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26 平民は戻れない日々の幻を見る3

翌日、ミシェルは朝食をとった後、祝賀パーティーに参加させられていた。ミシェルは頑なにドレスへの着替えも自分ですると言い張るので、エルは彼女に任せて、最後のドレスの直しだけを手伝った。

エルはミシェルの部屋で掃除をしながら、彼女が帰るのを待っていた。



昼食の時間にはミシェルが部屋に戻ると聞いていたため、エルは彼女の昼食を受け取りに食堂に向かっていた。

すると、その途中の中庭の木のそばに、見覚えのある人物が座っているのが見えた。エルは慌ててその人影に近づいた。


「ミシェル様」


声をかけると、木のそばで腰を下ろしていたミシェルが、エルを見上げた。


「あら、エリィ…」

「あの…祝賀パーティーは…」

「抜け出してきちゃった。少し疲れちゃって…」


ミシェルはそう言うと、少し苦しそうにお腹を撫でた。エルは両膝をついて、心配そうにミシェルを見つめた。彼女の顔は確かに青白かった。


「(…こんな大きなお腹で、立っているのもつらいだろうに…)…それでは、早くお部屋へ戻りましょう、ね」


エルはそうミシェルに話しかけた。ミシェルはエルをゆっくり見上げた。


「…ええ、でも今、お腹が張って、苦しくて…」


少しじっとしてれば治るから…、というミシェル。エルは彼女の隣にしゃがみ込み、背中を優しく撫でた。ミシェルはそんなエルを見つめた後、エルの肩に頭を預けた。ミシェルの少し癖のある髪がエルの頬に当たる。懐かしい記憶がよみがえり、胸の底がくすぐったくなる。


「(…よくこんな風に、泣いているミシェル様を慰めた…)」


慰めた、なんて大層な物言いで、本当は何もしていない。そばにいるだけ、ただそれだけ。言葉を持たない自分にはそれしかできなくても、それでも確かに、自分の胸のなかで泣き止んでくれるミシェルがたまらなく可愛かったことを、エルは思い出す。


「…アランお兄様」


ミシェルがそう呟いた。えっ、と声を漏らしてミシェルの視線の先を見ると、正装をしたアランがいた。


「こんなところにいたんだな。具合が悪いのか?」


アランは心配そうにミシェルに近づき、そして、ミシェルのそばでしゃがんだ。ミシェルは、大したことありません、と頭を振った。


「よくあることです。…少し休めば大丈夫ですから」


ミシェルは笑顔をアランに向ける。アランは心配そうに眉をひそめて、そうか…、と呟く。

ミシェルはそんなアランを見つめた後、少しずつ不安そうに眉をひそめた。そして、すぐ傍にいたエルの胸にしがみついた。


「ねえ、お城を出てしまうって、本当?」


ミシェルはそう、エルの胸に顔を埋めながら尋ねた。エルは一瞬動揺した後、は、はい…、と頷いた。ミシェルはしばらく黙ったあと、エルの服をつかむ手の力を少しずつ強めた。


「…私、あなたに生まれてくるこどもを見てほしい。アランお兄様やロゼだけじゃない、あなたにも…。すぐにはここへは帰ってこられないけれどでも、いつか必ずここへ子どもを連れて来るから、だからその時、あなたにいて欲しい。…だめかしら…」


ミシェルはゆっくりとエルから体を離すと、おずおずとエルを見上げた。エルは、自分を見つめるミシェルを見つめ返す。普段からほとんど自分の意見を言わない彼女のこの言葉の重さを、エルはよくわかっていた。

風が吹いて、2人の髪が揺らされる。エルは揺れる瞳を伏せた。


「……私、このお城で大切な人を失ったんです」


エルはそう、静かに話した。


「それから心がぽっきり折れてしまったんです。こんなところにはもういたくないって、思って、いたのに…それなのに…」


ミシェルを瞳に映しながら、エルは声を震わせた。喉の奥が熱い。エルは頬に涙を零した。


「それなのに、なんでかな、…見たい、本当に、心の底から見たいです。母になったミシェル様も、生まれてきたお子様も。見たくてたまらない…」


エルは、両手で顔を覆った。そして、肩を震わせて泣いた。

ネルのこと、火事のこと、これまでのこと、たくさんの憎むべきことがここにはあるはずなのに、それなのに、幸せそうに子どもを抱いて微笑む未来ミシェルが見たくてたまらないのだ。

