10.お金持ちは凄いなと思いました
今日で領地に帰ってきて1週間。
ついに、アンネリゼ様たちがやってくる日が来た!
アンネリゼ様は王都から。
ナッティとフィンは王都近隣の領地だけど、ここから見ると反対側から。
ということで、わたしが魔学から帰ってきた道をやって来るということだ。
なので今、わたしとベリルは領の東端、駅の近くまで迎えに来てるのだ!
「クラリッサ様が魔道列車を自慢したいだけでは?」
「それもあるけど、早く会いたいじゃない!」
「……なぜそのわくわくがでんかにわかない」
「え、何か言った?周りの音で聞こえなかった」
「いえ、何でもありません。ああ、いらっしゃったようですよ」
「え、どこ?」
「領界の向こうの、あの四角いものです。お約束の時間を考えますと、あの魔道車のはずです」
──ぜんぜん見えない。
ほんとベリルの目、どうなってるの。
大結界を支える役目の小結界は、それぞれの領地で違う色が付いている。なので領界はアルドン領の紫色と、隣りのダルク領の黄緑が重なった色をしているのだけど、かなり薄くて透けてる。カップの湯気の方が濃いくらい薄い。
だから向こう側も普通に見えるんだけど、四角って事はバスだよね。四角すら見えないよ。
じーっとベリルが言った方を見続けて、1分以上は待っただろうか。ようやくバスらしきものが目視出来た。
「今ようやくバスっぽいのが見えたんだけど」
「クラリッサ様も練習すれば遠見も検知と似通っていますから出来るようになりますよ。それより、お嬢様たちがいらっしゃるのですから、お言葉使いにお気をつけ下さいませ。"ばす"などと言ってはいけませんよ」
「はぁい」
バスが向こう側に見えたな、と思ったら、良く見たら普通のバスじゃなかった。
この国のバスは、前世の昭和の半ばの、写真や映画で見たような外観のバスか多い。
なのに見えてきたバスは、すごく大きくて長い。
外装も、やたらと凝った木彫りの高級そうな焦げ茶色の装飾が、照りを抑えた金色に塗られた車体の上半分に付いている。金色の部分には、よく見ると家紋のようなものが浮いてる様に描いてある。
あ、あれだ。前世の小学生の時に遠足で行った、列車の博物館で見た昔の皇族専用の列車に似てるんだ。
「さすがメルクリウス公爵家ですね。あの大きさの魔道車を所有出来るとは驚きました」
「わぁー、やっぱり自家用。うちの領地でも、あそこまで大きいのは公共でも走ってないのに、凄いね」
──魔力もお金も相当ないと維持できないよ、あんなの。すっごい!!!
そうこう考えてる内に、ゆっくりと領界を越えたバスが目の前まで来て、停車した。
「クラリス!お待たせしましたわ!!!」
「クラリス様、今回はお世話になりますわね」
「クラリス様、久しぶり!」
アンネリゼ様、ナッティ、フィンが順番にバスから降りてきて、挨拶してくれる。
皆、くだけた話し方だけど。
一応、わたしは令嬢っぽいお出迎えをする。あれです。カーテシーと言うものです。
「皆様、遠い所を良くいらっしゃって下さいました。ようこそアルドン領へ。歓迎致しますわ」
スカートをつまみ、スッと膝を曲げる。
でも、丁寧な応対はここまで!
「皆様、待っていましたわ!わたくし、この日を楽しみにしていました!」
両手を広げて、大歓迎を表す。
「わたくしも、楽しみで仕方ありませんでした!ふふ、クラリス、残念令嬢の姿でないのね。新鮮だわ!」
「本当ですわね。新鮮ですけど、笑顔が自然だからかしら?こちらが普段の姿だと分かりますわ!」
「そうだね。このあいだ始めて見た時は緊張して、余計可憐に見えてたからね!」
アンネリゼ様、ナッティ、フィンが再会の喜びを表しているのか容姿の事しか言ってないのか分からない事を言っている。
「もう!皆様、相変わらずですね!ナッティ以外は非難が混じってますわよ!」
フィンに至っては令嬢らしさも崩れているけど。
フィンは可憐で可愛い外見なのに、中身は武力一辺倒。完全なる残念令嬢仲間だったのだ。
しかし、わたし以上に猫を被れる凄い友だちである。領で一緒に過ごす間に、一番参考にしなければならない1人だ。
そんな事を考えてると、アンネリゼ様はわたしのことを、じーーーっとみて、変な事を言い出した。
「うふふ……わたくし、この機会にクラリスの残念令嬢のやり方を教わるつもりですのよ」
「ええっ!アンネリゼ様に出来ますかね!?」
──つい。ついね、アンネリゼ様のボンッに目を向けてしまう。これだと無理じゃないかな、目立っちゃうもの。
「……クラリス。あなた、目線が失礼極まりない殿方になっていてよ」
「ぷっ……確かに、アンネリゼ様がたまに撃退している殿方と同じ顔をしてましたわ」
「ああ、あの火と風の魔法で、熱風を顔にかける魔法!」
──なにそれ。なにその物騒そうな魔法は!
