19:米俵持ちの恨みは忘れません
ガタガタンッガタンガタガタガタンッ
「………………ん」
──はっ!まずい!誘拐され中!
声出しちゃダメ!!!
ハッとして眠気が何処かに行った。
──やっぱり車の振動で目が覚めたみたい。
案の定、道の状態が悪いところに入ったらしい。
「なんだこの道は!アルドンは整備が一番進んでいるんじゃなかったか!?」
「知らねーし!オレに聞くな」
──男達もイラついてるし。
いくらアルドンって言っても、通る人が少ないところはたいして整備進んでないよ。
そんな事を考えながら、日光の布越し具合を確認する。あんまり長い時間は寝てなかったみたい。良かった。
ちょっとでも寝たのが良かったらしく、身体がずいぶん楽になっている。
ガッターーーーーッン!!!
「うわっ!」
「いだっ!なんだ!?」
「…………???動かなくなった!!」
「なんだと!?」
ガチャ!!!
──いてて……わたしも痛かったぞ!
ん?動かなくなった?
もしかして、車壊れた?
車のドアを開ける音がしたから、外に見に行ったのかも。
「不味い!これでは修理しなければ動かないぞ!」
「なんだと!?」
ガチャ!!
──チャーーンスッ!
2人とも車内にいなくなった!
布を取ってみるチャンスだ!
それでも、あんまり動き過ぎるとバレるだろうから、出来るだけ小さく動く。
動かないと思われているからか、布袋と思われる物は強く縛られていなかった。すぐほどけて、外が見える。
──前世の救急車みたいな、箱っぽい形の魔道車だったみたい。
予想通り、わたしが乗っている周りは黒塗りガラスで、前方は仕切りも無かった。夕方なのも間違いない。だいぶ日光が赤寄りだけど、日没まではまだあるはずだ。夏で良かった。
「仕方ない!あいつ連れて逃げるぞ!」
「はぁ!?ここで捨てないのかよ!」
「魔道車をここで捨てるんだ。僕たちを捜索されていた場合を考えろ!何かあった時に人質は必要だろう!捨てるとしても、最後までの保険は必要だ!いざとなれば、追手が分かれるよう川や湖に捨てなければ!」
「くっそ!わかった!」
──ヤバッ!こっち来る!
すぐ布を雑に被り直した。あんな山道走ってたんだから、布が少しズレてても気づかないでしょ!
ガチャ!!!
扉を開ける音がしたと思ったら、雑に持ち上げられた。あれです、米俵かついで持つやつ。
「行くぞ!」
──ぐええええええっ!!!
米俵持ち、気持ち悪いーーー!
==============
ドカーーーーーンッッッ!!!
──え?爆発音!?
「なんだ!?」
「あ!あれみろ!」
──な、なんだろ!?
もう布は外れかけて、外が丸見えだったけど、気持ち悪すぎて目を閉じてたから見てなかった。
ドカーーーーーンッッッ!!!
──あ!今度は見えた!光だけだけど!
これ、アンネ様の火魔法だ!
近くにきてるんだ!!
みんな!!!ここだよー!!!
「あ、あれはアンネリゼ嬢の火魔法だ!」
「何だって!?」
「オ、オレ、あれに何回やられたか!見間違える訳ねーだろ!」
「ちっ!何故アンネリゼ嬢が!?分が悪すぎるだろう!」
──もしかして、皆来てるのかも!
わたしの目が覚めないと思ってるだろうけど、ここは行動あるのみ!!!
ドグッッッ!
筋肉男の横腹にひじ鉄を入れて、力が弱まったところで着地する。ついでに布袋から抜ける。上半分まで既に取れてたから、足を抜くだけだけど。そして間髪いれずに火魔法が光った方向に走り出した。
「グッ!いてぇ!なにすんだ!って、お前!なんで起きてる!?」
「待て!!!」
「あっかんべーだ!だれが待つかいっ!」
令嬢らしくないけど、これくらいは米俵持ちの仕返しとしては許されるはずだ!
「くっそ!待て!!!」
ドカーーーンッッッ!!!
「うわぁ!!!」
わたしが逃げるのを援護するかのように上空に、火球が弾けた。
──アンネ様!ありがとう!
