6.呪いの手紙を初めて見ました
姿勢を正して、皆の意見を待った。
「アレクの腹を踏みつけ、ぶふっ、失礼。踏みつけて挙句逃げてしまった、と言うのは、まぁ、本人も謝罪は必要ないと発言したようですし。置いておきましょう」
──よっぽど王子様踏みつけ事件は、アンネリゼ様のツボらしい。まだ言葉を出すと笑いだしちゃうみたい。我慢してるけど。
先に続けて欲しいので、こくこく頷き返す。
「アレクが何故、あなたを特定できたのかは、本人に問わなければ分からないでしょう。ですので話せるのは、手紙の方です」
「……えーと、手紙。わたしの侍従に聞きながら、対処を考えたんですが」
「アレクの手紙の内容はこれ以上聞きたくありません。が、あなたが出した返信は、魔学同士、しかも同級生という時点で相応しくないわ」
──え?まずいの?
貴族言葉、必要と思ってなくて勉強してないんだよね。
「最初しか確認してなかったのですが……確か、
『太陽の光では
新月を照らす事は出来ません
日の出と共にいづる光は
新月の頼りない輪郭ですら
消してしまうでしょう
中天で最も光輝く時には
闇の中で眠るしないのです
いづれ月満ようと待っても
闇の加護は厚く 少しの輪郭さえ
太陽には見えないでしょう』
と言うものだったかと。」
「淡々と語る辺り、本当に理解していないのですね」
「はい……。面目ございません。何やら太陽が月を探してるのかな、という印象しか分かりませんでした」
「その印象は理解できたのですね。そこは合っていますが、全体の印象では違いますわ」
そうして、一文ずつ解釈を教えてもらって驚愕。
"あなたに会った事もないのに、何故会いたいなど言ってくるのか。両親に許可も得ず会いたいなんて失礼すぎるでしょう。絶対に会わないので、もう連絡してこないで"
そんな内容だった。
───ベリルーーッ!!!どういう事!?確かに『きっちり断る』とか言ってたけど!
後ろのベリルを、ばっと振り返ってジロリと睨んだけど、ニコニコ笑ってるだけだった。
説明してよ!と更に睨むと、口を開いた。
「クラリッサ様が殿下を踏んづけて転んだ件は、謝罪済で問題無しという事になっているのですから、何がいけないのか分かりません」
「いやいやいや、相手、王家よ。王子様よ?断るにも、それなりの礼儀が必要でしょー!?」
「実際には無礼な返信にも関わらず、毎日欠かすことなく、会いたいと手紙が来ていたではありませんか。結局、無礼だろうと何だろうと向こうは諦めていない様子。これが現状です」
正論に、ぐうの音も出ない。
「まぁ、そうですわね。毎日あの内容。しかも代筆で送っているにも関わらず、心折れないとは。称賛に値しますわ」
アンネリゼ様の言い分は確かに、と思う。
なんでめげないのだ、とも思う。
毎日よくネタを考えられるものだ、とも思う。
はぁ、とため息をひとつしたところで、ナッティに爆弾を落とされた。
「殿下の仰った事で気になるところは、もう一つございますわ。毎日、領地にも手紙を送っていると仰っておられませんでした?」
「そういえば言っていたわね。わたし、クラリス様のご両親が殿下にどういった返事をしてるかも気になります!」
──はっ!!確かにフィンの言う通り、領地へ送られた手紙に、両親は返信を送ったはずだ!
こういった手紙は無視は出来ないから、可でも不可でも何かしら送り返すはずだ。
また恐る恐るベリルの方をみると、またニコニコしてる。
──このニコニコ、多分お父様がウザい時にみせるウソ笑顔だ。
笑ってるのに圧が凄い。
父は大変な親バカである。
わたし宛ての異性からの手紙なんて、見たら何をするのか考えるのも怖すぎる。
ベリルはわたし専属だから、父の親バカ由来の被害が多い。
「実は、こんなこともあろうかと、領地から殿下への手紙の写しを手に入れまして。今、ご用意いたしますので、少々お待ちを」
「まぁ!優秀ですのね!色々と知りたい年頃の女心を理解している、素晴らしい侍従ではありませんか!」
──大変イヤな予感がする。
ベリル、ご令嬢方に見せてドン引きさせて胸をすかせる気ではないだろうか。アンネリゼ様、キラキラ期待させて申し訳ないです。心の中で謝ります。
ベリルは、またどこからか出したのか記録の魔道具を取り出し、わたしとアンネリゼ様のちょうど中間くらいの所に設置した。ナッティとフィンはウキウキと移動して、わたしたちの後ろから覗き込めるように位置を調整している。
魔道具は、5cmくらいの大きさの裾が広がる四角柱の上に、ピンポン球くらいの球が付いた形のものだ。
台座に触れると、A4くらいのホログラムの様なものが目の前に浮かぶ。
【 死 】
おどろおどろしい字で、それだけ書いてある。
──なんじゃこりゃーーーー!!!
