第十五話 「あの日から」
グレイスを失ったあの日から、俺の人生は変わった。
八年前――
「グレイス……。」
白い花に囲まれた棺。
その中で、グレイスは眠るように目を閉じていた。
「今までありがとう。」
最後まで、その一言を伝えられなかった。
これは、俺が弱かったせいだ。
弱いから、何も、誰も救えなかった。
俺は”強くならなければ”ならない。
何を犠牲にしたとしても。
グレイスの葬儀が終わってから、俺はすぐにヴァルトとオーグに面倒を見てもらうようになった。
ヴァルトとオーグは、俺にとって第二の親であり、師匠でもあった。
ヴァルトは戦い方と、生き残る術を。
オーグは知識と魔法を。
容赦なく叩き込んだ。
一歳になる頃には、この世界についてや礼儀作法などをオーグに教え込まれた。
三歳になる頃には、文字を覚え、本を読むことが日課になっていた。
五歳になると、ヴァルトから体術を学び始めた。
「ほら、まただ。右拳を振り上げるときに、僅かに重心が傾く。その小さな綻びが、戦場では致命傷になる。死ぬ気でやれ。」
そして、オーグからは魔法を中心に教わった。
「魔法の威力がいつまでも低下しないように、魔力の流れを均一にしなさい。お主はまだ魔法を扱っていいレベルではない。ひよっこじゃよ。」
そんな日々を繰り返し、俺は八歳になった。
今日も、山奥で魔法の訓練をしている。
「今日も張り切ってゆくぞ! アルよ。」
「オーグ、朝から何でそんなに元気なんだよ。」
「ほれほれ、あの山へ向かってやりなさい。」
「はい。」
「第二階級魔法――《オプティカル・ディレイ》」
一瞬――
世界から音が消えた。
次の瞬間。
地面が激しく揺れた。
眩い白い光は、山を丸ごと消滅させた。
指先が震えていた。
俺は両膝に手をついた。
「はぁ……はぁ……また魔力切れか。」
王都では、この魔法は撃てない。
だからこそ、山奥で訓練をしているのだ。
オーグが俺を見て言った。
「八歳にしては、よくここまで扱えるようになった。じゃが、まだ課題は残っておる。魔法を放つ時に魔力が少し揺らぐことかのう。今日の授業はここまでじゃ。王都へ帰るぞ。」
「待って。まだ教えてくれないのか? あのノートには何が書かれているのか。」
「そうじゃな。言える範囲で教えるなら、あのノートは、世界を”救う”モノでもあるが、間違えれば世界を”壊す”モノでもある……ことぐらいかのう。ほれ、早く帰らんとヴァルトの授業に遅れるぞ。」
オーグは歩きながら、小さく笑った。
「そういえば、お主も来月で九歳じゃったな。」
「……?」
「ヴァルトがお主を冒険者試験に出すと言っておったぞ。」
〈第十五話・了〉