ミシェルは、エルを抱きしめた。


「見て欲しい。いて欲しい。あなたに」


エルは、ミシェルの言葉に、また涙を零した。アランは、そんな2人を静かに見つめていた。











ミシェルが彼の国に帰る前の夜がきた。エルはお風呂にはいるミシェルを部屋の中で待っていた。

すると、浴室の方から何かが倒れた音がした。エルは慌てて浴室に向かった。すると、シャワールームでしゃがみ込むミシェルがいた。


「大丈夫ですか?!」 


エルはバスタオルを持ってミシェルにかけた。ミシェルは、なんだかめまいがして…、と呟いた。エルはミシェルを支えながらゆっくりと立ち上がった。


「えっ…」


エルは、ミシェルの服を着ている上からは見えない肌の部分に、おびただしい数のアザがあることに気がついた。ミシェルは、エルの表情に気がつくと、諦めたように目を伏せた。


「…今見たものを、誰にも言わないでほしい」


ミシェルは、バスタオルを身体に巻きつけながらエルに言った。エルは何も話さずに固まった。


「…殿下がね、…とても疑り深くて、嫉妬深いお方なのよ。私がほんの少しでも異性の従者と話すだけで、激昂するの。それだけじゃない、侍女と楽しくお話をしてただけで、他の男の話をしていたんだとか、ありもしないことを妄想して、手をあげてくるの」


ミシェルはそう淡々と話した。エルは、頭から血の気が引くのが分かった。痩せ細った彼女とこのアザがつながって、エルは次第に怒りに体が震えた。

ミシェルは話をしながら浴室を出て、ゆっくりと寝間着を着た。


「…お父様が亡くなった時だって、他の男と会うんだろって疑って、行かせてもらえなかった。本当はお父様のお体の調子が良くないと聞いていた時から帰りたかった。でも無理だった。…普段の外出すら制限されているんだもの、無理で当然だった」


今回はお兄様の戴冠式とお父様へのご挨拶ということで、本当に無理を言って許していただけたのよ、とミシェルは話す。エルは動揺して咄嗟に、お兄様たちに…、と呟いた。


「お兄様たちに、ご相談をされたほうがいいです…。こんなこと、許されるわけがない……」


エルは震える声でそう言った。しかしミシェルは頭を振った。


「言ったって無駄よ。私はこの国と彼の国との友好のために嫁いだんだもの」

「でもこんな…あってはいけない、こんなこと…!」

「仕方がないの。私は人である前に、この国の姫なのだから」


ミシェルは怒りで荒い息をするエルを見つめて、そして、唇を震わせたあと微笑んだ。


「私ね、実は結構このお役目気に入っているのよ。私がこうすることで愛する人を…おじ様を敵から守っているんだって、そんな信念を持てるから」


ミシェルのどこか悟ったような笑顔に、エルは目に涙をためる。ミシェルはそんなエルの目を見て、ゆっくり目を細めた。


「…あなたに、アランお兄様、それにロゼ…。本当に久しぶりに、゛私自身゛を心配してくれる人に会った」


ミシェルはそう言って微笑むと、悲しそうに目を伏せた。


「ラインハルトお兄様とエドワードお兄様には絶対に言わないで。国のためだ我慢しろって、あしらわれるに決まってるから。…そう言われるのを見て、これ以上絶望したくない。アランお兄様にもよ。…優しいアランお兄様を困らせたくない」


ミシェルの強い意志だった。エルは唇を震わせて、しばらく黙り込んだあと、…はい、と頷いた。そんなエルを、ミシェルは、ありがとう、と言って抱きしめた。





そして、エルとミシェルはベッドに入った。横を向いたミシェルは、隣で寝るエルに手を伸ばした。


「ねえ、手を繋いでいてもいい?」


ミシェルがそうエルに尋ねた。エルは、はい、と言うと、ミシェルの方に体を向けて彼女の手を握った。細く小さな彼女の手をエルは包む。ミシェルはエルの方に体を向けたまま、小さく微笑む。


