第三十八話 「本当の決着」(中編)
夜風が、二人の間を吹き抜ける。
ジゼルはアルを見据えたまま、小さく笑う。
「148年間。」
「俺は、ダンジョンでずっと隠れてた。」
「その148年分の魔力だ。」
アルは剣先をジゼルへ向ける。
「ジゼル。」
「受け取れよ。」
一瞬の沈黙。
やがてジゼルは肩を震わせ、笑い始めた。
「……くくっ。」
「何を言い始めたと思ったら。」
アルは静かに右手を前へ突き出す。
「第二階級空間魔法――《オプティカル・ディレイ》」
その瞬間。
空間が大きく歪んだ。
目の前の景色がねじれ、大地ごと抉り取られていく。
「っ!」
ジゼルは咄嗟に横へ跳んだ。
轟音が夜の平原に響く。
さっきまで立っていた場所には、巨大な溝だけが残っていた。
(速い……!)
着地する暇もなく、アルが左手を振る。
「《オプティカル・ディレイ》」
二発目。
一直線に空間が裂ける。
ジゼルは前へ踏み込む。
頬をかすめるほどの距離でかわし、そのままアルとの間合いを詰めた。
「近づけば、お前は撃てない。」
刀が閃く。
キィィィン!!
アルは剣で受け止めた。
火花が散る。
一撃。
二撃。
三撃。
ジゼルは休むことなく刀を振るい続ける。
キル・ラディウスが周囲を切り裂き、大地が音もなく裂けていく。
アルは最小限の動きで受け流す。
そして。
鍔迫り合いになった、その瞬間。
アルが静かに呟いた。
「《オプティカル・ディレイ》」
「──っ!?」
至近距離。
ジゼルは咄嗟に飛び退く。
次の瞬間。
二人の間の空間が抉り取られた。
あと一瞬、遅れていれば。
身体ごと消えていた。
ジゼルは大きく距離を取る。
額を伝う汗を拭うことなく、アルを見据えた。
「さっきから、高位の魔法をバンバンと……。」
息を整える。
「なのに、魔力は増え続けてる。」
アルは黙ったまま立っている。
その魔力は、なおも膨れ上がっていた。
ジゼルは苦笑する。
「こいつの矛は……。」
夜風が吹く。
「あの方にすら届きうるかもしれない。」
アルはゆっくりと剣を下ろした。
そして。
右手を静かに掲げる。
「古代魔法。」
その一言で。
夜風が止んだ。
⸻
〈第三十八話・後編へ続く〉




