12.課題を進めたくないのではありません
呆然としながらも就寝して、次の日。
朝はわいわい、お父様とお母様も皆で一緒に朝食をとった。
そこでお母様に釘を刺された。
「夏季休暇中に仕上げるべき魔道具などの課題を疎かにしてはいけませんよ」と。
領都の商店街を案内しようとしてたのに、出鼻を挫かれた。
わたし含め、皆もズーンと一気に沈んでしまう。
それを見たお母様は、はぁ、と一息ついた後「滞在中の全てを遊びで使ってしまっては間に合わないでしょう。毎日午前中は課題に集中なさい」と言ってくれた。
その言葉を待ってました!と言わんばかりに、わたし達はいそいそと課題に向き合うことにした。
「はぁ、さすが侯爵夫人ですわ。わたくし達のしそうな事を先んじて釘を打つなど」
「移動も含めると、半月以上潰れるのは確かですわ。魔学に戻る準備もしなければならないと考えると、少々どころか終わる手前までは進めないとならないですわね」
「課題は持ってきているけど、やる気が起きない」
皆が一緒に勉強できるように用意した、大きめのテーブルに着いてアンネリゼ様、ナッティ、フィンが悩ましい声を出している。
皆の滞在は昨日を含めて10日の予定だ。つまり後9日。遊びたいけど、皆の意見聞きながらなら課題も進みそうだものね。
ちなみに、学生同士で考えながら進めるのは認められている。親や侍従は、ちょっとしたアドバイスくらいなら良いけど、ガッツリ手を出すのは厳禁、とされている。まあ、前世でも同じだったから、当たり前なんだけど。
アンネリゼ様が課題の魔道具の準備をし始めると、フィンが1人だけ別のものを用意しているのに気づいて、声をかけた。
「そういえば、フィン。戦学部は何を提出しますの?わたくし達、操学部は映写の魔道具の作成なのですけど」
わたし、アンネリゼ様、ナッティは魔導操学部。
略して操学部では、魔法や魔道具作成などを広く学ぶ。
フィンは魔導戦学部。
略して戦学部では、魔道具の事も学ぶけど、魔法を使う事を主に学ぶのだ。
アンネリゼ様の質問に、フィンは課題内容が保存されているだろう記録の魔道具を横に避けて、ふー、と一息ついた。
「……この大きい石から自分の武器を作る事なんだけど」
フィンはそう言うと、出したくない感たっぷりで、でん!と大きくて重そうな、布に包まれた物をテーブルに置いたあと、布を広げた。
「これは、凄いですね。さすが魔導学院と言いますか。これ、【オリハルコン鋼合金】ですよね?戦学部の一年生全員に配るなんて、信じられないです」
驚いて、一番にわたしが声を発してしまった。
オリハルコンは、前世のRPGでお馴染み。この世界にもあって、やっぱりとっても珍しい金属なのも一緒。
あまりに量が少なかったからだろう。誰かが頑張ったらしい。ほんの少しのオリハルコンを他の金属に混ぜて、純度100%には敵わないけど、それなりに硬くてしなやかな合金が誕生したらしい。
魔法を付加できるので、使い方によっては凄く強くなる、そんな原石が目の前にある。
「まぁぁぁ!これが……わたくし、初めてみましたわ」
「あら、ナッティは初めてなの?わたくしは護衛が魔学出身なので持ってますわ」
「いえ、武器はわたくしも見たことがあるのですが、原石状の物は初めてです」
「ああ、それはわたくしもですわ」
アンネリゼ様とナッティが話をしている間、わたしも原石状になっているのを見るのは初めてなので、観察しまくっている。
だって、オリハルコンだよ!ちょびっとしか入ってないけど。ファンタジーだよ、これは!
「皆が喜んでいるところで悪いんだけど……わたしはこれが今、憎くて仕方がない」
「えっ、物騒ですね。憎いなんて」
合金を見ていた顔を、パッとフィンの方に上げると、口を食いしばって、眉間にシワを寄せて、本当に憎らしそうで悔しそうな顔をして、合金を睨んでいるではないか。
「まぁ、フィン。令嬢がそんな顔をしてはいけませんわ」
「大丈夫だよ。魔学の課題だからと侍従は皆出ていっているじゃないか。クラリス様、ナッティ、理由は良〜く見ると分かると思う」
「ああ、コレですか?中心の所に魔法陣がありますわね」
──え、一見、鉄にしか見えない合金で、全く透けてもない。ナッティは分かるの?
「ナッティ、わたくし恥ずかしながら魔法陣が見えないの。どう見るか教えて下さらない?」
「まぁ……クラリス様が魔道具関連で難しい事があるなんて、珍しいですわね。わたくし、少し自信がつきましてよ。ふふふ。」
「え!?これ、魔道具なのですか!?鉱石にしか見えませんけど」
「クラリス様はこちらをオリハルコン鋼合金だと分かったのでしょう?表面を見るのではなく、魔道具を魔法陣を付与した魔石から組み上げる、ということを想定して全体を見るのです」
──魔道具、自分で作成する時は、欲しいと思ったものを周りから組んで、最後に動力と伝達の魔石を投入する、というやり方しか使ってませんでした。
でも、この原石状のものが魔道具と言うなら、何の魔道具か調べる時と同じ感覚で大丈夫なのかな?
