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第三十七話 「家族と仲間」(後編)

アルは震える足で、一歩前へ踏み出した。


「……グレイス。」


その名を呼んだ瞬間。


堪えていた感情が溢れ出す。


「ごめん……。」


「俺が……弱かった。」


「俺がもっと強ければ……。」


「お前は死ななかった。」


「俺が守れなかったんだ……!」


アルは拳を握り締めた。


唇を噛み、俯く。


「俺は……。」


「八年間、お前のことばかり考えてた。」


「復讐だけを支えに生きてきた。」


「なのに……。」


「結局、また何も守れなかった。」


グレイスは静かに微笑む。


あの日と変わらない、優しい笑顔だった。


「アル様。」


その一言だけで、アルの涙は止まらなくなる。


「私は、一度もアル様を責めたことはありません。」


「むしろ……。」


「最後にアル様が生きていてくださると分かった時、とても嬉しかったのですよ。」


アルは顔を上げる。


「……え。」


「生きていてくださった。」


「それだけで十分でした。」


優しい風が吹く。


畑が揺れる。


あの日と同じ景色。


「アル様。」


「あなたは、ずっとご自分を責め続けてきましたね。」


「ですが。」


「もう、ご自分を許してあげてください。」


アルは首を振る。


「できない……!」


「俺は、お前を……!」


「守れなかったんだ!」


グレイスはそっとアルの頭へ手を伸ばす。


温もりはない。


それでも、不思議と温かかった。


「アル様。」


「人は一人では生きていけません。」


「苦しい時も。」


「嬉しい時も。」


「誰かと共に歩いていくものです。」


アルの脳裏に、仲間たちの姿が浮かぶ。


レオン。


ルシア。


ギル。


クロード。


ネオ。


皆の笑顔。


「アル様には、もう大切な仲間がいるのでしょう?」


「その方々を、どうか守ってあげてください。」


「私の代わりに。」


アルは言葉を失った。


「私はもう、大丈夫です。」


「ですが。」


「皆さんは、今もアル様を待っています。」


グレイスはゆっくりと後ろを指差した。


アルが振り返る。


その先には。


レオンがいた。


ルシアがいた。


ギルがいた。


クロードたちがいた。


皆が、アルへ向かって手を伸ばしている。


グレイスは穏やかに笑う。


「あなたが進むべき道は、あちらです。」


「これからも。」


「あなたらしく。」


「困っている人を助け。」


「たくさんの仲間と笑ってください。」


「そして、いつの日か。」


「あなたが目指した景色を……私にも見せてください。」


アルの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。


「……ありがとう。」


「本当に。」


「ありがとう、グレイス。」


グレイスは最後に、深く一礼した。


「アル様。」


「お仕えできたこと。」


「私の一番の幸せでございました。」


その姿が、少しずつ光に溶けていく。


「待ってくれ!」


アルは必死に手を伸ばした。


届かない。


それでも、グレイスは最後まで笑っていた。


「行ってらっしゃいませ。」


その言葉とともに。


世界は白い光に包まれた。


___________


――現実。


ジゼルの刀が、アルの心臓へ突き出される。


あと数センチ。


その瞬間。


――ドクン。


アルの内側で、何かが弾けた。


(グレイスが、託してくれた命だ……)


膨れ上がった魔力が、身体の内側から迸る。


見えない波動が、刃を弾き飛ばした。


ジゼルは反射的に飛び退く。


「……何?」


刃を握る手に、僅かな痺れが残っていた。


アルは静かに立ち上がる。


涙の跡を拭い、ジゼルを見据える。


その瞳に、迷いはもうなかった。


右手を前へ突き出す。


「第三階級空間魔法――《テレプレペル》。」


空間が歪む。


衝撃波が炸裂し、ジゼルの身体を大きく吹き飛ばした。


アルは静かに息を吐く。


「……もう迷わない。」


「俺は前へ進む。」


「グレイスが託してくれた、この命で。」


その魔力は、先ほどまでとは比べものにならないほど膨れ上がっていた。


ジゼルはゆっくりと立ち上がる。


アルを見つめ、小さく呟く。


「……やっぱり、何なんだ、お前は。」


アルは剣を構え直す。


〈第三十七話・後編 了〉

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