でも、目視したから分かったけど、あれは遠隔で放っている魔法だ。今の、魔法が使えないわたしには、アンネ様の居場所は分からない。
でも、逃げるよ!
あいつらビビってるから逃げられるはず!
でも、追いかける相手は男。
わたし、弱ってる女。
一生懸命走るけど、やっぱり追いつかれそう。
なんとかしないと……。
──閃いた!
メガネ!丸メガネあるじゃない!
走りながらは着けにくいけど、丸メガネをつけて、魔力を流す。出力最大なら、姿も霧みたいに透けて見える優れものなのだ!
──あれ?
魔力を流した瞬間、クラッとくる。
膝がカクンとなりそうになり、走っているスピードも一気に落ちた。
──ああ!
これに最大魔力流すほど魔力が回復してないんだ!ここで倒れるのは不味い!
急いで丸メガネを外して魔力供給を遮断したけど、遅かった。
「てめぇ!!!もう逃げらんねぇぞ!」
──まっずーい!追いつかれる!
丸メガネ着けるんじゃなかったぁぁぁ!
心の中で叫んだ、その時だった。
「クラリス!!!」
ガッキーーーン!!!
───え????王子様の声!?
と、なにか金属音?
「クラリス!こいつ、すぐ倒すから!」
「え!?フィン!!??」
と、声の方に振り向いてフィンの名前を叫んだら、何かが後ろからガバっと被さってきた。
「クラリス……!無事で良かった……!!」
「ひにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
──急に!抱きついてこないで!
驚いたけど、それどころじゃないと振りほどいて、急いでフィンの方に向き直した。
見て分かった。さっきの金属音はフィンが筋肉男に切りかかっていた音だった。
「お前ぇぇーっ!なんでここにいる!」
「クラリスを探しに来たに決まってるじゃないか!バーカ!」
「グッ…………」
バタン。
筋肉男は、あっさりフィンに負けた。
「相変わらず弱すぎー」
──完全同意。でもフィン、強い!
「クラリスーー!無事で良かったよー!」
フィンが駆け寄ってくれたので、行こうとしたが、出来なかった。
王子様が放してくれなかったからだ。
「殿下、すみません、放して下さい」
「嫌だ」
「うわー、大人げなーい」
──またしてもフィンに完全同意。
「フィン、誘拐犯もう1人いるの。あの神経質男。追いかけて来てると思ったのに」
フィンは、はぁと一息ついてから、周囲を警戒し始めた。
「分かった、探す。殿下、皆に連絡してよね」
「…………分かった」
そう言うと、王子様は、しぶしぶ右手だけ上げて空に魔法を打ち出した。青色の光の魔法だ。多分、無事に保護とか、そういう意味だと思う。
「クラリス、誘拐されたと聞いた時は心臓が止まるかと思った」
魔法を打ち出した右手は、そのままわたしの頬に来た。
──なんという顔をしてるの。
泣きそうじゃない。でも、愛おしそうな顔。
「ひゃいっ、すみませんでしたっ」
──し、心臓が止まりそうなのは、こっちです!
やーめーてー!!!
「かつて仲間だった者が倒れている所で、よくそんな真似ができますね、アレクシス王子殿下」
びっくう!!!
急に低い、王子様じゃない声が聞こえたから、驚き過ぎてドックンドックン心臓が音を立ててる。
でも、邪魔してくれてありがとう。
ね?細メガネ神経質男君。
「お前らを仲間と思った事は無い」
王子様は、こいつの声が聞こえた瞬間に抱きしめてたのを解いて、わたしを後ろに隠していた。
「酷いですね。あんなに尽くしてきたのに」
「お前らがやっていたのは、ただの邪魔だ」
そう言い合うと、2人とも魔法を打ち出した。
神経質男は、雷属性なのだろう。雷の球を何個も王子様に打ち出してきた。
対して王子様は、氷の槍を雷の球に命中させるように打っている。
──ひええええ!!
わたし、今、魔法使えないの!
防御できないの!助けてぇー!!
思わずしゃがんで、手で頭を守っていると、周りに王子様が砕いた雷のビリビリが弾けて飛んでいる。
当たったら、頭がアフロになっちゃうよ!