「…どんな子が生まれるのかしら」


ミシェルはそう呟く。エルは、そうですね…、と考える。


「きっと、とっても可愛くて美しいお方でしょうね」

「ふふ、そうかしら」

「はい、絶対に」


エルは、ミシェルの子どもを想像する。きっと自分の目に、その赤ん坊は見たことないほど可愛くて美しくて、そして愛らしく映ることだろうとエルは確信していた。


「私の子どもを抱っこしてね、きっとよ?」


ミシェルがそう、ほんの少しだけ不安そうにエルに言った。エルはミシェルの目を見てほとんど反射的に、はい、と頷いた。ミシェルは嬉しそうに目を細めた。

エルは、微笑むミシェルの目を見つめる。


「…クリスタル侯爵にも、きっと、抱っこして頂きましょうね」


エルはそう、かつてのミシェルの願いを口にした。ミシェルは目を丸くしたあと、…ええ、と涙声で頷いた。

エルとミシェルは、一晩中ずっと手を離さずにいた。









そしてその翌朝、ミシェルはこの城を出た。エルはミシェルが乗る馬車を、見えなくなるまで見送った。




エルは、心の整理が上手くつかないまま、ふらふらと城の中を歩いた。


「(…ここに居続けるにしろ、帰るにしろ、とりあえず荷物をアラン殿下の部屋から持ってこないと…)」


居続けるならまた使用人宿舎に戻らなくてはいけないし、帰るならそのまま荷物を持って帰らなくてはいけない。そんなことをぼんやり考えながら、いつのまにか自分の中でここに残る選択肢が生まれていたことに驚いた。


アランの部屋をノックして、そして返事を聞いてから部屋に入った。部屋にはアランしかおらず、彼はエルの姿を見ると目を丸くして、彼女のそばに近づいた。


「…ミシェルとの別れは済んだのか?」

「はい。…幸せな数日間でした」


エルはそう言って少しだけ微笑む。アランはエルの笑顔を見て安心したように目を細めた。

アランは一度窓の外に目を移したあと、小さく咳払いをした。


「それで…、どうするんだ、これから」

「…」


エルは目を伏せた。そして、…わかりません、と呟いた。


「あの町に帰りたい…けど、ここにもいたい。…ミシェル様にまた、…お会いしたいから…」

「…」

「…ネルが死んで、…こんなところなんかって吐き捨てたくて仕方がないのに、それなのに、こんな気持ちになって、…自分がよく、わかりません……」


アランは、エルの方を見つめた。そして、小さく口元を緩めた。


「君が俺に言ったんじゃないか。この世界には美しいものがたくさんあるって」


エルは、ゆっくりとアランを見上げた。アランはエルと目が合うと、綺麗な青い瞳を優しく細めた。


「この世界にはきっとたくさん、生きるに値するような美しいものがたくさんある。…失ったものは取り戻せないし、その穴を埋めようなんて言わない。でも俺は、君が綺麗だと思うものを一緒に探したい。君がまた心から笑えるその時に、俺はそばにいたい」


エルは、アランの言葉に息を呑んだ。アランは真面目にエルの瞳を見つめた後、…ん?と固まった。


「…すまない、これはもうほとんどプロポーズだ、プロポーズになっている」

「えっ?」


アランは額に手を当てて、しまったな…、と考え込んだ。エルは困惑しながらアランを見つめる。アランは大真面目に深刻そうな顔で話し始めた。


「…君と俺とが結婚することはほぼ不可能だ。できたとしてもかなり時間を要する。…それでは仮に君が良くても君のご家族に申し訳が立たない…」

「えっと、あの、」

「すまない、無責任なことを言った。いや、言ったことは取り消せないか…」

「…あの、私の親も私自身も、結婚というものに特にこだわりはないので…」

「そうか、ならよかった。えっ?」

「えっ?」


顔をじわじわと赤くするアランを見つめながら、エルはようやく、自分が彼から言われたことと、自分が彼に言ったことを理解して気まずい気持ちと恥ずかしい気持ちで頬が赤くなった。


「(…ここで、アラン殿下と暮らす…)」


エルはまた、以前考えたことを思い出す。いっそ自分がエルだと名乗って、そしてここで、特に結婚という形にはとらわれずにアランと暮らしていく。そして、いつか、子どもを抱いて訪れるミシェルを笑顔で迎え入れる。そんな未来を、エルはスムーズに想像できた。