「わたくし達の課題も、魔石内の魔力のみでどれだけ映写の魔道具を扱えるか、ですから。今この原石状になったものを解析出来れば、課題もやりすくなりますわ」
ナッティのアドバイスに、アンネリゼ様が食いついた。
「まあ!そうですの?では、わたくしにも見せて下さいませ、フィン」
「みんな〜、これに群がるのは良いけど、後で助言は頂戴ね!ほんと、困ってるんだから。課題は、この魔法陣を崩さずに武器を作る事なんだ。1週間かけて魔法陣は見えたけど、溶かして成形しようとしたら警告は鳴るし」
「なるほど。魔法陣が複雑に組んでありますからね。その中に高温なると検知するものがあるのでしょう」
「まあ!さすが戦学部の先生方ですわね。学生がやりそうな事を見越してますわ」
皆がわいわい話をしてる最中、わたしは原石状になった合金の塊を、魔道具、これは魔道具と自分に暗示をかけるようにして、ずっと睨みつけていた。
──あ!わかってきた!
確かに中心に色々と魔法陣が複雑に重なってる!うーん、確かにこれを壊さないように武器にするのは、初心者には大変なんじゃ?
あ、だからこその課題か。
「わたくしも見えました!ありがとうナッティ、助言してくれた通りにしたら、見えたわ!」
「ふふ。どういたしまして」
「えええ!クラリス様、理解が早すぎないか!わたしは丸5日かかったんだよ!?」
「フィン、魔法陣が見えているなら一歩は進んでいますわ。助言をするならば、簡単なもので良いので魔道具もいくつも作成してみる事です。これ以上の助言は、その魔道具に感知されそうなので止めておきます」
「え、この石、そんな機能もあるの!?」
─あ、フィンは魔法陣が見えただけで、解析は出来てなかったのか。
「あー……、確かに。2層目の魔法陣が、簡単ですけど記録のものですね。フィン。ナッティの助言が一番近道だと、わたくしも思います。材料はわたくしもお母様も余るほど持っていますから、提供しますね」
「はぁぁぁぁ〜い。魔道具作成、苦手なんだけど……ナッティ、クラリス、助言感謝する……」
やりたくないフィンに発破をかけるため、わたしは扉の前に控えている侍従に声をかけた。魔道具の材料を3つ作成出来る程度に持ってきて貰ったのだ。
フィンは嫌そうにしながらも受け取って、手をつけ始めた。
それを始めに、フィン意外も課題に向き合い出した。
もくもくと課題とそれぞれにらめっこしてから、少し経った頃。
昨日の話と丁度良いので、アンネリゼ様に先日から気になっている事を尋ねてみようと思った。
原石状の合金を、顎に拳を当てながら眺めているアンネリゼ様に声をかける。
「アンネリゼ様、唐突なのですが……殿下とは婚約とか、それに近い関係であったのですか?」
ばっ!と、アンネリゼ様は、こちらを向いて目を真ん丸にした。と思ったら、目を丸くしているのはナッティもフィンも同じだった。
「婚約!?そんなわけありませんわ!アレクはただの従兄弟です!」
──アンネリゼ様は驚愕した顔のまま、否定してるけど。
「え……でも、2人とも愛称で呼びあっていますし、殿下が、どこに居ても追いかけられるのですよね?それに、いつもの言い合いもケンカする程仲が良い、とも言いますし」
「え、アンネリゼ様、そうだったのですか?そういえばクラリス様が話してくれてましたわね。追いかけてお菓子の自慢をすると」
「喧嘩するほど仲が良いって、そういえば喧嘩ばかりだよね」
ナッティとフィンに向かって、こくこく頷く。
それを見て、納得出来ない!とアンネリゼ様は一気に怒りを顕にした。
「アレクは本当にただの従兄弟です!事情は詳しく話せませんけど、一緒に育ったので気安いだけです!」
「え!一緒に育ったのですか!?」
「わたくし、アレクとは姉弟だと思ってましたの!ずっと我が家で暮らしていて、物心がついてから従兄弟だと言われて、驚いたくらいですのよ!愛称もわたくしのお母様が、わたくし達をそう呼んでいたのです!」
「まぁ、そんなご事情がございましたの!」
「ずいぶん気安い仲だと思っていたけど、納得したよ」
ナッティとフィンは、もう納得してるみたいだけど、わたしは納得出来ない。
従兄弟って前世だと結婚できるんだけど。ラノベやマンガとかでも従兄弟がヒーローの話、割とあったから尚更。
「………………」
「ちょっとクラリス!その顔!まだ納得していませんわね!アレクにあれだけ好意を寄せられておいて、何故そのような事を言いますの!」
「えっと……殿下側はともかく、アンネリゼ様に不快な気持ちにさせてしまったら、とても嫌だなと思いまして」
「不快だなんて全く思っていませんわ!だって、わたくし、先日からずーっとクラリスの応援をしていたではありませんか!」
「でも、」
「でもではござません!!!
