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追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─  作者: 石田空


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13/25

デートして帰る

 ルーチョに連れられてきたのは、牧場だった。

 たしか丘のほうにあるとは聞いていたけれど、この辺りにあることは知らなかった。のんびりと乳牛が散歩し、草を食んでいるのが見える。


「この辺りでジェラートを食べられるんだけど」

「ええ、ここで?」

「そうさ。ここは小島でもデートの隠れスポットだからね」


 見てみると厩舎から離れた場所には店舗がたしかに存在した。そこでは女将さんがせっせと魔法石のジェラートメーカーに搾り立ての牛乳を入れてジェラートをつくっているようだった。


「牧場の近くのジェラートってどうしておいしいのかしら」

「運ぶ際に、どうしても牛乳は船を越えて運ぶために水を加えて薄めたり、火を入れて煮沸したりするから、その段階で味が落ちるからね。煮沸せず水で薄めもしてない牛乳なんて、牧場の近くじゃなかったら無理だろうさ。夏場は青々しい感じがして瑞々しいし、冬場はたっぷりの蓄えた脂肪で味がまろやかになる。今の時期でも充分おいしいけどね」

「なるほど……ジェラート食べたい」

「はは、すみません、ジェラートふたつください」


 女将さんはルーチョを見た途端に変な顔をした。……この人、女将さん連中にどつき回された過去知られているみたいだけど、いったいどんな悪いことして呆れられたんだろうと、私は遠巻きに眺める。

 それはさておき「はい、どうぞ」とジェラートをふたり分くれ、私がお金を払おうとしたら、ルーチョが「それじゃあこちらどうぞ」とお金を支払いはじめた。やけにスマートなやり口だ。


「……ありがと」

「なに、俺が来て欲しくって呼んだのに、金を支払わせる甲斐性なしにはなりたくなかったからね」

「甲斐性なしとは思ってないけど」


 色ボケだと思っているだけで。とはさすがに口にしなかった。

 ひと口食べると、たしかに味が濃厚だ。こんなにおいしいジェラートは王都では当然食べることはできず、あちこちに加護のために巡行した先で食べるものだったんだけれど。そっかあ、小島だと食べられるんだなあと、この味の濃いジェラートに惚れ惚れしてしまう。それにしても。気のせいか甘い匂いが強い気がする。


「味もそうだけど……匂いがいい?」

「ああ、気付いたかな?」

「なにが」

「これ、うちが仕入れたバニラを入れてるんだよ」

「バニラ……バニラ!?」


 思わず悲鳴を上げた。

 バニラは香辛料の中でも、なかなか入手するのが難しい。王都でもバニラを使ったものなんて、あんまり食べたことがなかった。私はルーチョを見た。


「ルーチョ……」

「なにかな、俺の有用性に気付いたかな……」

「ココアだけでなくバニラも買い取りたいんだけど!?」

「……君、俺とのデートよりもそんなにお菓子のほうが大事?」

「私のセカンドライフのためのお菓子づくりですから、当然ですけど!?」


 ペロッとジェラートを食べ終えると、私は腕を腰に当ててそう謳った。


「そんなの、一番大事に決まってるじゃない!」

「ああ、そう……はい」


 ルーチョは引き気味の顔をしていた。失礼な人だな、とことん。

 ジェラートを食べ終えたあと、放牧している乳牛を眺めながら、プラプラと歩いた。丘の上からも潮風が吹き抜け、ときどき風が湿度を増してくるのに気付く。


「いい天気ね」

「そうだね。ところで、どうしてこの島に? うちはなんにもない島だから、わざわざよそから来るのが意味わからないけど」

「まあ、セカンドライフのために? 仕事をクビになったから、このまま実家に手戻っても、嫁に出されて肥料死するくらいしかやることがなかったから」

「ひりょうし?」

「あーあーあーあー……肥料になるくらいにまで疲労困憊になるほど働かされる的な意味で」


 おーおー危ない危ない。思わず「祝福使える嫁が農家に嫁いだら最後、死ぬまで加護と祝福使い続けて魔力切れで死ぬ」なんて言ったら、素性がバレるどころだった。さすがに聖女のことを誰も知らないここで、そんなことをのたまうのはよくない。

 私はできる限りヘラヘラしながらそう言った。それにしばらくルーチョは考え込んだような顔をして「そんなもの?」と尋ねてきた。


「そんなもんなんだよねえ」

「ふーん……そうか」

「ところでルーチョは甘いものより酒のあてが好きって言ってたけど。ジェラートは食べられるんだ?」

「ジェラートは、甘いというより冷たいを楽しむものだからかな。甘いのはあまり好きじゃないけど、冷たいものだったら、まあなんとか食べられるかな」

「甘いよりも、冷たい……そっか。わかった」


 私はひとつ新メニューを思いついた。


「また今度いらっしゃい。いろいろ取引できそうなお礼に、またなにか奢るから」

「奢るって……君はその妙な気前のよさ、少しは考えたほうがよくないかな?」

「いやあね、考えてるけど。ただ、あなたに感謝してるから、ちょっとお礼したくなっただけ」


 困惑しているルーチョは無視して「ジェラートごちそうさまー」と言って帰ることにした。

 いい天気だ。ジェラートもおいしかったし、今度牧場でジェラートを買い取れないか聞いてみよう。

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