第六話 労働
『紀子おばさま。彼女の下着も買えない男って…どう思います?…』
紀子はクスクス笑って…
[ホント世知辛い世の中よね…一銭も下せないなんて…]
「期待しただけ…落胆が大きいよ…」
『ホント甲斐性ないんだから…』
「こればっかりは、甲斐性なんかじゃないよ…結局は、おばあちゃんのお金だから…、」
『へ〜…なんだか、当たり前の事言ってるのに、カッコよく見えるのは弓弦くらいだよ…』
[相変わらず、さつきちゃんは厳しいね〜]
「いや…おばさん、さつきの言う通りですよ、僕はおばあちゃんのお金を当てにして…ホント恥ずかしいよ…」
[なんだい…ムキになって…]
「とにかく、明日はアルバイトを探しに行くよ」
『馬鹿は馬鹿なりに…ですよ…おばさま。』
と、さっきは紀子に微笑んだ。
[さつきちゃん…ホントいいお嫁さんになるよ…]
翌日…
朝、さっきと弓弦は紀子の家で、朝食を食べると、弓弦は一人でアルバイトを探しに出かけた。
弓弦は近くの、ファーストフード店でアルバイトの面接に行くも、顔のキズを見て…
断られた、
「この顔じゃ…接客業は厳しそうだな…」
街を歩き、アルバイトのチラシに目を向けて回る…
車の整備工場のチラシを見て、
工場に入ってみる…
「すみません〜誰かいらっしゃいますか?」
『ハイ!どちら様ですか?…』
「すみません!アルバイトのチラシ見て来たんですが…」
『あ〜。アルバイト?…ちょっと待ってね…』
作業着を着た作業員が奥の部屋に向かって、
『社長〜アルバイト希望の方が、来ましたよ〜』
叫んだ…
少しして、
その作業員が、手を振って
『お〜い!あんちゃん!こっち来てくれる?』
「あっ…、ハイ」
そう言って、弓弦は走って中に入って行った…
部屋に入ると、白髪で髭を蓄えた70歳くらいのお爺さんが、怖い顔で座っていた…社長さんらしい。
『あんちゃん…そこに座ってくれ…』
「はい!」弓弦は社長の前の席に座った。
社長は弓弦が持って来た、履歴書を自分の前に置いて、質問をはじめた。
『名前は?…』
「大崎 弓弦です。」
『ゆずるくんか…その顔のキズはどうした?』
「……。あ、、喧嘩…、、イヤ…殴られました…」
『誰にやられたんだ…?』
「学校の先輩です…あの…僕は、ずっとイジメられてて、先日、学校を退学してきました。」
『それで、高校中退って事か…』
「そうです、学力はありません…特技もありません…でも、唯一の肉親のばあちゃんが死んで…働くしかなくなったんです。」
「なんでもします。働かせてください。」
と、立ち上がって頭をさげた。
『ゆずる…今から働いてけ、着替えろ…』
「えっ…!いいんですか?」
『気が変わらないウチに、早くしろ。』
「ハイ!ありがとうございます。」
社長は社長室のドアを開けて、
『おーいマサ!!コイツ雇うことにしたから、作業着着せてやってくれ!あとはお前が教えてやれ…』
と、叫んだ。
『ハイ!わかりました!』マサは弓弦に作業着を渡して、ロッカーに案内してくれた。
『オレは高橋正彦だ、みんなマサって呼んでる、宜しくな!
「ハイ、マサさん。宜しくお願いします!僕は大崎 弓弦です。」
『ゆずって呼んでいいか?』
「はい!もちろんです。」
その後、マサさんはいろいろ教えてくれた…
昼になると、社長が
『おーいマサ!飯だ!!休憩させろ』
『おいゆず!お前昼飯持ってきてねーだろ…』
マサが、心配して聞いた。
「はい…大丈夫です、昼はいつも食べないんで…」
『何言ってんだ。昼は皆んなで飯食うんだよ!』
後ろから、社長が、
コンビニ弁当を弓弦に手渡した。
『今日は急に働かせたから、弁当持ってねーだろ』
「えっ!…、いいんですか?…ありがとうございます。」
控え室のような部屋に入ると、作業着姿の人が数人座って待っていた。
この工場は、
社長 三滝 練児
高橋正彦 マサさん
のほかに、
尾松優作 おまっさん
片桐 進 しんさん
三滝 夢 おくさん
5人ほどの社員が働いていた…
みんな柄の悪口調で、
アルバイトの弓弦にいろいろ聞いてきた。
『ゆず、オメー喧嘩に負けたのか?』
「負けたっていうか…一方的にやられただけです…」と、言うと。
奥さんが、
『それでいいんだよ、へたに手出したって人様に怪我させるだけだろ…強い男って別に腕っぷしが強い奴の事じゃないからね。』
おまっさんが、
「でも…奥さん、ゆずはこんな顔に怪我してたら、身体が持たないっすよ!」
進さんも
「そうですよ、少しくらい身体を鍛えた方がいい。」
マサが、
『まあ、ここで働けば勝手に鍛えられるよ…』
そう言って笑った。
マサが続けて
『ゆずは彼女いるのか?』
「そんなのいるわけないじゃないですか、」
弓弦が答えると、
『まあ、その顔じゃあな…』
と、皆んなで笑った…
皆んな、話してる内容は、
からかい半分だが、どこか優しい…
なんだろう…今まで、からかわれた時…
ムキになったりしてたんじゃないか…
工場の皆んなは、
口は悪いけど、優しいのがわかる…
《…そうか…今までは僕が馬鹿だったのか…》
『おい!ゆず…大丈夫か?、ぼーとして…』
「あ!?はい…大丈夫です…」
『ゆず、お前…一人暮らしか?…誰か保護者いるのか?…』
「あー…、保護者はいません…、両親が事故で亡くなってから、ばあちゃんと二人暮らしだったんで…先週ばあちゃんが亡くなって…」
一瞬、空気が静まり…
『飯は食えてるのか?…』
「今は、隣りのおばさんが食べさせてくれてて…いつまでも、甘えられないんで…バイトを探してたんです。…」
社長の三滝が、
『ゆず…お前、一人で抱えんじゃねーぞ、なんかあったらいつでも相談しろよ…』
「社長…ありがとうございます!」
初日の仕事を終え、
家に帰ると…あかりも付いていなくて、
真っ暗だった。
『おーい!弓弦!!遅かったな…アルバイトは決まったのか?』
紀子おばさんの庭に水を撒く、さっきが垣根越しに呼びかける。
『どーした…早くこっち来いよ!今日の晩御飯はほとんど私が作ったんだぞ!』
弓弦は、さつきを見て
なぜか、涙が溢れてきた…
世の中って…こんなに優しいんだ…
今まで、それを見て来なかったは自分だった…
『おーい!どうした?アルバイトが見つからないくらい気にするなよ…また、明日探せばいいんだから…』
「アルバイト見つかったよ!さつき!!」
叫んだ弓弦は、涙が溢れていた…




