第三十八話 影響
病院の処置室前。
「瑞穂ちゃんは……大丈夫なんですか?」
愛美が、処置室から出てきた医師に尋ねた。
「今は処置を続けています。薬物の影響も考えられますが、まだ断定はできません。意識が戻ったら、本人からも話を聞く必要があります」
愛美は、唇をかみしめた。
そのとき、廊下の向こうから冨樫が歩いてきた。
「遠藤さん、連絡をもらって来ました。加納瑞穂さんに何があったんですか?」
まどかが立ち上がった。
「同級生の一ノ瀬剛……あいつが関係していると思います」
「一ノ瀬剛?」
冨樫の表情が変わった。
「それは……どうして、そう思うんです?」
「瑞穂は、一ノ瀬に追い詰められていたんです。お父さんもお母さんも、行方がわからなくなっていて……」
冨樫は黙って話を聞いていた。
やがて、低い声で尋ねた。
「……加納瑞穂さんは、誰から薬を渡されたと言っていましたか?」
「そこまでは聞けていません。ただ……助けて、と」
まどかは、瑞穂の苦しそうな姿を思い出し、言葉を詰まらせた。
「わかりました。まずは本人の回復を待ちましょう。ただ……」
冨樫は、処置室の扉に目を向けた。
「もし、この薬物が誰かに使わされたものなら、話は変わってきます」
冨樫の言葉に、まどかは表情を引き締めた。
〜 一方、その頃。
一ノ瀬剛は、車の後部座席からチンピラたちに指示を出していた。
「遠藤円を調べろ。人間関係と家庭環境を、まずは洗い出して報告しろ」
「はい!」
チンピラたちは返事をすると、その場を離れていった。
車から離れたところで、一人が吐き捨てるように言った。
「あのガキ、調子に乗りやがって……」
「まあ、そう腹を立てるな」
兄貴分の男が、薄笑いを浮かべた。
「あんなガキは、ろくな死に方しねえよ。利用できるうちは利用する。ただ、それだけだ」
「兄貴……遠藤円って女、本当に調べるんですか?」
「ああ。居場所を突き止めて、報告してやれ」
男は、煙草をくわえながら言った。
「余計なことはするな。まずは、どんな人間なのかを知る。それからだ」
〜 遠藤農園。
ゆずるが収穫用のケースを片付けていると、一人の男が近づいてきた。
「あの……すみません。こちらに遠藤円さんはいらっしゃいますか?」
ゆずるは運んでいたケースをその場に置いた。
「はい。どちら様ですか?」
「学校の事務を担当している、澤村と申します」
「ああ、渋沢高校ですか?」
「はい、そうです」
「そうですか……僕も渋沢高校に通っていました。中退してしまいましたけど」
「そうなんですね……」
澤村は、少し間を置いてから話を続けた。
「今日は、遠藤さんの所在確認に来たんです。ご自宅からきちんと登校しているか、簡単に確認することになりまして」
「そうなんですね……。大丈夫ですよ。円さんは、ちゃんとこちらから登校していますから」
「そうですか。それなら安心しました」
澤村は、ほっとしたような表情を浮かべた。
「最近、家出をする生徒も多いものですから。念のため確認しているんです。こちらに、学生がたむろしたりすることはありませんか?」
「ないと思いますけど……」
「そうですか。ご協力ありがとうございました。それでは、失礼します」
澤村は軽く頭を下げると、農園を離れていった。
ゆずるは、特に疑うこともなく、再びケースの片付けに戻った。
その頃、農園から少し離れた場所で、澤村は携帯電話を取り出していた。
「兄貴……遠藤円の居場所、わかりました」
電話の向こうから、低い声が返ってきた。
『よし。引き続き、周囲の様子も探っておけ』
「わかりました」
澤村は電話を切ると、何事もなかったかのように歩き出した。
そして、その翌日…
遠藤農園に、異変が起こり始める。




