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4.5cm上げ底の靴ですけれど、何か問題が?

 あれは、今から一月前くらいの事だ。


 講義を終え、寮に戻る前に調べものがしたいと考え、アンネリゼ様たちとは別れ、図書館に行こうとしていた。


 ただ、その図書館。魔法の影響や被害から遠ざけたいのか、校舎からも寮からも離れた所にある。


 そこまでの道はキレイに整備され、行き先案内の魔道具を使えば基本は迷う事はないのだけど。


 問題は距離だ。

 真っすぐ行けたとしても遠いのに、科目別の棟や先生たちの研究棟などが、それぞれ影響し合わない程度に乱立してるせいで、ぐにゃぐにゃと迷路のようになってしまっている。


 ──今日も、通れそうな近道を探しながら行こう。


 そうして、少々近道できそうなところを通り抜け、正規の道にでては、入れそうな所はまた近道と、てくてく歩いてく。


 前世・日本だと、6〜7月なんて蒸し暑くて、屋内にしかいたくない!なんて感じだったのに、ここは少し気温は高いけど、何だかカラッとしていて、気持ちがとても良い。


 前世は引きこもりバンザイだったのに、少し長く歩くのも苦じゃないし。魔力繰りの練習に外に出る事も多くなっている。


 自分の魔力の問題で、誰もいないところで練習しないといけない、っていう理由もあるんだけどね。

  

 もうすぐ図書館というところで、最後の近道。木が連なっている所を抜けると、広い公園があるので突っ切ることにする。


 木漏れ日が気持ちいいな、なんて思いながら、もうすぐ広場というところで、一歩踏み出した瞬間だった。


 

 ─────ぐにゃり。


「……んぐっ、!!??グウウゥゥゥ……ッ」


 ──えっ???こ、声!?

 

 んん??????

 

 木の根っこじゃない、なんか柔らかいもの踏んだ!

 柔らかすぎて、足首ゴキッて変な音が……。


 あああっ、踏ん張れない!


 転ぶ!!!


 バターン!!!

 ゴンッ!ブチッッッ!!ぞりぞりッ!!!


「っっ、いったぁぁぁい〜〜っっ!!」


 アスファルトも転んだら痛いけど、木の根も相当痛い!!!


「いったいなにーー!?動物でもい、た…の…………」


 転んだ原因を、上半身だけ少しひねり起こして、にらみつけようとした瞬間、全身が凍りついた。


「んんっ、そなたは人を思いきり踏みつけておいて、ぐぅぅぅ……、真っ先に謝罪の言葉は出ないのか」



 前だけ少し長めのツヤツヤの濃い紺色の髪。

 アーモンドみたいな形の綺麗な金色の瞳。

 大きさも形もとてつもなく良い唇。

 

 そして、その全部が完璧の配置な顔。

 

 

── お  う  じ  さ  ま !?

  

  

「……たた、たたたい、大変、もも、もう、申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁーーー!!!」


 ジャンピング土下座、知っていて良かった!華麗に披露っ!!!わたし一番の精一杯の謝罪だっ!


 ジャンピングした瞬間、王子様のお腹の真ん中に、くっきりはっきりとキレイにハンコ押したみたいに、がっつり靴跡があるのか見えた。


「本当に、本当に申し訳ございませんでしたぁぁぁ〜!!!」


 額を地面にすりつけて謝罪するなんて、前世と今世あわせてウン十年。初めてであった……。

 


 ===========

 


「もう、よい。起き上がれ。それに、なんだその謝罪は。令嬢がいつまでも地面にへばりつくものではない」


「ぎょ、御意ぃぃぃっっっ!」


 許しがでたので、土下座から正座になる。


「ギョイ?なんだそれは?聞き慣れないが、どこの言葉だ?」


「あ、了承の意味合いでございまして、東方かどこかの言葉だったと思いますが、どこで知り得たかは忘れました」


 ──まっずい、つい前世でみた某医療失敗しないドラマのセリフがボロっと出てしまった!

 焦り過ぎ!わたし!!!


「先程の地面にへばりつく謝罪も、その東方かどこかのものか?」


「へぁ?あ、はいそうです。最大級の謝罪を現すものでございまして、土下座と申します。これは東方かどこかあたりの文献で読んだ記憶がありまして!」


 ──本当は、某大作龍探求ゲームをプレイしたから知ってただけです!


「ドゲザ……。ふ……、まぁ、よい。踏みつけたのは、わざとではないのだろう?」


「それはもちろんでございます!あの、あの、い、言い訳を少しいたしますと、図書館への近道に、広場を抜けようとしまして…ここのあたりまで来て、視界がこう、ぱっと開けたため足元は不注意でした。申し訳ございません……」


 身振り手振り、向こうからあちらと、説明する。


「いや、私も気配を消して休んでいたしな。悪いと言えば、運が悪かったんだ。だから、謝罪はもういい」


「殿下、ありがとう、ございます……」


 ──なんか、ちょっと感動した。

 

 アンネリゼ様と対峙してる時と違って、不遜な態度じゃ全然ないし。グゥ!とか唸ってたから相当痛かったろうに、八つ当たりもしてこないし。

 

 王子様、見直したよ。ちゃんと良い人。地位が高すぎる人だって、ちょっと色眼鏡でみてたよ。


「……ところで、そなた、今まで会った事があったか?私を知っているということは、魔学内の者であろう?紫の瞳ということは、アルドン家の系列の者か?」


「えっ……?あああーーーっ!?」


 瞳の色を当てられて、ハッとする。耳の横に急いでて当てると、認識阻害機能付き大きめ丸メガネが無い!


