第三十二話 違和
『まどかお帰り〜!』
さっきがまどかを出迎えると、
『あれ?…今日はさつきちゃんいるじゃん!』
まどかは、あの事件以降、蒲田のキャバレーのアルバイトを辞めた。
元々は瑞穂を助ける為に入り込んでいたが、あの事件で、瑞穂は精神的に不安定になり、学校にもバイトにも来なくなっていた。
『ゆずる君もいるの?』
と、まどかが周りを探した。
『ゆずるはいないぞ…。なんか…静岡から女の子が来るから、さっきはいない方がいいから、愛美さんの所に泊めてもらってくれ!って言うから、私だけだ。…』
少し、まどかの金髪が逆だったように感じたが、まどかは冷静に笑顔を見せて言った。
『ゆずる君って…いじめを苦に自殺しようとしたんだよね。』
さっきが、
『そうだ…私が助けなければ、死んでたな。』
まどかは、
『信じられない…自殺しようとする人が、そんな何人も女の子を連れ込むなんて…』
さつきとまどかは、夕食の準備をしながら、弓弦の悪口を言いまくっていた。
愛美はニコニコしながら、会話を聞いていた。
『ゆずる君は、絶対良い人だから…大丈夫よ。それに円だって、こないだゆずる君の家に泊まったじゃない。』
まどかが愛美を睨んで、
『別にゆずるが誰を好きでも…私は関係無いからいいんだけど…こんなに可愛い、さつきちゃんと同棲してて、別の女の子が来るから…さつきは邪魔だ、愛美さんの所に行けって…ちょっと最低じゃない?』
と、まどかが怒っていると、
『ほら…やっぱり気になってるんじゃない…ゆずる君が…』
と、愛美が茶化す。
『そんなわけ無いでしょ、私は自分より強い男しか認めないんだから…』
愛美が微笑んだ。
さっきはニコニコして、まどかを見て、
『私が可愛い?…それから…ゆずるは最強なんだぞ…。』
と、真剣な顔で言うと、
『さつきちゃん…からかってるでしょ!…』
と、まどかは恥ずかしそうだった。
その時、愛美の電話が鳴った。
電話はゆずるからだった。
『ハイ…ゆずる君、お疲れ様…どうしたの?』
「愛美さん…すみません、今日はさつきをお願いしてしまって…」
『いいのよ、全然。ウチはさつきちゃんなら大歓迎よ。こないだはまどかがお世話になってるしね…』
愛美は、わざとまどかに聞こえるように、
『なのに、まどかったら…ゆずる君が別の彼女を家に呼んで、さつきちゃんが邪魔になったから追い出したって言うのよ〜、酷いでしょ…』
まどかがそれを聞いて、
『ちょっと…やめてよ!!…』
と、口を挟んだ。
「まさか…そんなわけないですよ…。さつきの同級生なんで、見つかると面倒だからお願いしたいって、愛美さんには言いましたよね…。それに桜庭さんはホテルに泊まるので、こちらに泊まるわけではありませんし…」
『わかってるわ…私は信じてるから…安心して。…で、どうしたの?何かあった?』
愛美は、クスクス笑いながら電話で話した。
「明日、その…さつきの友達、桜庭緑さんが、農園を見学したいって言うので、さつきが工場に出勤してからお昼過ぎに、見学に呼んでも良いですか?…紀子おばさんと一緒なんですけど……」
『別に構わないわよ…でも、ここまで遠いわね…迎えに行こうか?』
「いえ、三滝社長に相談したら、昼食ったら連れてってくれると言うので頼んでしまいました。」
『お父さんが?…』
「明日、マサさんが退院するみたいで…その足で迎えに行くって言ってました。」
『あら…マサくん良かったわね。』
「それで…明日の夜は快気祝いだそうで、夜、工場近くの居酒屋で宴会だって言ってました。で…さつきに参加するように伝えておいてください。…社長から伝言頼まれて。」
『わかったわ、明日はゆずる君も参加するの?…』
「いや…僕は桜庭さんをアテンドしようかと。多分、寂しいと思うから…紀子おばさんと桜庭さんと一緒に過ごそうかと…。それに、さつきと桜庭さんが鉢合わせると大変なんで…」
『そうね…それがいいと思うわ』
〜翌日〜
三滝が、紀子と桜庭緑を連れて農園に来た。
車を降りた三滝は玄関で叫んだ。
『おーい、ゆずる!!連れて来たぞ!』
「はーい!」
奥から、ゆずるが玄関に駆けつけ鍵を開けた。
紀子おばさんと緑が三滝の後ろに立っている。
『ゆずくんありがとうね。三滝社長がとても親切にしてくださったの…』
『ゆずる君!すみません!お忙しいところ押しかけてしまって…』
「大丈夫だよ、今日の仕事は終わってるから…問題ないよ…」
一緒に出迎えた愛美がスリッパを出しながら、
『いらっしゃい。ゆっくりして行って下さいね。紀子さんと…さつ…、雫ちゃんのお友達ね…』
「こちら農園のオーナー、遠藤愛美さん…」
ゆずるが紹介すると、愛美がぺこりと頭を下げた。
『よろしくお願いします。桜庭緑と言います。雫ちゃんとは、小学校からの友達で…』
と、富士市から持ってきたお菓子を手渡した。
『あら、ありがとうね…どうぞ、上がってください。』
緑は、雫が過ごしたであろう台所、キッチンや応接間を見たり、農園の野菜を見て回り、嬉しそうだった。
紀子と緑は、普段見ることのない農園で野菜や農具を見て説明を受けて回った。
30分くらい歩いて、緑の額に汗が見えた頃、
愛美が、
『だいぶ歩かせてしまったわね…そろそろ休憩しましょうか…』
と、声を掛けた。
紀子は日影に座って待っていた。
その間は、まどかが紀子おばさんについていてくれた。
皆んなでお茶を飲みながら、雫の話を聞いた。
緑が話す、さつきになる前の雫は、さつきとは少し違った印象を受けた。
・人を悪く言わない。
・優しく手を差し延べる。
・喋り方が優しくて、恥ずかしがり屋。
まどかがクスクス笑いながら、
『誰よそれ…さつきちゃんはいっつも弓弦の悪口ばっか言ってるのに…。』
『そうなんですか…』
緑は、それを聞いて嬉しそうだった。
壁には、明生さんが一時退院した日の写真が沢山貼ってあった。
皆んなでバーベキューをした日の写真だ。
さつきの写真も沢山ある。
緑は、席を立って写真に近づいた。
『あの…写真見ても大丈夫ですか?』
『どうぞ…それ、ココで撮影したのよ。』
『へー…なんだか、雫ちゃん楽しそう。』
緑は写真を見て、嬉しそうだった。
しばらく、緑は写真を眺めていた。
そして、ある一枚の写真に目を止めた。
緑の表情が、少しだけ変わった。




