2.故郷の味は忘れられないのです
魔学に来て3ヶ月が過ぎ。もう少しで夏季休暇という季節になっていた。
今日はアンネリゼ様と気の置けない仲間だけで、夏季休暇前にお茶会をしようと集まっている。
「クラリスが持ってくるお菓子は病みつきになってしまって、わたくし最近、体型維持が大変ですのよ」
「本当においしいですわ、クラリス様!」
「これを、クラリス様自身で作られるなんて、信じられませんわ」
クラリスは、わたしの愛称である。
ちなみに、アンネリゼ様と、取り巻きA・Bとか思ってた2人は、2人とも伯爵家と、まあまあ家格が上な方々だった。爵位だけでなく、成績も優秀な仲間だ。
そういうわたしは、何と侯爵令嬢。
公・候・伯・子・男、のなんと上から2番目の地位!
屋敷はそれなりに広いし、両親も優しい人たちで。使用人はたくさんいるな、と思っていたけど、田舎のせいか、みんな家族みたいな感じで育ってしまったせいで令嬢感は薄いと自分でも思う。
なので今回、取り巻きに入って良かったと思うのは、令嬢らしい仕草を目の前で観察できるということだ。
前世もあるからか、ふとした時にお嬢様らしさが出ないっぽい、わたし。
そのお礼と言っては何だけど、お茶会では手作り……さすがに一人では大量に作るのは大変なので、メイドに手伝って貰いながら作ったものだけど、お菓子を提供しだしたのだ!
これがやっぱり大好評!
前世を思い出してから、日本のおいしいお菓子が恋しくなって、自作し始めたのは思い出してから間もなくだ。
これって、前世あるあるでテンプレだよね?とも思ったけど、仕方がない。
どうやら、昔の自分のことを聞くと、前世を思い出す前から「なんか違う」と言って、お菓子食べないとか、勝手に一味足したりしてたらしい。
ついに自作すると家族に言った時も、好きにしなさいって言われただけだった。
ついでに言うと、あまり食べないからお菓子自体は好きじゃないとも思われてたらしい。
いまや、家族どころか屋敷全体でわたしのお菓子は取り合いである。
元々あるお菓子、この国が前世の外国風なだけあって、甘くてクドいのが多すぎだったのだ。おいしいのも、もちろんあるんだけど。
そんなことを考えていると、アンネリゼ様と令嬢仲間たちは、既におやつの話に花が咲いていた。
「この、ポテトチップスというもの、手が止まりませんわ〜」
「アンネリゼ様、このアーモンドチョコレートと言うものも素晴らしいですわ」
「あら、この味がついたピーナッツも、とてもおいしいですわ!!!」
全部、前世では、どこでも買えるものです、ハイ。
チョコだけは、再現に苦労したけどね。
「ところで、これらは王都で販売いたしませんの?絶対に売れますし、わたくし買い占めますわ」
「うーん……。実は、お父様によると、領地ではかなりの数を製造・販売してるそうなのです。それなのに作るとすぐに完売してしまうらしく。材料の問題もありますし、我が領地は遠いですから。まだまだ王都では難しい、と」
「な、なんということでしょう……今はまだ、クラリスにごちそうして頂けるから良いですが、長期休暇中や卒業後、わたくしどうすれば……」
「「死活問題ですわ……」」
3人共、悲壮な顔になってしまった。そんなに気に入って頂けてなによりです。
「本日の、このポテトチップスだけは、お芋と少々の塩があれば出来ますから、作り方を書いた物をお持ち帰り下さいませ」
「「「!!!!」」」
3人が3人とも、両手の指を口に当てて、目をうるうるさせて感動している。なるほど、生粋のお嬢様は、驚いた時は口を隠すのね。勉強になります。
「ベリル」
「はい、お嬢様。ここにご用意してございます」
学院についてきてくれた、年齢不詳のメイド兼乳母兼護衛のベリルが、封筒を3つ、どこからか出し、それぞれの令嬢の後ろに控える侍従に渡した。
「まぁ……これで、この味が、いつでも……」
「あ、皆様。このポテトチップス、おいしいですが、とんでもなく太りやすいのです。食べ過ぎにはお気をつけくださいませ!」
まあ!とまた口に指あて驚きポーズ。
「そうですわね……であれば、今より魔法訓練や、魔道具作成を2倍にしましょう」
「元より実技が激しい日は、寮の食事では足りないくらいでしたが、これの為なら頑張れますわね!」
そう、魔法。実は使うとかなりお腹が減る。
寮の食事は前世日本人の感覚から言うと、ものすごく多い。多いから食べるのに時間がかかる。
だからこそ手軽に食べられるお菓子が、カロリー摂取のために甘すぎてクドすぎるのが多かったのも、その一面もあるようだ。
味覚は普通なんだから、おいしく食べられないと箸も進まないわけで。
わたし考案のお菓子が領地であっという間に売り切れちゃうのも仕方がないのだ。
「他のお菓子も、なんとか量産出来るように、卒業後に頑張るつもりなのです」
「へぇ……そうなると、卒業後は領地に戻るつもりなんだ」
お嬢様仲間でお茶会をしているはずなのに、響くはずのない低い男性の声がして、びっくりして少しお尻が浮いてしまった。
「あら……?まぁ!本日は、わたくしのお友達のみでのお茶会でしてよ。急に現れて、会話に入ってくるなど不躾が過ぎますわ。それとも、何か急を要する件がございまして?……殿下」
目の前のアンネリゼ様の顔が、氷点下の無表情に急に変わる。
わたしを睨みつけていると思ったが、視線が合わない。視線を辿ると、わたしの真後ろのようだ。
恐る恐る振り返ると、無表情でもキラキラとしてる王子様が少し後ろに立ち、視線をわたしに真っすぐ向けていた。
──ぎゃっ、ぎゃーーーーっ!!??
な、なんで王子様がここに!!??
アンネリゼ様は、典型的な金髪の悪役令嬢っぽい人を想像して下さい。