 ──さっき盛大に転けた時、外れたのか!


 キョロキョロ探すけど、木と草だらけで全く分からない。急いで魔力を薄く地面に向かって流してみる。

 自分の魔力は短距離なら簡単に判別出来るのだ。


 ──あ、あった!良かった、遠くに飛んだりしてなかったみたい。


「ん?その眼鏡は……」


 ──うわ!メガネ探しに夢中になって、王子様のこと忘れてた!

 

 そういえば、この人、わたしがアンネリゼ様の取り巻きの内の1人だとか、全然気付いてなかった!

 

 今、メガネを掛けるわけにはいかない。

 

 同一人物と気付かれる。さっと後ろ手に丸メガネを隠す。

 

 ──ここは、ヘタする前に逃げるべき!謝罪いらないって王子様が言ってたんだし!!!


「あああ、あの、わ、わたくし、急用を思い出したので、これで失礼します!!!」と、言いながらペコリと90度お辞儀を高速でして、今向いてる反対方向に走り出した。


 木だらけだけど、この姿を他の人に見られるわけにはいかない!と、元々来た方向へ戻ろうと思ったのだ。


「あ!おい、待て!!!」


 引き止める声が少しずつ遠くなるのを聞きながら、来たときはしてなかった風魔法を足に付与して、速度を上げて離れていった。

 



 ===========

 

 


 念のため、追いついてこられないように、真っすぐ寮の方向ではなく、正規の道がたまに見えるくらいの森の中を逃げる。


 結局、戻ると言うより遠回りに図書館の近くまできてしまった。


「はー、ここまで変な経路なら、さすがに撒けたかな……って、いっっったぁぁぁーーいっ!!!」


 必死で逃げてきて気づかなかったけど、左足首が激しく痛い!思わずよろけて、近くの木によりかかる。


 ──あ!そういえば、さっき転ぶ直前、足首ぐにゃってなったんだった!!!


「い、痛いはずだぁ〜。5センチひっそり隠し厚底☆クラリッサスペシャル☆でも、厚底は厚底だもんなー。ぐにゃってしたら、すぐ捻挫だよね……」


 普通の靴なら、ぐにゃってなっても少し痛いだけで済んでたかもだけど。

 

 目立たないスタイルには、わたしの身長はもう少し足りないと思ってカサ増し靴を履いてたのだ。決して背伸びしたかった訳じゃないよ、うん!


「……王子様のこと、この5センチ増し靴で踏んじゃったってことか……あはははは……。いっ、痛ててて……」


 ──痛みで、踏んづけて申し訳ない気持ちも続かないっ!


「どうしよう……。

 風魔法で速度上げたから、もし今も探されてたら魔法の痕跡辿られて、いずれ見つかっちゃう。でも、このまま風魔法使って寮に帰ったら、せっかく少し遠くまで来たのに足跡どころか道標になって、わたしの寮がバレちゃう」


 ──基本、魔法は痕跡が残る。

 上手い人だと痕跡も消しながら使えるなんて人もいるけど、わたしはまだその域に達してない。


 だからいつも出歩く時は、てくてく自分の足で出かけてたのだ。


「うーん、ここは、仕方ないよね」


 探知魔法を広げて、誰もいない事を確認する。


 同時に、一番近くの一番太くて大きい木の根元まで、ひょこひょこ歩いて行って、根っこと根っこの間に腰掛ける。


「いだだだ……回復魔法使うと、かなり光るとか聞いたから、抑えるようイメージして……『回復』」


 自分が光ったのはわかったけど、イメージが上手くいったのか、一瞬で消えてくれた。

 

 左足首は、あれだけジンジンと痛かったのに、もう全く痛くない。試しにクルクル動かしてみたけど、問題ないみたい。


「よし、これでオッケー。寮に戻ろう!」


 ────ポロッ


 認識阻害の魔道具である丸メガネが、立ち上がった瞬間スカートから落ちた。

 

「あ、大変大変」


 ──大事な丸メガネ、失くす所だった。

 もう誰にも会いたくないし、出力最大で戻ろう。


 そうして、少し遠い寮までの道を、近道はせずに早足で歩き出した。



 ──その時、探知魔法を頼らずに、自分の目で周りを確認できていたらと、後になって激しく後悔するとは、思ってもいなかったのだ。



 


 

クラリッサの背は148cm。

悲しいかな、伸びなかったのだ。


小さい→☓

大きくない→◯


チビ→☓

身長が少し足りない→◯


本人の前じゃなくても言っちゃダメですよ。

かまいたち飛んできますよ。

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