筆で書いて、すぐ持ち上げて、わざと墨が下に垂れまくってる。
前世・日本で良く見た、じめじめしいホラー系フォント!しかも、うまく紙も恨みがましく汚してあるし!
しかし、わくわくしながら覗き込んでいたアンネリゼ様、ナッティ、フィンは、まだコレの怖さは分かっていなかった。
「なんですの?これ」
「殿下への返信って言ってましたわよね?」
「これ、絵ですか?周りの汚れも、何だか中心と統一感ありますよね?」
──な、なんて説明すればいいの、これは!
お父様め!!なんてもの書いてるんだ!!!
わたしが説明出来ずにいると、ベリルが話し始めた。わたしもどう説明するのかと思い、顔をベリルに向けた。
「これは、東洋の文字でございます。東洋では一文字でも、意味が完結するものがあると聞いています。」
「まあ!侯爵は東洋の語学も堪能でございますのね!」
「これ、文字でごさいますの。一文字がずいぶんと複雑ですのね」
「ふむふむ、意味もこれだけで完結ですか。で、何と約するのですか?こちらの言葉では」
アンネリゼ様、ナッティ、フィンの順でそれぞれ感想を言ってる。こんな事で語学堪能とか言われるの嫌なんだけど。
──お口チャック。ワタシシャベリマセンヨ。
ベリルにキッと視線送って、しゃべる気がない事を訴える。変な事しゃべって前世の事まで知られるのは困る。
今でさえ不審で突飛とか言われてるのに。
「これは、死、という意味らしいです。ただ、死という言葉だけで、死ぬとか、死ねとか、死んだ、などの何かしらの言葉を付けねば、ただの概念らしい、とのことでございます」
「「「…………ひっっっ…!!!」」」
「なんてこと!侯爵、そんな手紙をアレクに送ったの!?娘が大切すぎますわ!!!」
「さすがクラリス様のお父様ですわ!!!」
「主従揃って怖いものはないのね!!!」
──怖ろしい言葉を王子様に送りつけたのに、ちょっと驚いただけで、感想が斜め上になる友だちって、どういうことなの。
よくよくベリルを問いただすと、お父様が3通目に全く同じものを送ろうとしていた時、直前にお母様に見つかったらしい。
以後はベリルが考えたものよりは優しめの貴族向け返信を送っていたそうだ。
──2回も、おどろおどろ呪いフォントの手紙、送ってるんだよね。王子様に。
お父様め!
これで娘が脅されたりしたら、本末転倒じゃない!?
一気に疲れたけど、さすが女子。
話が飛ぶ飛ぶ。
その後は、和気あいあい夏季休暇前に王子様に会うのでしょう、そのやり取りが聞きたい、領地にはいつ頃合流できそうか、色々と決めた後、お茶会を解散する時間になった。
髪をきっちりと、ベリルに直して貰い、キチンと丸メガネをしてから結界を消してもらったのだけど。
こっちの姿の方が見慣れてるハズなのに、皆のガッカリした顔はなんなのだ。
納得できない。
フィンの言葉はどんどん崩れてきます。
誤字ではないのでご安心を。
あと、魔道具は記録のものなだけで、お宅の娘さんに会いたいなど、畏まった手紙は紙でやりとりしています。
日本みたく次の日に着くわけではなく、クラリッサの領までは2日〜3日というところです。
普段は通信の魔道具を使う事が多いです。
動画タイプもあれば音声のみの魔道具もあります。




