16.お説教って心配だからするんですよね
昨日は、お父様にみっちりはっきり言ってやったので、気分爽快の朝です!
昨日は遊んだので、午前中は課題だけど。
机にかじりついて、やる気充分だ!
アンネ様、ナッティ、フィンもお父様に約束を取り付けた事を話したら喜んでくれた。
「クラリス、やりましたわね!」
「やはり侯爵夫人は素晴らしい方ですわ!」
「でも、侯爵の事は解決したとして、殿下はどうするの?」
──え?
あ!!そうだよね、王子様の事忘れてた!
お父様に勝ったから満足してた!
「クラリス……まさか、その顔。アレクの事忘れていたんじゃありませんの?」
「クラリスは分かりやすいですわね〜」
「殿下、カワイソー」
「うぐぅ……皆、ひどい。戦いの余韻に少し浸らせてくれても」
「何の為の戦いに行ったのやら。そんな事だろうと思って、わたくしの侍従をロートルのアルドン側の、ドルトの町だったかしら。向かわせました」
「さすがアンネ様。行動がお早いですわ」
「侯爵が魔道具を止めているか、確認しなければなりませんからね。侯爵に遠慮しそうな、この領地の者よりメルクリウスの者の方が確認としては良いでしょう?」
昨日の内に、妙で大掛かりな魔道具は止めさせたと、ベリル伝いにお母様から聞いている。
でも、あのお母様にも内緒で、妙な魔道具を領界に設置なんて出来ていたわけだから、解除の確認は必須である。
「うう……確かに、そうです。ありがとうございます。アンネ様」
「朝早く侍従は出発しましたから、お昼過ぎには殿下を連れて戻るはずです。さあ、それまでしっかり課題を進めましょう」
「そうだねー。侯爵夫人にお世話になったのに、課題まで心配かけるわけにはいかないもんね。ねえ、クラリスー?」
「うぐっ……フィン、意地悪。言われなくても頑張るから、大丈夫だもん」
少々意地悪は言われたけど、その後は皆でもくもくと課題をこなしたのである。
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昼食後、ゾロゾロとそれぞれ侍従を連れて、街で一番大きいホテルに来た。
「まぁ、ここも素晴らしいホテルですわ!」
「本当ですわね。外観は老舗の重厚な雰囲気でしたけど、中は現代風なんて。意外性もありますわね」
「おー、ホールで素振りが出来そうなくらい、広いね!」
「フィン……素振りは止めてね。ここ、ずっと昔は領城だったらしくて。色々と転用された結果、今のホテルになったの。あちらに沿革が閲覧出来るようになってるから、あとで是非見てみて」
この元・領城のホテルに来たのは、もちろん王子様を出迎える為だ。それで体面のための侍従もぞろぞろ連れてきている。
アンネ様に、駅で迎えないのかと言われたけど。王子様を駅で、このきらびやかな大人数で出迎えられる訳がない。お母様にも止められた。
あと、お父様から命令アリ。
「屋敷で虫を迎えるのは許さん」だって。
お父様は、わたしに大嫌いって言われて不機嫌なのか、ショックから立ち直れていないのか分からないけど、ボショッと、しかし通る声で言われた。
あれだけ言ったのに、まだ虫って言ってるし。
こりてない。
領地に入りたいのに弾いてしまっていたので、お詫びにと、王子様にはアンネ様達と同じ日数で滞在できるようにした。
このホテルにだけど。
「クラリッサ様、先程メルクリウスの侍従から先触れがございました。魔導列車は定刻通り到着とのこと。あと10分程で殿下がおいでのようです。ご準備をお願いします」
「わかった。ありがとう」
ホテルをそれぞれ見学していた皆を集めて、ホテル入り口に向かった。
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「アレクシス様、ようこそ我が領地アルドンへ。歓迎致します」
軽くカーテシーをして歓迎を表す。
王子様は魔道車から降りると、早歩きで真っ先にわたしの方へ向かってきた。
「クラリス、畏まらないでくれ。手紙で約束も無く会いたいと言ってきたのは私だ」
もう、出鼻を挫かないで下さい。
これでも簡略な挨拶なんだから!
