↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/26

7.歩いていればいつか辿り着くのです

 夏季休暇前の終業式が終わった。

 

 夏休みはおよそ40日。

 

 この辺りも、なんとなく前世・日本のニオイがする気がするんだけど。


 どこぞの物語だろうが、長い休みには罪はないのだ。前世・大学卒業から数えて、夏休みなど無くなって十◯年。ありがたく頂きましょう。

 


 ただ、その前に。

 王子様と会わなくちゃならない。


 あの波乱のお茶会が、3日前。

 

 その後の2日は、夏季休暇中の課題を準備・説明の為に講義は長引き、領地に帰る準備も進めないとならないと、時間が取れなかった。

 

 そんな忙しい中、王子様側とも確認し合い。

 終業式後の領地に帰還する、少しの前の時間を使うことになったのだった。


 てくてくてく。

 足取り重く、ベリルと王子様が指定してきた場所まで歩く。


「それにしても、図書館隣接の広場で行うとは……終業式が終わり領地に帰還する者ばかりで、図書館に行く者は少数のみと、場所としては最適かと思いますが」


「はぁ……深く考えたくない……」


 ──なんで、因縁の場所を指定してくるの。


 ため息が隠せない。

 忘れたい失敗なのに、なぜ蒸し返すのか。


「クラリッサ様、嫌なことを後回しにしても、良いことはないのです。早く行って、すっぱり終わりにしてきましょう。ただでさえ先程、ご友人の皆様との挨拶に時間を費やしてしまっているのです。急ぎますよ」


「はぁ〜い……」


 そう返事しても、ほんの少し歩く速度を早めただけである。


 しかし無情。少し遠いとはいえ、同じ魔学内。歩いてれば着いてしまう。


 図書館は、図書館と広場を囲むように広い林がある。今回は近道せず、整備された広場の入り口へ向かおうとした時だった。


「クラリッサ・アルドン侯爵令嬢と、その侍従ベリルですね」


 先日、近道をしようと林に入って行った辺りで、急に声を掛けられた。

 王子様ではない男性の声。


「はい、そうです。こちらはクラリッサ・アルドン侯爵令嬢でございます。わたくしは専属メイドのベリルで間違いございません。太陽と銀なる聖盾(せいじゅん)にかけて誓います」


「私はアレクシス第一王子の侍従、エドワード・G・ナバルと申します。殿下より本日の会の案内を申しつかりました。こちらへどうぞ」


 太陽と銀なる聖盾(せいじゅん)と言うのは、太陽は王様。銀なる聖盾は、この国全体を覆う大結界、ということを意味している。


 大結界は銀色で、一定の条件がそろえば目視できるらしい。見たことないけどね。

 

 なのでベリルの言った言葉は、どっちも国にとって一番重要なものに嘘偽りは言えません!って感じかな。


──しかし、どうぞ、って言われても。

 目の前、林なんですけど。

 私が使おうとした近道の、すごい近いところの。


 侍従さんは真っすぐ林に歩いて行くので、仕方なく付いていく。


 ほとんど歩いてないくらいの所、林に立ち入って3メートルくらい進んだところで、立ち止まられる。


「失礼、少しの間、待って頂けますか」


「はい。畏まりました」


 ベリルが護衛も兼ねてるので、わたしの前を歩いて貰っている。なので返事もしているけど、わたしが大きくないせいで、ベリルの真後ろでは見えない。

 少し横に移動して、前方を見る。


 様子を見ていると、侍従さんが右手を前に差し出し、左手でペン型の魔道具を持ち、魔力を込めだした。


 ザザザザザザザザッ!


 木が揺れだし、両側に避けていく。

 道幅は1メートルないくらいだけど、十分歩けるくらい。


 ──魔法と魔道具の合成術だ!珍しい!


 土と風と、闇、かな。

 領地では使える人いるけど、魔学では初めて見た。

 

 って、あれ?侍従って魔法使えなくされるんじゃなかったっけ。

 合成術が発動した方向と、侍従さんを交互に見ると、バツが悪そうな顔になって少しだけ話してくれた。


「申し訳ございません。今の件は内密に願います。王家の者の筆頭侍従のみ、楔(くさび)の魔道具は付けないという事になっておりまして。実はその件への反発もございまして……」


「畏まりました」


 ──出来るメイド、ベリルはちょびっとの説明で事情まで察せるみたいだけどさ。

 あとでその辺の事聞いてみないと。



 ===========

 


 ──あ、もうちょっとで林抜けるね。


 しかし今度は失敗しない。

 ちゃんと上下左右、自分の目でみる。


 うん、何も足元にない。大丈夫。


 でも、視線の先に、アンネリゼ様とナッティが張った結界より、更に分厚そうな結界が張ってあるのは頂けない。思わず眉間にシワが寄る。


 ──入ったら、何する気なの。あれは。


 結界の手前で立ち止まって眉間にシワを寄せていると、慌てて侍従さんが説明をしに近寄ってきてくれた。


「……申し訳ございません。強力な遮音と視界阻害の結界内に異性を招くなど、本来は避けるべきなのですが。殿下は、先日のお嬢様達の見事な結界に嫉妬を覚えておりまして……アンネリゼ嬢だけでなく、ナターリエ嬢も一緒に張ったのだと進言したのですが、聞いてくださらず。ご令嬢と2人きりになど絶対にさせませんので、どうかご容赦を」


 ──侍従さん、苦労してそう。

 

 こうなってくると、王子様を止めるのに魔法が必要なのかも、とか考えてしまう。

 

 まさか、ね。


 意を決して、結界の中にベリルと入っていく。

 

 

 

「クラリス!!!よく来てくれた!」


 ぱぁぁぁぁぁ!と効果音がついた様な顔で、両手を広げたキラキラと輝く王子様が、こちらに歩いて来る。


 ──やば!抱きつかれる!?