アンネリゼ様に対するナッティとフィンのツッコミの内容が気になりすぎる。
「失礼ですわね。サウナくらいの温度ですわよ。火傷はさせてませんわ」
「わー、相変わらず魔力繰りが大変素晴らしい」
──なるほど、あっつい温風が来たら目は開けてられないし、怒りも伝わるだろうし二度美味しいかも。
「クラリス!クラリス!!わたくし魔道具技師を目指す者として、魔道列車を楽しみにしていたのです!殿方の撃退方法はどうでも良いので、早く案内して下さいませ!」
──おお、そう言えばナッティは、領地や家族の為に魔導庁の研究開発部に入りたいって言ってたね。お給料がとっても良いらしい。
「そうですね!ここで話すより、列車で好きなだけお話しましょう!こちらですわ!!」
元々、領界の近くには乗り換えの為の広いバス停留所があって、その半分に駅を建築したらしい。
もちろんそれだけじゃ列車や線路まで入らないので、駅の向こう、ホームの側は新しく広げたと聞いた。
アンネリゼ様のバスは領界を超えてきたので、ベリルと駅長の案内で駅の目の前に停めている。なので、わたしは入り口からホームに案内するだけである。
ちなみに、でっかいバスは魔力の消費も車体維持も整備も大変で、それぞれの為の大人数を乗せて来てるらしい。すごい。
流石にアンネリゼ様達が帰途に着くまでいる訳にはいかないので、一度王都に戻るそうだ。
行きも戻るもお金が大変かかりそうである。
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「さあどうぞ!ご覧くださいませ!
こちらが我が領地が誇る、魔道列車でございます!」
「まぁ!これは凄いわ!」
「まぁぁぁぁぁ!こ、これが噂に聞いた……!」
「ごつくて強そうでカッコいいね!これは!」
アンネリゼ様、魔道具好きのナッティは分かるけど、フィンだけ外装を褒めている。もう慣れてきたので次に行こう。
列車に乗り込みつつ、説明を頑張る。
「こちらは、お母様が貴族や富裕層向けに作成した特別な列車で、是非とも皆様に乗って頂きたいと用意したものです」
「まぁぁぁぁ!あの魔道具作成の天才と呼ばれた、カトリーナ様が手がけたと……素敵」
ナッティが手を両手に当てて、感動している。うむうむ。そうそう、凄いのだ!
「このように外装も内装も豪華なのですが、お母様が居心地にもこだわって、至る所に魔道具が設置してあるのです。例えば、このソファは水と風を駆使した魔道具を備えているので座り心地がとても良いのです」
「なるほど!確かにポヨンポヨンだ!むっ、しかし背中と横はふわふわしている!」
フィンがソファに座って上下に動いて感動している。うむうむ。いいよね、それ!
「こちらのテーブルは、土と雷の魔道具で多少の揺れでも耐えられるようになっています。あと………」
「ちょっとお待ちになって!クラリス。魔道具の事は後でじっくり伺いますから、皆でこちらに座りましょう。ナッティもよ!」
「え!もうちょっと見たいのですが……」
わたしの案内話を遮って、アンネリゼ様に皆が集合するように声をかけられた。
ナッティはまだ車内をキョロキョロ見回して、あれは、これは、とブツブツ言って、離れがたそうである。
「それより気になる事があるのを忘れましたの?」
「ああ!そうでしたわ!」
ナッティはそう言って、皆が順に座っていったソファの、フィンの隣に腰掛ける。
─え?ナッティの魔道具より大事な話って何だろう?
「さぁ、クラリス!アレクとのお茶会で何があったか、話して頂戴!この1週間、ずーーーーっと!待ってましたのよ!」
「そうですわ!気になって恋愛物語ばかり読んでしまうくらいでしたのよ!」
「わたしも、後学の為に聞きたかったんだよね!」
──えーーーっ!?そっち!!??
アンネリゼ様、ナッティ、フィンに急に詰め寄られて驚いた。
──えーと、話したくありません!
「ええええーと、こちらの魔道列車はすごいのですけど」
「違いますわ!アレクとの件と言っているでしょう!話を元に戻さないで下さいませ!」
「ひゃい……………」
──誤魔化そうとしたけどダメでした!
アンネリゼ様の、この剣幕で詰め寄られたら、王子様もタジタジになるのが良く分かります。
取り巻きしてる時、冷たい目で見てすみませんでした。
とほほ……。