「……皆様も、話す事がおありでしょうから。こちらにどうぞ」
後ろのアンネ様の視線がビシビシ刺さっていたので、入り口からはさっさと退散する。
入り口で騒いだら、ホテルに迷惑だよ!
ホテルには、前世と同じく大ホールや小ホールがある。本日は使わないという大ホールにわたし達を案内して貰う。
扉を閉めると、案の定アンネ様が王子様の目の前に仁王立ちして、お説教を始めた。
「この馬鹿アレク!
城には連絡を入れたのですか!?わたくしが王都を出立した時は大変な騒ぎになっていてよ!何かあればお母様に抗議が向かう事を理解していますの!?」
──わー、大全開。
アンネ様、怒ってるけど心配もしてたんだろうな。少し前は違いが分からなかったけど、今なら分かる。
仲良く接してきたおかげかも。
「仕方ないだろう。
許可なんて取っても、難癖つけて却下されるに決まってる。一応手紙は残してきたぞ」
──皆に色々言われたから、王子様を観察したけど……確かにわたしとアンネ様を比べると、表情違うかも。
そう思うと、身体がピリピリとした。
ん???どうしたかな。
雷魔法でも誰か出したのかな?
わたしが変な感じになっていた、その間にもアンネ様は止まってなかった。
「それは、わたくしが出立する少し前に、急に出てきたという手紙の事かしら?隠蔽魔法の痕跡があったと聞きましたわ。すぐ発見できないようにしていたでしょう!」
「少し時間を開けないと、追いつかれて連れ戻されるだろう。意味がないじゃないか。それに、伯母上には定期的に無事だと連絡を入れていたから安心しろ。
なあ、もう終わりでいいか?いい加減クラリスと話したい」
「……仕方ないですわね。お母様に連絡を入れているなら、良いですわ。どうぞ。さぁ、クラリス」
「……はひっっ!!??」
まさか、アンネ様がすんなり説教を終わらせると思ってなかった。
──こ、こ、心の準備が!
「クラリス……久しぶりだな。会いたかった」
わたしはアンネ様に背中を少しだけ押され、前に出された。そうすると王子様もこっちに一歩くるではないか!
──近い近い!!!
で、でも何か返事をしなければ。
「え、あの、お久しぶり、です。
で、ても、あ、あの、わたくし、雷魔法が漏れているところを探さないと、いけなくて、ですね」
やっぱり、違う。
さっきアンネ様と話してた王子様とはぜんぜん表情が違う。
柔らかい顔になって、すごい嬉しそう。
──な、なんで?
急に、顔に血が上ってきた。
肌が、ぞわぞわピリピリする。
心臓がどきんどきんと音を立てた。
「雷魔法?この立派なホテルで魔道具の魔力漏れなど、壊れかけの症状の物があるのか?」
「えっ、今わたし、肌がピリピリ、心臓がどきどきしてるので、どこか、漏れてるのではないかな、と」
うまく説明できないでいると、アンネ様と、ナッティ、フィンの声が後ろから聞こえてきた。
「あら、まあ」
「クラリス〜真っ赤ですわー」
「クラリス〜、魔道具は皆正常だよー」
「そなたら……気を使って出ていくとか、出来ないのか。せめて侍従らのように後ろを向いたらどうだ」
──はっ!そういえば、皆居たんだった!
わ、わたし今、変だった!何、今のは!
「あらー、ごめんなさいねー、アレク。クラリス元に戻っちゃったわ」
「…………棒読みで謝られることが、こんなにも憎いと感じるとは」
「殿下、クラリスが見てますわー」
「そんな歪んだ顔、好きな子の前で見せていいの〜?」
んん?
殿下の憎々しげな顔なんて、見慣れてるけど。取り巻きしてるんだし。
それより、何か皆、変じゃない?
昨日までは、何となく応援してくれてたっぽいけど、ぽやーっと考えてるのを、こんなに早く連れ戻されたのは初めてな気が。
「アンネ様、クラリスが気づいたみたいですよ?さすがに」
「あら、ちょっとあからさまだったかしら」
「こういうの、わたし苦手なんだけどなぁ」
ナッティ、アンネ様、フィンが何やら不穏な事を言い出した。何て?
