した顔をする。それに私は目をキラキラとさせて訴える。
「ほんっとうにいろいろあるから! 黄身は使い道無限大! カスタードクリームはわんさかつくれるし、黄身だけでクッキーをつくっても味が凝縮しておいしい! 崩れやすいのは難点だけど味はいい。カヌレだけをひとりでスザンナがつくり続けるのは、いくら料理も神官の仕事の内だからって、また倒れたら困るでしょう!? 今はジーノだって仕事で本土に行ってるのにいつもいつでも頼れないし!」
「そうなんですが……よろしいんですか?」
「任せて。神殿に出すくらいのお菓子はうちでつくるから!」
「……ミーナさんも大概だと私には思えるんですけど」
そうスザンナにツッコまれたけど、聞かなかったことにした。
知らなーい。私聞いてなーい。




