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第三十五話 「再会」 

ネオが険しい表情で口を開いた。


「……とは言っても、時間に猶予はないぞ」


アルは力強く頷く。


「ああ。」


二人は崩れた岩壁を見据えた。


この先に、レオンたちがいる。


アルは静かに拳を握り締めた。


____________


――レオン班。


「急ぐぞ。」


レオンが地上へ続く通路へ向かって足を速める。


「まずは地上へ出る! 応援を呼んで、アルたちを助けるんだ。」


「ああ!」


Bランク冒険者も続く。


その時だった。


全員の足が、ぴたりと止まる。


空気が変わった。


肌を刺すような、禍々しい魔力。


呼吸をするだけで肺が拒絶するほどの圧迫感。


ルシアが小さく呟く。


「……何、この魔力。」


ニキの声が震えた。


「まるで……死、そのものが歩いてくるみたい。」


静寂。


足音だけが、ゆっくりと近づいてくる。


コツ。


コツ。


コツ。


暗闇の奥から、一人の少女が姿を現した。


長い黒髪。


血のように赤い瞳。


その髪を留める、金色の髪飾りだけが、暗闇の中で妙に鮮やかだった。


感情を一切映さない瞳が、レオンたちを見つめる。


ジゼル。


誰も動けない。


クロードだけが剣を構えた。


「全員――」


叫ぶ。


「戦闘態勢ッ!!」


その瞬間。


――世界から、音が消えた。


ジゼルの姿が、消える。


「――ッ!?」


視界が追いつかない。


呼吸の音すら、遠い。


次の瞬間。


仲間たちが次々と倒れ込む。


その瞬間だけ、世界は異様なほど静かだった。


――まるで、時間が止まったかのように。


クロードの思考が凍る。


(……見えない?)


(いや、違う。)


(“起きていること”を認識できていない。)


その静寂を破るように。


――ドォォォォォン!!


遅れて、音が来た。


クロードの身体が壁へ叩きつけられる。


岩壁が砕け、砂煙が舞う。


「ぐっ……!」


ギルの目が見開く。


(速すぎる……。)


(剣筋どころか、存在の”間”がない。)


Bランク冒険者が叫ぶ。


「全員逃げ――」


言葉は途中で途切れた。


衝撃だけが響く。


レオンが歯を食いしばる。


「みんな……!」


振り向いた、その瞬間。


――ドォォォォォン!!


レオンの巨体が吹き飛び、岩壁へ激突した。


「レオン!!」


ルシアの悲鳴が響く。


ギルが咄嗟に前へ出る。


しかし。


一瞬。


ギルは膝をつく。


「お前……」


ジゼルは振り返らない。


倒れた仲間に視線を向けることすらなく、静かに歩を進めていく。


その無関心が、何よりも恐ろしかった。


ギルは拳を握り締める。


「お前ぇぇぇぇぇッ!!」


____________


(この魔力……!)


アルの表情が変わる。


(間違いない。)


(あいつだ。)


アルは崩れた岩壁を見据える。


全身の魔力を脚へ集中させる。


爆発するように地面を蹴った。


――ドォォォォォン!!


衝撃だけで岩壁が砕け散る。


「なっ……!」


ネオが目を見開く。


「速さだけで壁を……ぶち抜いたのか!?」


アルは止まらない。


ただ一直線に駆ける。


(頼む。)


(みんな、無事でいてくれ……!)


煙を突き抜けた先。


そこには。


倒れ伏す仲間たち。


そして、その中心に。


一人の少女が立っていた。


ジゼルは、動かない。


ただそこに”在る”だけ。


まるで、戦場そのものが彼女を中心に静止しているかのように。


アルの呼吸が荒くなる。


「はぁ……はぁ……。」


怒り。


後悔。


憎しみ。


八年前の記憶が脳裏を駆け巡る。


グレイスが命を落とした、あの日。


(金色の髪飾り……。)


(あの証言の通りだ。)


アルは剣を構えた。


「……聞きたいことは山ほどある。」


静かに、一歩前へ出る。


「だが、その前に一つだけ答えろ。」


ジゼルを真っ直ぐ睨みつける。


「グレイスを殺したのは――」


「お前だな?」


少女は、何も答えない。


ただ静かに、剣を握り直した。


第三十五話 了


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