「そなたら、侯爵に手懐けられたな」
「え!?どういう事ですか!?」
いきなり断言するから、びっくりして王子様、皆と顔をどっちもキョロキョロと動かして見てしまった。
王子様は、さっきと変わらず不満そう。
フィン以外は指を口に当てて、ニヤっとしてる。
──あー、これは王子様の言うとおりかも。
「皆、本当に?お父様に何か頼まれたの?」
「ふふふふふ、バレてしまっては仕方がないわ!話しておやりなさい、我が一味の頭脳よ!」
「畏まりましたアンネリゼ様!このナターリエが承りますわ!アルドン侯爵は夫人から、クラリスに手出しする事を禁じられました!ですが、わたくし達は別です。自由なのです!ですから在学中、お二人が近づきすぎないように監視する事に合意しましたの!」
「はぁ……やる気はでないけど、邪魔を……いや、監視をすればくれるっていう報酬が良いんだよね……アンネはポテチ10年分。ナッティは大昔の魔道具と建国時代の歴史書。わたしはミスリルソード。オリハルコンよりは劣るけど、こっちも珍しいから」
「なっ、そなたら!物で釣られたのか!しかもエルライン嬢とボイド嬢の希望の物は分かるが、アンネのそのポテチとは何だ!」
「とーーーーっても!美味しいおやつですわ!」
「おやつ!!??」
ちょーーー!王子様が突っ込んでくれてるけど、どういうこと!?
フィン、邪魔とか言いかけたよ!?
んん!?まさか!
「それ、お父様がお母様に魔学時代にした事を、わたし達にさせない為ですか!自分の事は棚に上げて!」
「それは、知りませんけれど。とにかく手をつなぐ以上は事は、卒業するまでしないように見張れとのことですわ。ねえ?ナッティ」
「そうなのです。邪魔……いえ、監視をする事がわたくし達の修行にもなるとおっしゃってましたわね」
「とにかく、今日は挨拶がおわったら、すぐ屋敷に戻れって言われてる。ミスリルが待ってるから、早く帰ろう」
わー、すごい。監視の目が増えたー。
ナッティも邪魔ってついに言ってるし。
こう考えると、ベリルは黙って見ていてくれたんなと、すごく良く分かる。
「……クラリス、仕方がない。将来の義父の神経を荒立てる気持ちは無い。また手紙を出す。会ってもらえるだろうか?」
王子様にそう言われながら、じっと見られると、やっぱりさっきの変なのになる。ホントに、魔力漏れじゃないのかな。
「……はい。わたくしも、手紙、出しますね」
「ありがとう、クラリス」
お礼を言われて、握手のためか手を差し出してきた。
前回ガシッ!とつかまれたけど、今回はゆっくり手を出してきたので、握手に応じることにした……瞬間。
ばしぃぃぃっ!!!!
とても痛そうな音が目の前で炸裂した。
「痛っ!!!何をする!アンネ!!」
王子様の握手をしようとした手首に、痛そうなチョップが入っている。
チョップはアンネ様が入れて、しかも、どうだ良いの入った!とニヤっと笑って得意げにしている。
「手を繋いでいいのも、3年生になってからだそうですわ」
「3年生!?長すぎるだろう!」
「申し訳無いですけど、わたくし達、買収されておりまして……」
「さあ帰ろう!ミスリルの元へ!」
フィンもそこまで大きくないのに、軽々と左腕だけで持ち上げられて、そのまま走り出した。
「クラリスーーー!!!」
王子様が悲壮な感じで手を伸ばしてるけど、わたし、それどころじゃない。
お腹の辺りだけガッツリ掴まれて、後ろ向きに進まれるから、苦しいんだ!!!た、助けてぇーー!
下ーろーしーて〜〜〜!
せっかくゾロゾロと連れてきたのに、ホテルの滞在時間は1時間もなかった。
ホテルのシェフ、お菓子作りの名人いるのにー!食べたかったー!!
皆を買収するなんて、
お父様、お母様に言いつけるぞ──!
やっと王子様と再会させてあげられました。




