第十四話 「八年前のあの日」〈前編〉
これは、生後九ヶ月だった俺の話。
この日の出来事を、俺は一生忘れない。
――それは、翌朝のことだった。
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最初に案内されたのは、魔力測定室だった。
「これが魔力測定器? ただの水晶玉にしか見えないが。」
グレイスに抱かれた俺は、小さな手でそっと水晶玉に触れた。
魔力量が表示される――その寸前だった。
キィィィィィィィィン!!
耳をつんざくような、まるでこの世の終わりを告げるような轟音が、王都中に響き渡る。
「警報……?!」
一瞬で空気が変わった。
「何事だ!」
魔法師が窓へ駆け寄る。
その顔から血の気が引いた。
「南区画側から煙が……!」
南の空を黒煙が覆い、赤黒い炎がいくつも立ち上っていた。
そこへ畳み掛けるように、伝令が飛び込んできた。
「南区画から魔王軍が攻め入ってきています! 現在、敵はこちら西区へ向かって進行中! 冒険者や騎士団が反撃に出ていますが……戦線が維持できません!」
(魔王軍……? 俺も148年の間に何度も目にしてきた。だが、俺が知る限りでは大人しかったはずだ。何故、今このタイミングで……。)
グレイスは震える手で俺を抱きながら言った。
「ヴァルト様は……? それに、オーグ様はいらっしゃらないのですか?」
伝令は苦しそうな表情を浮かべる。
「ヴァルト様は現在、王と共に帝国へ向かわれています。騎士団長も同行中です……。」
「オーグ様は現在、王都へ帰還中ですが、まだ到着されておりません。」
「うそ……ですよね?」
魔法師の一人が冷静に言う。
「とりあえず避難しましょう。今の我々に勝つ術はありません。」
続けて、もう一人の魔法師が口を開く。
「この施設には地下避難区画があります。急いでください!」
「住民も地下へ避難させろ!」
書類が床に散らばり、机が倒れ、廊下には避難する人々があふれ始めた。
泣き叫ぶ子ども。
肩を貸し合いながら歩く老人。
状況が飲み込めず立ち尽くす職員。
王都は、たった数十秒で平穏を失った。
「アル様、大丈夫です。私が必ずお守りいたします。」
グレイスは強く、また強く俺を抱きしめた。
その腕には、不安と恐怖、そして決して離さないという強い意志が込められていた。
(何か策を講じなければ、全員殺される……。)
――ドォォォン!!
建物全体が軋む。
天井から砂埃が降り注ぎ、壁には無数の亀裂が走る。
(考える時間すら与えないつもりか……。)
「きゃあああ!」
「伏せろ!」
誰かの悲鳴が響く。
「急いでください!」
魔法師に誘導されるまま、長い階段を降り始める。
そして、地下最深部の大広間。
そこには、すでに数百人もの避難民が集まっていた。
総勢、およそ三百八十七人。
「こちらに非常用の食料がございます。皆様、何か少しでも口に入れてください。」
グレイスは静かに立ち上がった。
「アル様、待っていてください。今、もらってきますので。」
食料を配る魔法師の前には、長い列ができていた。
グレイスは食料を受け取り、安心させるように微笑みながら俺のもとへ歩いてくる。
――その瞬間だった。
(何だ……何かが、こちらへ凄まじい勢いで近づいてくる!)
(逃げろ、グレイス!!)
グレイスが振り返った。
一瞬だけ、俺と目が合う。
――ドォォォォォン!!
「アル様!!」
その瞳に宿っていたのは、
恐怖ではない。
覚悟だった。
「……アル様、無礼をお許しください。」
グレイスは小さく微笑んだ。
その笑顔は、どこか寂しかった。
「――テレプレペル!!」
俺の身体は、猛烈な勢いで地下の奥へ弾き飛ばされた。
伸ばした小さな手は、
もう、グレイスには届かなかった。
視界がぐるりと反転する。
俺の身体は石壁に叩きつけられ、そのまま床へと転がった。
「っ……!」
肺の空気が一気に押し出される。
息ができない。
腕も、足も動かない。
必死に顔だけを上げる。
その先には、崩れ落ちた大量の瓦礫。
(……しまった。)
俺とグレイスの間は、完全に塞がれていた。
「グレイス……!」
〈前編・了〉
お読みいただき、ありがとうございました!
お待たせしました。本日より『最弱アンデッド』の連載を再開します。
ここから王都編が本格的に始まります。
これまで以上に楽しんでいただけるよう頑張りますので、応援していただけたら嬉しいです!
次回もよろしくお願いいたします。




