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第三十七話 「家族と仲間」(前編)

アルは静かに言った。


「始めるよ…グレイス」


「あの日の続きを。」


次の瞬間。


アルの足元に巨大な魔法陣が展開される。


「第三階級炎魔法――《ギガ・フレイム》」


轟音とともに巨大な炎がジゼルを飲み込む。


熱風が平原を駆け抜け、大地が焼け焦げる。


だが。


ジゼルは、一歩も動かなかった。


静かに刀へ手を添える。


――スッ。


刀身が僅かに揺れる。


その瞬間。


巨大な炎は一本の線を描くように真っ二つに裂け、左右へ流れて消えていった。


「……。」


アルは目を細める。


(やはり。)


(厄介なのは、あの能力だ。)


(物理攻撃は届かない。)


(魔法ですら斬られる。)


(まるで、さっきのゴーレムだ。)


ジゼルは静かに歩き始める。


一歩。


また一歩。


距離が縮まるたび、張り詰めた空気が重くなっていく。


アルは自然と後ろへ下がる。


(俺を領域へ誘い込む気か。)


その時。


ジゼルが初めて口を開いた。


「……キル・ラディウス。」


「それが、このスキルの名前。」


アルは黙って耳を傾ける。


「僕を中心とした領域を作る。」


「その領域へ入った者は、自動的に斬られます。」


淡々とした口調だった。


まるで今日の天気でも話すかのように。


「ですが。」


「中心は、僕だけではありません。」


アルの瞳が揺れる。


「……何?」


ジゼルは静かに刀を傾けた。


「中心を、別のものへ移すこともできます。」


その言葉を聞いた瞬間。


アルは背後に違和感を覚えた。


振り返る。


一本の大木。


(……しまった。)


(誘導されていたのか!)


ジゼルは静かに呟く。


「キル・ラディウス。」


その瞬間だった。


世界から音が消えた。


大木を中心とした半径五メートル。


目には見えない領域が展開される。


草が細かく裂ける。


岩が音もなく砕ける。


風さえも切り刻まれていく。


そして。


アルの服が裂けた。


一拍遅れて。


腕。


胸。


背中。


全身へ無数の斬撃が走る。


「――ッ!」


鮮血が舞う。


アルは膝をついた。


(見えない……。)


(違う。)


(斬られたことすら認識できない。)


傷は増え続ける。


止まらない。


身体が悲鳴を上げる。


ジゼルはゆっくりと刀を抜いた。


――シャリン。


澄んだ音だけが平原に響く。


アルは息を呑む。


(まずい。)


(この一撃で終わる。)


ジゼルは感情のない瞳でアルを見下ろす。


刀が心臓へ向けて突き出される。


その瞬間――。


世界が白く染まった。


______


(……ここは。)


懐かしい土の匂い。


優しく吹く風。


聞き慣れた足音。


「アル様。」


その声に、アルの身体が震える。


ゆっくりと振り返る。


そこには。


いつもと変わらない笑顔を浮かべたグレイスが立っていた。


「アル様。また魔導書を読んでいらっしゃるのですか?」


「セル様が畑でお待ちですよ。」


「行かないと、また叱られてしまいます。」


アルの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。


「……グレイス。」


信じられなかった。


何度夢に見ても、もう二度と会えないと思っていた。


それなのに。


目の前には、あの日と何も変わらないグレイスがいた。


アルは震える手を、ゆっくりと伸ばした。


その手は、泣きそうなほど震えていた。


〈前編・了〉


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