3.嵐は突然にやってくるのだと知りました
ハッとして、グルグルと頭の中で、本日の自分の容姿を思い浮かべる。
いつもの目立たない髪型にしたし、丸メガネはキチンと認識阻害されてる事を確認した。
休日の私的なお茶会なので、制服ではないが、がっつり重いドレスではなくキレイめの、すっきりとした脛丈の着やすいドレス。色は制服に似せた深めの紺色だ。
制服に色を寄せたのは、普段と同じ色合いにすれば目立たないから。これ一点に限る。
──うん、いつも通り。
おかしいところは無い!
なのになんで。
王子様、わたしのことガン見してるの!
不味いと思い、メガネを直す振りをして、魔力を少々加える。
反射と白色が増すのだ。
そんな小細工を私がしてる時に、アンネリゼ様は殿下の目線を訝しめに確認していた。
「……殿下?わたくしに急用があるのではなく、もしや、こちらのクラリスにご用がございますの?お二人がお知り合いな素振りなど、わたくし見たことがございませんけれど、知らない間に交流がありましたの?」
──ありません。
ありませんと言いたい。
あれは交流なんかじゃない、事故だ。
アンネリゼ様は、わたしと王子様を交互にみてるようだけど、わたしは今、ピシイッッッ!と石の如く固まりついて微動だに出来ません。
メガネで見えないだろうけど、視線はどこでもない虚空をみつめたままです。冷や汗出まくってます。
「つい先日、初めて言葉を交わしたばかりだが、もっと仲を深めたいと考えている」
「ひいっ!!??」
「ええっ!?殿下が、ですか!?」
アンネリゼ様の言葉と同時に悲鳴をあげてしまったので、全員の視線がわたしに集中してしまった。
「ク、クラリス様、すごい汗ですわ」
「顔色がとても悪いですわ!大丈夫ですの!?」
令嬢2人が、今まで殿下の方を向いていたのだろう。ふいにわたしを見てびっくりして、心配してくれる。
「……クラリスの方は、全く深めたいようには見えません
けれど」
──アンネリゼ様、そうです、そうなんです!仲なんぞ深めたくないです!浅くも遠慮したいんです!
肯定するようコクコク勢いよく首を上げ下げするけど、王子様は止まらなかった。
「アンネといつも共にいるだろうと、声をかけたかったのだが。最近は連れ立っているのは見なくなってしまったし、講義後はいつの間にか居なくなっている。面会の誘いを、本人にもアルドン家にも毎日出しているが、定型文の断りが返ってくる」
「んん?言われてみれば、ここ最近、あなた用があると、一緒に行動することが少なくなっていましたわね」
「あ!アンネリゼ様。わたくし、クラリス様から、アンネリゼ様へ本日はご一緒出来ないと、伝言を幾度か承りましたわ!」
「まあ。そういえば、わたくしも同じですわ。しかも、こちらの返事を聞いているか聞いていないかの速さで目の前からいなくなってましたわ!そこまで急を要する事があるのだろうと、納得してしまって深く考えてはいませんでしたけれど」
──バレたぁ!?
聞いてると不審なところだらけだけど、ご令嬢のおっとり感覚で問題にされてなかったぽい!
「アンネ達には申し訳なかったが、クラリスと確実に対面出来る機会は、ここしかないと思った」
──あ い し ょ う よ び
だと────!?
驚愕にパカっと大口を空けてしまった。
「クラリス、お口元お気をつけ遊ばせ」
「へ……っ?あ!」
いつの間にか隣に来ていたアンネリゼ様に、小声で囁かれ、かつ肘で小さくつつかれる。
ハッとなり、急いで指を口に持っていき、同時に大口も閉じる。不味い不味い。令嬢らしくなかった、今のは。
「はぁ……。殿下ともあろう御方が、女性のみのお茶会に乱入するだけでも大変な不作法ですのに、たいして仲良くなってもいない令嬢を愛称で呼ぶとは……。わたくしだってクラリスと呼び始めたのは一月前程からですのに」
──アンネリゼ様、最後だけ怒りの点がずれてます!
もう瀕死なんで、そろそろ目の前のその人、追い払って欲しいです!
王子様に対して不敬だけど、心の中で思うのは自由なのだ!
「仲は今から深まる予定なので問題ない」
──ちょっとー!?何言ってんの!!!
ピキィィィッッッ!
え、何かキレた時の音っぽいのが隣から聞こえたよ?アンネリゼ様からだよね?
