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18.安全運転をお願いできませんか

 ガタガタガタガタガタガタ……。

 バンッ!ガタガタガタガタ…………。


「んー……いてっ………………」


 ──だれ。

 わたしが乗ってるのに荒い運転してるのは。


 一応ね、お嬢様なのよ。わたし。

 前世は一般人だけど。

 

 ガタガタガタガタガタガタ

 バンッガタガタガタガタ……


「…………え?車?」


 ──なんで?



「おい、そろそろ街だ!速度落とせ!」


「でもよー、遅れてるんだぜ?」


「目立って警護隊に見つかる方が不味いだろう!周りに合わせろ!」


「わーったよ」


 ──え、男の声?誰?


 次の瞬間、ハッとした。


 目を開けたけど、視界は布っぽいので一面広がって、何も分からない。


 でも、なんで車に乗ってるの。

 あ、首が一番痛い。


 また、ハッとする。

 目を閉じる前に見たのは、倒れていくベリルだ。それで、何か後ろに衝撃が来て。

 

 今、首が一番に痛いから首に何かやられたんだろう。身体のあちこちが痛いけど、それは確か。

 

 これは……。



 ──誘拐、されてる。



 どうして?


 そういえばいつも、ベリルも、お父様もお母様も、1人になってはいけないと何度もわたしに言ってきてた。

 

 領地で、しかもお母様と自分の管轄の研究室で。こんな事になるなんて、考えていなかった。だって、どこも自分の家みたいに思ってたから。


 ──ごめんなさい。皆……。


 ベリルの最後の顔、あんな焦った顔。苦しそうな顔。初めて見た。お父様と戦っている時だって、負けそうでも無表情で淡々としてたのに。

 

 ベリル、大丈夫かな。

 血は、出ていなかったと思う。

 生きて、いるよね…………。


 そんな事を考えてると、また男のイラ立った声が聞こえてきた。



「あーームカつく!何で田舎町なはずなのに、こんなに魔道車が走ってんだよ!」


「確かにイライラするな。あいつ、街中でこんなに時間を使うと想定してたのか?」


「『私の計画は完璧です』とか言ってたな。どこが完璧だよ!遅れまくってんじゃねーか!」


「しかし見つかる方が不味い。遅れた分は他の魔道車が少なくなってから取り返そう。操車もあと少しで代わる」


 ──え、こいつら、実行犯なだけ?


 別に計画した者がいる。

 行き当たりばったりじゃない。


 前世の誘拐って、どうだった?ドラマとかだと、犯人に計画的に進められると、警察とか、翻弄されてなかった?


 ドクドクドクドクドクドク

 心臓が変な音立てている。

 わたしを、見つけてくれない可能性がある。


 ──ううん!落ち着け!わたし!

 後ろ向きになるな!

 何とか、あらがうんだ!


 決心していると、また男の声が聞こえた。


「ところで、言ってた時間まで本当に目覚めないんだろうな?後ろのヤツ」


「さあ?完璧と言っておきながら、現況が完璧ではないからな。まあ、か弱い令嬢1人。魔法も封じてある事だし、起きたとしても口を塞いでおけば移動は問題ないだろう」

 


 ──え、魔法、使えないの?


 そういえば、首を始めに痛い所だらけと思っていたけど、力が入らない。

 これ、魔法を使えなくされてるから?


 ──それより。気になる事がある。



「しっかし、チビメガネ令嬢がこーんなに可愛かったとはな〜。騙されたぜ」


「用済みになったら頂きましょうか」


「それいいな!侯爵を痛い目に合わせたいだけで、チビメガネの事は攫う目的だけだったっぽいもんな〜!」


 ──おい。今、なんて言った。◯☓(ピー)メガネとか言ったか。わたしにそれは禁句なの知らないのか。


 ん???


 え、何でそんな情報知ってる?


 というか……こいつら、まさか。


 この声、聞き覚えある。

 取り巻いてた時に嫌でも耳に入ってた。


 そう。

 王学に飛ばされたって皆が言ってた、筋肉男と神経質男じゃない?

 

 なんでここにいるの!?


 


 びっくりしすぎたけど、話している内容から何とか情報を得ないといけない。

 

 もう!

