第三十三話 告白
写真を眺めている緑に弓弦が近づいた。
『……この写真、雫ちゃんが焼肉食べてますよね?』
緑が写真を指差した。
「うん…そうだね。」
『雫は、お肉が苦手だったんです。食べているところなんて、一度も見たことがなくて…。』
「へー、そうなんだ…意外だね。」
緑は、もう一枚の写真を指差した。
『それから…これ。』
写真には、野菜を切っているさつきが写っていた。
『右手に包丁を持ってますよね?』
「うん。」
『右手首に包帯してるのに…。雫は左利きなんです。』
「……」
弓弦は、写真を見つめた。
『なのに、わざわざ怪我している手で包丁を持ってるのが…引っかかって…。』
「なるほど…確かに謎だね…。」
緑は、写真の中のさつきを見つめた。
『なんだか…別人みたい…。』
弓弦は答えられなかった。
「また、何か分かったら教えて…。」
『ハイ!』
夕方になり、紀子と緑は帰る準備をして、弓弦も一緒に帰ることになった。
『今日はありがとうございました。』
緑が頭を下げた。
緑と紀子、弓弦の3人は愛美の車で送ってもらい、無事に紀子の家に帰ってきた。
紀子が、
『さあ、沢山お野菜いただいたし…カレーライスでも作りましょうか?』
緑が、
『いいですね〜、皆んなで作りましょ!』
3人は、今日一日の農場での話や、雫の話をして過ごした。
カレーを食べながら、
「緑ちゃん、明日はどうするの?」
ゆずるが聞くと、
『明日は、神田の「常世神社」に行ってこようかと思ってます。』
紀子が、
『私も一緒に行ってもいいかい?』
『はい!もちろんです!そのまま、帰りは東京駅から帰ります。』
笑顔で答える緑。
ゆずるが申し訳なさそうに、
「明日も僕は仕事で…一緒に行けなくてごめんね…」
『そんな…今日もこうやって一緒に過ごしてくれて、嬉しいです。…私こそ連絡もせずに急に来てしまって…すみませんでした。』
『いいのよ…私なんて、もう毎日暇で暇で…。無理くり予定を作って過ごしてるくらいだから、緑ちゃんが来てくれて、とっても楽しかった。』
『紀子さん…』
緑は、嬉しそうに笑った。
『あの…私、そろそろホテルに帰ろうかと…』
緑が立ち上がって、カバンを持った。
「あっ…それじゃあ、僕、送って行くよ。」
弓弦がすぐに立ち上がると、緑が嬉しそうに、
『ありがとうございます。』
と言った。
ゆずると緑が家の外に出て、駅に向かおうとした時、
『ゆずる!!』
弓弦の家の前から、ゆずるを呼ぶ声。
マサだった。
隣りには、さつきもいる。
マサが、さつきを家まで送って来たのだ。
弓弦がマズイと思った時、緑が、
『お友達ですか?』
と言った。
緑は視力が悪く、メガネをしている。
そうか、この距離だと、さつきだとはわからないか。
ゆずるは大きな声で、
「ちょっと駅まで送ってくるので、家で待ってて下さい。」
と、手を振った。
マサとさつきに、こっちに来るなと言わんばかりに声を張った。
マサは、
『お…おう、わかった!』
と、手を振っていた。
弓弦は緑の手を引いて、
「さあ、行きましょう…」
と、歩き出した。
『あ…あの、大丈夫なんですか?お友達、来てくれたのに…』
「大丈夫!いつもの事だから…安心して。」
『そうなんですか?』
二人はしばらく無言で歩いた。
弓弦が口を開いた。
「今日は楽しかったよ、ありがとう。」
『なんだか私…男の人と手を繋いで歩いた事なくて…ドキドキしてしまって…。』
「えっ!!…ごめんなさい!すみません!!」
弓弦は、マサに声を掛けられた時に、あの場から早く立ち去ることで頭がいっぱいになり、緑の手を引いて歩いていた。
緑は笑って、
『ゆずるくん、ありがとう…面白い。』
「ごめん…ホント無意識で…。」
緑が、冗談ぽく、
『ゆずるくんは無意識に手を繋げるんだ…。』
弓弦は、
「いや…なんて言うか…」
『冗談だから、気にしないで…。全然なんとも思ってないから…ちょっとからかっただけ…。』
「ごめん…ホント普段はこんなんじゃないんだ…ホントに…」
弓弦は汗を流した。
緑が少し笑って、
『いいよ、いいよ。それより雫ちゃん…こちらでは、さつきちゃんって呼ばれてるんですね。』
「うん…そうだね。さつきって呼ばれてる…ね…」
『さつきちゃんは…ホントに、雫ちゃんなんでしょうか?』
「えっ?どういう事?…」
『実は今日、農場で見た雫の写真…美味しそうに焼肉食べてましたが、雫はお肉が苦手で食べるの見た事なくて…。』
「あー、そんな事を言ってたね…」
『それから、包丁を右手に持って野菜を切ってる写真もありましたよね…。右手首に包帯してて、雫は左利きなのに、わざわざ怪我してる手で包丁持ってるのが…引っかかって…。』
「…確かに謎だよね…。ただ、警察が言うには、農場にあった指紋と有村雫さんの指紋が一致した事から、雫さんとさつきが同一人物だとわかったんだ…。」
『そうなんですね…なんだか別人みたいなのに…。』
二人は、しばらく黙って歩いた。
そして緑が、弓弦の顔を見た。
『また、何か分かったら教えてください。』
「うん。」
少し沈黙が続いた。
やがて緑が、少し恥ずかしそうに笑った。
『それから…私が東京に来た3つ目の目的…気にならない?』
「気になるね。」
『私の3つ目の目的は……』
緑は立ち止まった。
弓弦も足を止める。
そして、弓弦の顔を見つめて
『ゆずる君に告白する事。』
一瞬、弓弦の表情が止まった。
『好きです…。』