アンネリゼ様は、王子様にに向かい、ゆったりと、けど迫力のある一歩を踏んだ。
「わたくし、気になる男性がいる、とお友達に相談されて、きゃっきゃうふふと言い合いながら、男性側にも働きかけて、紆余曲折ありながら無事に恋を成就!と喜びあったり。
恋人が居ながら他の女性になびく男性を、ぎゃあぎゃあと言い合いながら、その子と一緒に懲らしめたり。
そんな頼られる淑女を目指していますの」
「まぁ、何度も聞いた覚えがあるな」
「だからわたくし、わたくしを利用しようとする殿方は、大っ嫌いですのよ」
「利用はしていない。ただ機会を狙っていたら、ここになっただけだ」
「従姉妹ですものね。わたくしが休日に、どういった予定を立てているかも、さぞ把握しやすかったでしょう」
「仲を深めたいと思った令嬢が、たまたま従姉妹殿の友人だっただけだ。今日の予定も、夏季休暇前の中庭の使用許可を誰が取っているのか確認しただけだ」
「それがわたくしの名前ならば、そこからお茶会も連想するではありませんか!それを利用している、と言うのですわ!!!」
王子様とアンネリゼ様、かなりヒートアップしてきている。いつも教室や廊下やらで言い合ってる時って、意外と冷静だったんだと、今は思う。
だって大変。
2人の魔力が目視し始めたのだ。時間が少しずつ進むたび、魔力が、グルグルとぐろ巻いてきる風に見えてきてる。
王子様お得意の氷魔法と、アンネリゼ様のお得意の火魔法が……合わさって。
……え?なにあれ、2人の2メートルくらい上に、突風というのかな、いやもう竜巻になりかけ……みたいな?
あ!!!
火に当たって、急激に氷から蒸発した水蒸気が、2人の魔力の流れとの相乗効果で、大旋風を起こしかけてるんだ!
あれは!ま、まずいっっっ!
王国が誇る魔学生であるので、わたし達学生はこれくらいは簡単に防御できるけど。侍従たちや、お茶会が開かれている中庭のガゼボはとても危険だ!
──おかしい。
悪役令嬢って、王子様と相思相愛の物語が多くない?なんで王子様、わたしと仲良くなりたいの。
アンネリゼ様も大っ嫌いとか言ってるの。
なんで2人ともここまでのケンカしてるの!
なに!?この状況は!?
それより!
止めなきゃ!!!
「あ、あの!発言をお許し下さいませ!
殿下!わたくし、殿下のお話は後日きちんと伺いますから、落ち着いて下さいませ!!!
アンネリゼ様!今日はおしまいまで楽しくお菓子をご一緒しましょう!!!更に!休暇中、領地に招待しますわ!お菓子食べ放題です!!!
それと!!!!!
このままですと魔力暴走の安全装置が感知して、先生方や警備部の方々が飛んでこられます!お二人とも、魔力を抑えて下さいませ!!」
建物に被害を与えると予想されるくらい魔力を放出すると、被害を抑えるために、あっという間に警報が鳴り、取り抑えられてしまう。
その後、罰として一定期間、魔力を抑える枷が付けられてしまうのだ。全ての魔力が抑えられるわけではないけど、いつもの3割程度まで下がると聞いてる。
魔力を放出するなら、高度結界が張られたところか、建物が遠いところまで行って試すのは許されている。だからこそ、建物に近いところは罰則が厳しいのだ。
ハッとした2人は、急いで魔力を抑えだした。
2人が魔力を抑えるのに必死だろうからと、こっそりと少しだけ、2人の魔力を相殺するように、わたしも魔力を加える。
──うん、みんな魔力の渦がどうなるかに集中してるし、これくらい一瞬なら手助けしてもバレないはず。
周囲も楽になるでしょ。
ふぅ、と一息ついて安心してたら、ばっちりと王子様と目が合ってしまった。しかも無茶苦茶に怪訝そうなお顔をしていらっしゃる!
──げっ、もしかして、バレてる!!??いや、気のせい、気のせいよ!わたし。
というかメガネの色、濃くしてるはずなのに、なんで目が合うの!
「なぜアンネは自領に招待するのに、私は誘わないのだ」
──ひっかかるの、そこですか!