 探知が使えれば、もう少し小さい声や周りの音も聞こえるのに。

 


「やっと街中を抜けたな。代わるから魔力を回復しておいてくれ。ほら」


「こんな立派な魔石を寄越すくらいなら、完璧計画を完璧にして欲しいよな」



 なかなか重要な事は話さないけど、魔力回復に魔石を使ったのは分かった。

 

 魔石は、魔力を込められる石で、込められるなら魔石になる。


 その辺の石ころでも少しだけなら魔力を込められるけど、色々な成分が混じっている物よりは純度が高い物の方が込められる。

 

 例えばダイヤモンドなんだけど。

 この世界も、宝石は貴重。

 だから水晶など、ありふれている物に込める事が多い。

 

 だけど立派な魔石に魔力を込めたというのは頂けない。宝石自体も高価だろうし、1人じゃ無理だろう。

 わたしも普通レベルの魔石で、1日に数個しか込められない。

 

 だから多分、"あいつ"とやらは、他の人にも負担させているはずだ。


 ──許せん。

 魔道具の材料にするならともかく。

 こんな事に使っちゃうなんて。


 怒りがムカムカ湧いてきたので、元気も出てきた。なので、男達の会話には気をつけつつ、自分の状態を改めて確認する事にする。


 魔法は確かに使えない。

 後、どうやら右手首に何かが着いている。

 

 わたしはアクセサリーはあまり身に着けないから、感触で分かった。

 

 足には何にも着いてない。

 

 男達が言っていた通り、この手首の魔道具によっぽど自信があるのかもしれない。


 男達が会話しているので、その隙に足をほんの少し動かそうとしてみる。

 

 大して動かなかった。

 

 足の指くらいなら動かせるけど、膝はほんの少し動かせる程度だった。


 目の前は、相変わらず布でいっぱい。

 たぶん大きな袋ではないだろうか。

 

 わたし、大きくないから入れやすかったのかも。決して大きいの反対の意味の言葉は言わない。思いません。


 それから、布が光を通してきてる。

 

 さっき、植物園にいた時はおやつにちょうど良い時間だった。時間感覚も前世と一緒なので、あの時で3時くらいだろう。

 

 夏で日照時間が延びていて、布越しのこの光の強さからすると、日没にはなっていないはず。

 

 車の側面が目隠しされていたとしても、わたしがいる前の方は開いてるんじゃないだろうか。

 男達の声聞こえてくるんだし。


 しかし、夜陰にまぎれる、とかじゃないんだね。堂々と昼間に誘拐か。

 あ、前世のテレビとかでも、そうだったかも。


 さっきからモジョモジョしてるのに、気がついてないから、外は夕方で眩しいのかな。

 

 眩しい所から暗い所は、あまり見えないはずだ。某田舎に引っ越してきた姉妹が傘持ったお化けに会う映画で言ってたし。


 ──見えてないっぽい、今かも。


 攫われて、あんまり時間が経ってない夕方とすると。いずれ日が落ちて暗くなる。


 そうなると、いくら暗くても、魔法が使えないわたしじゃ逃げ出したら捕まる予感しかない。

 

 真っ暗の中、探知魔法もなく早く走るなんてできないからだ。


 逃げ出すなら、隠れる所が探しやすい明るい内だろう。


 その場合、右手首の魔道具を何とかしないといけない。頑張って両手を近づけて、感触を確かめる為に小さく動いて、左手で右手首の腕輪状の魔道具に触れてみた。


 ──うーん。

 

 これ、ベリルが魔学で着けられてた魔道具に似てる気がする。魔力を吸ってるみたいだから、同じ物では無いけど。


 頑張って、腕を少しずつ、少しずつ動かす。唸り声を上げてしまいそうだけど、ガマン。

 

 それでようやく手首を目の前に持ってこれた。布越しの光だから心もとないけど、一応は見える。


 ──うん。予想に間違いはなさそう。

 だけど、どうしよう。どうにか無効化しないと、今みたいに腕を動かすのも精一杯だ。

 

 じっと魔道具を見てみる。

 

 作りは魔学のものより複雑だけど、魔学の物の方がデザインが良い。これはダサすぎ武骨一辺倒だね。

 しかし、ダサくても作動は完璧な気がする。


 ──運転してる男達も完璧ものだ、とか言われたみたいだし。

 

 でも、わたし。目覚めてるんだよね。

 しかも割と早く。


 その時思い出した。


 ──倒れる前、ベリルがわたしに何か投げてきてた!


 また頑張って、腕を少しずつ動かす。

 あの時、胸元に命中したと思ったからだ。


 胸元をゆっくり左手でなぞると、2つ手に当たるものがあった。1つは丸メガネ。もう1つは、小指の先ほどの、小さな石みたいなものがあるようだった。


 令嬢向け普段着にメガネ入れを付けて貰い、念のためと丸メガネを入れていた所だ。

 

 動きにくい手を何とか動かし、丸メガネをまず取り出し、次に石を掴んだ。服が緩めで良かった。


 石の方を頑張って目の前に持っていく。


 見て驚いた。

 ダイヤモンドだ。

 しかも魔力がこもって魔石になっている。


 それを見て理解した。

 わたしが早めに目が覚めたのは、これから魔力を供給されていたからだ。


 ──ベリル、ありがとう。


 ダイヤモンドの魔石と、手首の魔道具を見つめて考える。


 ──これ、魔力を吸収する機能だけでも消せないかな。


 属性の方は、揺らぐと気持ち悪くなるのは知っている。けど、慣れれば普通に生活できるのだ。

 

 だから、魔力吸収の陣だけでも消せないかな。

 そう考え、もう一度、右手首の魔道具の魔法陣をなぞる。

 

 何も出来なくなるからって、魔法陣を見える所に刻むなんて、三流もいいとこじゃない?