 と、思った瞬間。

 目の前にベリルがザザっと現れた。


 ──えっ!?今、残像が見えた気が!


 目をパチパチしている間に、ベリルは挨拶の姿勢になっていた。荷物を持っているから、浅く膝を曲げるだけど。

 

 王子様の初手を止めてくれたので、もう大丈夫だろうと、ベリルの半歩だけ前に出て、挨拶をする。


「緑溢れるこの季節。我が国の太陽、その尊き御子さまであられる、アレクシス・フォン・エーデルベルク様に、アルドン侯爵家のクラリッサがご挨拶を申し上げます」


「本日は宜しく頼む。クラリス、楽にせよ」


「ありがとうございます」


 姿勢を戻して、今度は王子様を見てお礼を言う。


 ──あ、ちょっと苦笑いしてる。

 さっきのはマズかったとか思ってくれてそう。

 

 ちらりと横を見ると、侍従さんが王子様の真横で圧をかけていた。


 ──わー、あれ、わたしがポカをやらかした時、ベリルも良くしてる笑顔だ。怖い怖い。

 


「そちらに掛けてくれ。

 そなたが作った菓子には敵わないと思うが、私が気に入っている、食べやすい物を選んでみたのだ」  

 

──なんで自作お菓子の事、知ってるの!?


 王子様に案内された椅子に、ベリルに引いて貰って座って、すぐ驚愕。

 

 ──ほんと、エスパーなの?

 心読めるタイプの。


 座ってすぐピキーン!と固まって動けなくなる。


「ごほんっっっ!!!」


「っっっ!すまない!何か失言したようだ!」


「えっ」


 てっきりベリルが、わたしが固まったのを解そうとして咳払いしたと思ってたら、違ったらしい。


 身体は固まったまま、視線だけ上げると、侍従さんと王子様が、目だけで語り合って……いや、また侍従さんの怒りの視線を王子様が一方的に受けてるな。

 王子様、目だけ挙動不審になってるもの。


 そんな行動をみていたら、ふっと力が抜けた。


 やり取りが、わたしとベリルに似てたから。

 安心したのかも。


 王子様対しては、わけのわからない事が多いけど。

 まずは、さっき言われた事を聞いてみよう、と思うくらいに強張(こわば)りが解けたのだ。


「あの。どうして殿下が、わたくしが菓子を自作している事をご存知なのでしょう。伺っても宜しいでしょうか?」


 わたしが話を切り出したので、王子様も目が挙動不審じゃなくなった。安心。


「ああ、そのことか……。アンネが、しつこい程話しをしに来ていてな。そなたとの茶会の後は、必ず絡まれて『クラリスが作ったお菓子は大変美味しい』と、自慢ばかり話されていた。王城での教練に逃げていても必ず捕らえられ、自慢話を聞かさせれていたのだ」


「ひいっ!アンネリゼ様、そんな事を!?」


──美味しくて、皆に宣伝してくれるのは嬉しいけど!

 なんで王子様を探し出してまで!?


「まあ、ここ一月は、貴重な情報源なのだと、待ち構えていたがな」


 ──だから、そういう!

 反応に困って何も出来なくなる事、言わないで下さいって。


「ん"ん"ん"っっっ!!!」


「はっ!すまない、つい本音が!!」


「ん"ん"っ!!」


「む!……気を、つける」


 王子様が変な事言い出すたびに、侍従さんが咳き込んでる。


 ──なるほど、侍従さん、ストッパーの役割なのね。ちょっと面白くなってきたんだけど。


 それに、この人がいれば、変な事にはならなそうじゃない?


「あの、本日、わたくしからもお菓子を持参いたしましたの。先日のお詫びを兼ねまして……さすがに、手作りではないのですけれど」


 ぱぁぁぁぁぁっっ!


 王子様の顔が一瞬で輝きだした。


「それは嬉しい!ありがとう、クラリス!アンネの話を聞かされるだけというのが、どんなに羨ましく悩ましく妬ましかったか!アルドン領出身の者に聞いても知らぬと言うし、困っていたのだ!」


「ん"ん"ん"ん"ん"ん"っっっっっ」


 

 ──王子様。

 そろそろ侍従さん、ノド痛めちゃうから。

 大人しくしてあげた方がいいんじゃないかな。




 

魔道学院は全寮制ですが、王家の者と一部の関係者は王城との行き来が許されています。

帝王学や執務の仕方を教わらないといけないからです。

アンネリゼ様も同時ではないですが、たまに通って教わっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。