手助けした魔力に気づいたわけじゃなくて安心だけどっ。
しかし、否定も肯定もしにくい問答に、黙り込むしかできない。
王子様に面と向かって"誘ってないので来ないで下さい"とも"ぜひ来て下さい"とも言える訳がない。
「おほほほほ!わたくしは殿下よりもクラリスと仲が良いのですから仕方がありませんわ〜!そもそも、領地へ異性を招待するなど、双方の両親から許可を取らねば、そもそも実現 不・可・能!ですわ〜!」
「ぐぬぅぅぅ…」
アンネリゼ様、高笑いがとってもサマになってます。
正論に王子様も唸って黙るしかないみたいだけど、なんでそんなに悔しがるの。あなた王子様でしょう。
たとえ、お呼ばれしたとしても、遠方の領地に気軽に遊びに行けるわけがないでしょ!
「あの、クラリス様。わたくしもぜひ、アンネリゼ様と同行させて頂けると嬉しいのですが……」
「わたくしもです!お菓子だけでなく、アルドンには珍しいものが沢山あると聞きました!魔道具技師になりたい者は一度は訪れるべきとされている領地ですわ!是非、是非に!ご一緒させて下さいませ!」
「ええ、もちろんです。ご招待いたしますわ!」
次々語られる、令嬢方の故郷に来たいという要望が、とっても嬉しい。思わず2人と手を取り合う。
──うちの領地、大人気!さすが!!!
と思っていたら。
王子様がズズイっと、顔を近寄らせてきた。無言で、じーっと見つめられる。
これは、今の流れに便乗したい、と言うことなのはわかりますよ?
けどね、わたし、認識阻害メガネしてるんですよ?なんで視線が合うんですか!
何も言うことないんですってば!!!
令嬢3人で何も言えず、3人で手を取り合ったまま硬直するという、何とも気まずい空気が流れたままだったのを、アンネリゼ様が打ち切った。
「殿下、もうそろそろ、本当にご勘弁下さいませ。本日は、これ以上わたくしの友人たちに、身分を傘に圧をかけるわけには参りません」
「……私は、そんなつもりは、」
「しているのです。そもそも、わたくしより低い身分の者は、許可なく現れた時点で排除しますわ。今、わたくしの私的な場に、わたくしが排除できないほど高位である、王家の者が居座っているという事実をご自覚なさいませ」
「………………」
さすがの王子様も、あんまりにも好意的じゃない雰囲気と、アンネリゼ様の正論に一気に鎮火してしまったようだ。
──わたくしが排除できない、って結構な勢いで排除しようとしてたけど。忘れよう。うん。
「クラリスからも先程、後日に応対すると言質は取ったでしょう。急ぎ戻り、面会依頼を出してはいかが?」
──アンネリゼ様っ!!??
ここの追っ払いには効果的だけど、激しく困ります!次回逃げられなくなるじゃないか!!!
ぱぁぁぁぁっ!と王子様が、そうだった!と言わんばかりに目が輝きだしてる!
──キラキラし過ぎて目が潰れる!
「あいわかった。今は引く。アンネリゼ、それにボイド嬢、エルライン嬢も申し訳なかった。大切な茶会に乱入したの事を謝罪し、後日詫びの品を送ろう。
それと、クラリス」
「ひゃいっっ、」
「次に送る面会依頼の返事は、クラリス自身が書き、尚且つ重大な案件がない限りは断らないでくれ。侍従が書いたと思われる例の文での断りは、今後は一切認めない」
──な ん だ とーーー!?
何で侍従が書いてるってバレてるの!筆跡知ってるの???
「ではまたな、クラリス。それでは失礼する」
だから、なんでメガネで見えないハズなのに、ガッツリ目を合わせて言うの!透視でも出来るのか!?
最後に周りを一瞥し、最後にわたしに、口角を片方だけ上げた笑みを向けたあと、おそらく来た方向なのだろう。校舎とは反対方向へマントを翻し去って行った。
──なんじゃありゃ!?魔王の微笑!?
ど、どうしよう。チラっとベリルの方みたけど、観念しなさいと言わんばかりに、横に顔を振るだけ。
アワアワしていると、右肩にポンッと強めに手を置かれた。
視線を辿れば、それはアンネリゼ様だった。
「クラリス、あなた殿下……アレクと、何かあったのね?詳しく聞かせて貰いましょうか。
ええ、洗いざらい何もかもよ!」
「ひゃ……ひゃい…………」
アンネリゼ様の顔は、さっき王子様と対峙してた時より怖かった。
便利な認識阻害眼鏡。
長いのでクラリスは丸メガネと呼んでいます