 魔道具の陣がある箇所を、自分から手前側の、床に近い方に回して動かして、なるべく光が外から見えないようにする。たぶん焼き切ると光るだろうと思ったからだ。


 左手でダイヤ魔石を親指と人差し指だけで摘み

、他の指は光が漏れないように、なるべく右手首を隠すようにした。

 

 ダイヤ魔石の魔力は少なくなっている。やるなら一発勝負だ。

 

 魔石に残った魔力を一気に押し出して、魔法陣のみを焼き切るのだ!


 ──せー、のっっっ!!!


 パチン!


 ──良かった上手くいった!

 音は出たけど、車の出す音より小さかったと思う。


 そして、しばらく、男達の様子を伺う。


 ──うん、気づかれてないね。

 良かった!やった!すごい、わたし!


 これで少し経てば、魔力も回復してくるはず。動けるようになるまで、聞き耳立てておかないと。

 



 そうして、少しだけ経った時だった。


「なんだあれは?あいつに聞いていたか?」


「いや、聞いてねえ」


──なんだろ。

 車、止まったみたいだけど。


「誰か来る。後ろ遮断してくれ」


「ちっ!まだこの先も魔力かなり使うっていうのに」


 ──え!誰か来るの!?

 もしかして助けが来たのかな?

 

 いや、でも男達、警戒はしてるけど逃げようとしてないからな。地元の人かな。


 でも、今どの辺りかだけでも分かるかも!



「すみませ〜ん!」


「どうかしたんですか?あちらに魔道列車が停車したままのようですが」


「偉い人が乗った魔道列車が急に通るからって、全ての列車は駅で待つように言われちゃったんですー。魔道列車が近くにいると、自動的に道標(みちしるべ)内は横断禁止になっちゃうんですよ〜。だから、迂回するか、そこのお店で待って下さいねー。他の魔道車にも伝えてくるんでー!じゃ!」


 タッタッタッタッタッ

「すみません〜」


 足音が遠ざかるけど、後ろにも車がいるんだろう。声はあんまり遠くなかった。

 でも、窓を閉めたんだろう。

 

 周りの喧騒の音が一気に小さくなった。



「おい……偉い人ってなんだ?」


「…………まさか、気づかれている?」


「どーすんだ!?まだ半分も来てないだろ!?」


「声を荒げるな!周りに聞こえる!…………迂回しよう。ここで見つかる訳にはいかない。僕たちはアルドンに普通の旅行の予定で入っている。明日の朝にはホテルに戻っていなければ怪しまれる」


「こいつ、捨ててく訳にはいかねーのかよ」


「あいつが言っていた根回しは5時間後だとか言っていただろう。それまでは時間稼ぎだ。あいつを切るか、こいつを捨てるにも、もっと人目が無い所を通らねば。とにかく予定している駅と時間に領都行き列車に乗れなければ、僕達は終わりだ」


「くっそ!マジで何が完璧だよ!」


「地図を頼む。ひとまず少し戻って、魔道列車の道標(みちしるべ)とか言うのを越えなければ」


「分かった。えーと……」

 

 


 ──予定の駅と時間?

 

 もしかして、わたしを誰かに引き渡したら、列車で領都に戻って、何食わぬ顔でいるつもり?


 でも、でも!予定外の事が起きてるなら!

 

 ───助けが、来てるかも!


 皆、気づいてくれてるかもしれない!


 それにこいつら、わたしを捨てるかもって!


 動けるようになってなきゃ。


 魔力回復のために、寝ておいた方が良いかもしれない。もし山道に入れば、さっきみたいに車の振動で起きられると思うし。


 そう思うと、一気に眠気が来た。


 弱ってたのに気を張って、疲れてたんだと思う。

 ここは、本能に逆らわずに眠ろう……。


 ──起きたら、頑張るんだから。




 

 

筋肉男と神経質男は、王都の街中でクラリッサを罵っている所をスカウトされました。

犯人は金策で王都を訪れていたからです。

この二人は、親たちから勘当同然の扱いをされており、お金に困っていたし、若者の憧れの地でもあるアルドンに行けるということもあり、誘拐完璧計画に乗りました。

以上。


ここでしか書く機会が無さそうな、こぼれ話でした!

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