わたくし、あのように自分の見目の良さにあぐらをかき、いざとなった時にはグジグジと悩んで行動が遅く、挙句の果てにストーカーに走る男なんて願い下げですの!!!」
アンネリゼ様とわたしの応酬を聞いていたナッティとフィンは呆れていた。
「まぁ。コテンパンですわね。殿下」
「ここにいなくて良かった。余計拗れる」
──それは、確かに。
「わたくし!自分のお父様のような、顔はまあまあ、影日向に自分を支えてくれるような殿方が理想ですの!」
「え……アンネリゼ様を支えるのですか」
「それでいて、顔が良い人?この国にいるかな」
「ナッティ!フィン!さっきからうるさいですわよ!!!クラリス、理解出来まして!?」
──アンネリゼ様が王子様を好いてないのは良く分かったけど、何か不穏な言葉が出てきてたよ。
ストーカーって何。
ぽやーと口を半開きにして考えてしまっていると、アンネリゼ様はまだまだ言い募った。
「クラリス、聞いてまして!?
愛称が不味いと言うなら、今から皆で愛称で呼んで下さいませ!アレクを今から正式名や殿下なんて呼ぶなんて、畏まった場でなければしたくないですわ!!少しばかりですけど先に生まれ、自分を姉と思っていたわたくしには無理です!そうですわ、周りを変えればいいのです!
既にフィンがこの通りなのですから、ついでに敬語も止めて下さいませ!」
「えー!いいの!?気をつけるの大変だから、助かるんだけど!」
「フィン……あなた、アンネリゼ様の言葉使いを学ぶように、両親から命令を受けたと言っていたではありませんか」
「一応は出来るようになってるから大丈夫!」
「はぁ……わたくしは、この言葉使いで領地でも過ごしていますから、愛称だけ呼ばせて頂きますわ。アンネ様、と」
「あー、ナッティと同じく、わたしもアンネ様って呼んでいいです……良いかな」
「あらクラリス、考えから復活しましたの?様も取って欲しいのですけど」
悪役令嬢っぽい人に、敬語はともかく敬称抜きは無理!妥協して下さい!
「アンネ様も、話し方は敬語ではな……ないでしょう。好きに呼んで良いなら、アンネ様と呼ぶから」
「わたくしは小さい頃から、この話し方ですわ。でも、取り繕わなければ良いのです!好きにして下さいませ!」
ふふん!と胸を張っているところ申し訳ないんだけど、さっきの不穏ワード聞いておかないと、どんどん話が逸れちゃいそう。
「あの、話を殿下の事に戻すけど、ストーカーとか聞こえたの、気のせいだよね?」
「ん?気のせいではございませんわ。だって、わたくしが王都を出立した時、アレクがいないと騒ぎになってましたもの。多分、この近くに来ていると思いますわ」
──な ん だ と !?
「あ〜、あれ。気のせいじゃなかったのか」
「え?フィン、何かあったの?」
フィンが思い出すように、天を向いて指を顎に当てて考えている。
「昨日、アンネの大型魔道車がここの領界に近づいた時、車内から殿下らしい人影を見たんだよね」
「えええっ!?」
「この暑い季節にマントなんて被ってたら目立つよね。それを不審に思って目を向けたんだけど、殿下かな?って思ったら、すぐに隠れちゃって確証が無かった」
フィン、武闘派だからね。目がすごくいい。
見たと言うなら間違いない。
「……でも、何故向こう側に居ましたの?小結界は人や生き物は弾かない筈でしょう。クラリス様が目当てなら、領都に既に来ているのでは?」
ナッティの話にハッとする。
そうだよ、大量だったり強力な魔道具は弾くけど、魔道具を手放せば入れるはず。
「………このアルドンは、国の中でも唯一、建国時からの領地を維持している、最も広い領地です。何か昔の機能が小結界に残っているのではないでしょうか」
「ナッティは勉強家ですのね。昔の小結界は、人も生き物も弾いていたという事かしら?」
「いえ、昔の大結界と小結界はどちらも強力だったと文献があっただけで、詳しくはないです。機能についての文献は見当たりませんでしたので、想像ですわ」
それを聞いたわたしは、ふいにお父様の存在を思い出した。
──何となく、昔の機能よりは、お父様が何かした気がする。
小さい頃から、わたしが男の子とおしゃべりしただけで大騒ぎしていたお父様。
面会依頼が何度も届いていた王子様を警戒しててもおかしくないと思う。
結局、その後も王子様がどこにいるなどの答えは出るわけがなく。
かなり話し込んでしまっていたので午前中が潰れて。
課題の進捗を聞いたお母様がピシイッと青筋立てて。午後も課題をやりなさい!と怒られて、机に向かうしかなかった。
─うう、あんな事聞いたんだもん。
商店街に行くついでに、王子様が来ているか確認したかったのに。
お母様、キビシイ。




