第七話 樹海
[さつきちゃん…最近はゆずくんと上手くいってるの?…]
『紀子おばさま…私達は別に恋人関係じゃ無いですよ…』
[そうじゃなくて…さつきちゃん…こないだ見えちゃったんだけど…背中に痣があるよね…ゆずくんって…暴力を振るうんじゃ…]
『まさか〜弓弦は私に指一本触れる度胸はありませんよ…』
[じゃあ…あの痣は…?…どうしたのよ…]
涙ぐむ紀子を、さっきは見つめた…
ゆっくり紀子に近いて、さっきは紀子を抱きしめた…
『紀子おばさま…気にかけてくれてありがとうございます。この痣は私がこの世に生を受けた時から背負ったモノ…だから大丈夫』
紀子はさっきを抱きしめ返した。
[さつきちゃんは…ホント強いわね…]
さっきの記憶…が蘇る…
富士の樹海の奥深く…一人の少女が息絶えようとしていた…
死神は人の死に引き寄せられる…
…大きな苔むした岩の上に、横たわる少女…
『おーい…まだ、意識はあるか?…』
死神は少女を覗き込んだ…
「…誰……」
『死神って奴だ…もうすぐ死ぬみたいだから迎えに来た…』
「…へ〜……死神って…ホントにいるんだ…」
『そうだな…普通は死神を見る事は無い。…見えるのは自殺した人間だけ…』
「…そう……」
『お前…手首を切ったのか…?』
「…うん……」
『お前…まだ死にたくないのか?…』
「……」少女は微かに微笑んだ…
『お前は馬鹿なのか?…生きていたいのに自殺するなんて…』
「…死神…さん……私…もう死ぬよね…」
『死ぬ、まもなく…』
「…もう一度…会いたかった…」
『苦しいだろ…、早く死んでくれ…』
「…死神さん…助けて…」
『……』死神は何かを思いつく…
「…助けて…」
『…助けてはやれないが、お前の身体はまだ生きている…私に預けて見ないか?』
「……?…助けてくれる…の…」
『助けてはやれないが、身体を預かることはできる…お前が会いたい人間に会う為に…』
「……お願い…」
『契約するか?…死神の契約…』
「…します…」
迷いなく、決断する少女…
死神は笑った…
『契約成立だ…お前に残された時間は…数秒…』
『身体と数秒の意識を預かろう…キミの名前は?』
「有村 雫」
身体は人間の魂さえ与えれば、復活できる…
あとは、キミの思いが導くだろう…
『人間の世界を見られるいい機会ができた…いい暇つぶしになりそうだ…』
〜暖かい人の温もり……
さっきは、意識を戻す…
『紀子おばさま…今日は一緒に街に行きませんか?気分転換に…』
[あら…いいわね、さっきちゃん。行きましょう。]紀子は嬉しそうに、さっきの肩を掴んだ。
そう…私の使命は、この身体の持ち主を知る者を探すこと…この広い世界で、出会う確率は極めて低いと思うが…少女の思いが、導いてくれるだろう…
さっきは紀子と、街に出て行った…
[若い子と街を歩くなんて…自分が若返ったみたい…]と、紀子は意気揚々だ…
さっきは街を見渡し、
人間界を楽しんでいるようだった…
そして、いつか…身体の持ち主を知る者に出会える事を待つしか無かった。
そして、弓弦はアルバイト2日目
朝から、身体中が筋肉痛で動きがぎこちない…
初日は荷物の搬入と、倉庫整理…
身体中が筋肉痛になるのも無理はない…
それでも、弓弦はこの仕事が楽しかった。
出来ない事が、
少しずつ出来るようになってくる…
マサさんが、仕事を教えてくれた。
『なあ、ゆず!お前ホントに金持ってねーのか?…まったく…』
「はい…嘘じゃ無いです、先週までばあちゃんに任せっきりで…先日、ばあちゃんの通帳見つけて銀行に行ったら…未成年だから相続に時間がかかるらしく…下せなくて…」
『そうなんだ…で?相続手続はしたのか?』
弓弦は首を横に振った。
「未成年後見人と言うそうです…もちろん手続は進めますが、時間がかかる事わかってて今は進められません。」
『で、手取り早くアルバイトってわけか…』
「そもそも銀行のお金は、おばあちゃんのお金なんで…」
『ふ〜ん…ゆずはいい奴だな…』
バイト終わりに、社長に呼ばれた。
『おーい!ゆず!!ちょっとこい!』
「ハイ!」弓弦は走って社長の部屋に行くと、
『それ持ってっていいぞ』
箱に入った野菜がたくさん。
『えー…いいんですか?!…』
嬉しそうに喜ぶゆずを見て、
社長も嬉しそうだ…
『マサ!!ちょっとこい…』と、マサさんを呼びつけると、
『お前、これ運ぶの手伝ってやれ、車使っていいから…』
『わかりました!…』
「悪いですよ…社長…」
『いいんだよ…コイツも昔はこうやって野菜もらってた口だ…』
『そうゆーこと…気にするな!』
工場のトラックの荷台に2箱野菜を積んで、
弓弦を助手席に乗せた。
『よし、行くぞ…家まで案内しろ!』
弓弦の家までは、車で5分くらいだった…
『近いんだな…』
「ありがとうございました。あとは自分で運びます。」
『なんだよ、水臭いな…運んでやるよ』
玄関を開けて、入り口に野菜を置いた。
…良かった…さつきは紀子おばさんの家かな?
マサさんにさつきが見つかると、まためんどくさそうだから…
『弓弦、今帰りか?』
入り口にさつきが立っていた…
マサはさっきを見て、完全にフリーズしていた…
『ゆず…、こちらの美しいお嬢さんは…誰だい?』
「あっ…マサさん…」
『お客さん?』と、さっきが玄関を入ろうとした時…
弓弦は
「さつきさん…今帰りですか?」と、家に入るのを阻止して、
「これ紀子おばさんに…バイト先の社長さんにもらって……、こちらバイト先の先輩で、〝マサさん”ここまで運んでくれたんだ…」
『すごーい、こんなに?マサさんもわざわざすみません…』
と、野菜の箱を持ち上げようとした時。
『あっ…自分が運びます!』
と、まさがさっきから箱を奪った。
これは…なんか、イヤな予感が…