と、思っていたのに。
何故かビリビリが近くに飛んできても、何ともなかった。あれぇ???
「アルドン嬢にそこまで防御を重ねて、ここまで攻撃出来るなど!さすが殿下ですね!!!」
「お前!何故そこまで魔法が使える!お前は魔力量はそこまで多く無かったはずだ!」
──え、防御?
あ、よく見たらわたし、鈍く光ってる!
ありがとう!王子様!
これでアフロは回避だ!
じゃなくて!
神経質男、そういえば魔学に入学するにはギリギリだ、とか皆に聞いたんだった!
なのに、なんで王子様に対抗出来てるの!
──あ!!!
車内で聞いた、立派な魔石!!!
「殿下!魔石です!この人たち指示役から、かなり品質の良い魔石を預かってます!」
「なんだと!」
「貴様……いつから目覚めていたのだ!何故知っている!!!」
「教えてあげませーん!」
──逆に、なんで教えてくれると思ったんだ!こちとら誘拐されたんだぞ!
「ふむ、情報はそんなものか」
「なんだと!」
「もう終わりだ」
そう王子様が言うと、神経質男の周りに黒いイバラのようなものが現れた。
黒いイバラ状のものは、グルグルと球状に回転し、少しずつ球が縮小していった。
「なん、だ、コレは」
「お前が知る必要はない」
次の瞬間、球は神経質男を中に入れたまま、バスケットボールくらいまで縮み、消えた。
そのまま神経質男が消えちゃうのかと思ったが、その場にまだいた。けど、その次の瞬間、直立不動のまま前に倒れた。
──えーーーーっと。
多分、闇魔法なんだけど。
聞いても「お前が知る必要はない」とか言われても怖い。
いや、怖いじゃないな。
ちょっと、いや、
かなりカッコよかったんだけど。
「クラリス」
──はっっっっっ!!!!!
不味い!かなりぽやーっと見てた!
「ハイ、ナンデショウ」
「すまない、怖がらせたろうか」
──いや、すみません。
逆でした。
カッコいいとか思ってました。
「ひょんなことはにゃいでひゅ」
「ぶぶ……何言ってるか分からないぞ」
「ひゃ、ひゃいー」
ザシューーー!!!!!
「……………………え?」
急に変な音が聞こえてきて。
目の前の王子様がこちらに倒れてくる。
視界に赤が広がった。
「オレは、騎士団長に、なる男、だ。こん、なところで、終われる、か。ハハハっ。ど、うだ、殿下を、倒すほど、オレは、強いんだ」
──何か筋肉男が言ってる。
でも、そんなことより。
わたしが受け止めた王子様が。
背中から沢山の血が出ている。
どうして?
王子様は魔法が得意でしょ?
防御結界は?なんでしてないの?
「殿下!!!!!」
「お前!何で立ってるんだ!」
「クラリス!!!」
さっき王子様が打ち出した魔法で、皆が集まって来てたんだ。
──早く、早く助けて。
「ア、アンネ様。みんな、で、でんかが、血が、」
「失礼します!」
王子様の侍従のエドワードさん。
来てたんだ。
王子様の傷を急いで見てくれる。
「これは……出血が多すぎます。急いで下山しても間に合うかどうか」
「……ここはアルドン領の中でも特に人が少ない所です。下山したとしても、医者がいるかどうか……」
「とにかく、下山しましょう。ステファニー嬢、大変申し訳ないのですが、補助はするので背負って頂けますか?私は止血をなんとか試みます」
「わかった!クラリス、殿下をこっちに向けさせて……クラリス?」
フィンが近くにいるのに、言葉は遠くから聞こえる。
みんなの言葉に頭が真っ白になっていた。
王子様、間に合わないって。
死んじゃうの?
そんなのダメ。
絶対、ダメ。
───死なせない。
わたしが、死なせない。
わたしが、助けるから─────!
パアァァァァァァァァ!!!
自分から銀色の光が出てくるのが見えた。
王子様、お願い、死なないで──。
──わたしが、必ず、助けるから!!!
残りあと一話で完結です!