「…少し、考えさせてください」


エルは目を伏せて頭を下げた。アランはそんなエルを見つめて、…わかった、と返した。

エルは、恥ずかしい気持ちで目を泳がせながら、あの…、と呟いた。


「荷物を取りに来たんです」

「荷物?…帰るかどうかは迷っているんじゃなかったのか?」

「帰るにせよ帰らないにせよ、アラン殿下のお部屋に居続けるわけにはいきませんから」

「そんなことを言っても、どこへ行くんだ?」

「えっと…使用人宿舎にでも…」

「急には行けないだろ」

「…殿下に口を利いていただければ…」


エルはおすおずとアランを見上げた。アランは眉を少し上げたあと、わかった、と言った。エルは、ありがとうございます、と頭を下げた。


「…ただ、急には無理だ。明日以降にはなる」


アランの言葉に、エルは、えっ、と声を漏らす。


「あの、…あんまりここに長居するとよくないって、マイクさんにも言われていて…」

「…1日や2日伸びてももう一緒だよ」


アランは、窓の外に視線を泳がせてそう言った。エルはそんなアランを見ながら、そういえぱ昔からこんな人だった、と思い出して、泣きたいほど懐かしい気持ちになる。

アランは、しかし少し考えたあと、いや、と頭を振った。


「…すまない、俺が間違っていた。今から話をつけてくるよ」


アランはそう言うと歩き出した。そんなアランに、あの、とエルは声をかけた。


「む、無理は言いません。明日からで大丈夫です」


エルの言葉に、アランは少し目を丸くしたあと、わかった、と少し嬉しそうに微笑んだ。








あからさまに嫌そうなマイクの視線をみて見ぬふりして、エルは今日もアランの書斎で眠ることになった。

エルは、いっそ明日からもう使用人として働かせて貰うことにしようか、とまで考えた。


「(…ほとんどプロポーズ…か)」


エルは、あの時のアランを思い出して口元を緩める。エルはソファーの上で寝転びながら、深呼吸をした。














翌日、マイクの運んできた朝食をアランと一緒に食べていると、ヴェルドの使いが手紙を持って部屋にやってきた。アラン宛かと思えば、エル宛だった。なんだろうと思って開けると、そこにはネルの実家と、墓のある場所が書いてあった。エルはヴェルドに頼んでいたことを思い出し、ネルの実家に行かなくては、と思い立った。

アランに、ネルの実家まで出かけてくる旨を伝えると、馬車を出してくれると言った。エルは迷ったが、その方が速くて安全でしょうとマイクまで勧めてくれたので、その話に甘えることにした。


「(…ネルの実家って、私の実家の領地の隣だったんだ…)」


エルは、ヴェルドの手紙を読みながらそんなことを考える。


「(…一度、お父様とお母様と、ネルの妹さんにもご挨拶しないと)」


エルはふと思いついた。ルート的にもそれほど大きく時間は変わらないし、なかなかこんな機会もないだろうから、そこへも寄ろうとエルは考えた。







出かける準備を終えて、エルは書斎から出た。アランがエルを見て、気をつけて、と話しかけた。エルは、はい、と頷いた。


「夜遅くなるとは思いますが、今日中には戻ります」

「ああ。…俺もついていけたらよかったんだが」


アランは腕を組んで小さく息をつく。そんなアランを、マイクがじろりと睨みつけて、殿下は今日も祝賀パーティーですよ、と釘を差した。アランが、はいはい、と苦笑いを漏らしたとき、勢いよくアランの部屋の扉がノックされた。扉を開けると、ラインハルトの執事がひどい形相で立っていた。扉を開けたマイクが動揺しながら彼の顔を見た。


「ど、どうしたんです…?」

「…ミシェル様が、彼の国へ帰る途中で産気づいて、…そのままお亡くなりになられました」


執事の言葉に、エルは意味が分からずに固まった。執事は、とにかくラインハルト陛下のお部屋へ来てください、と急かした。











ラインハルトの部屋にエルとアランとマイクが向かうと、暗い顔をしたラインハルトとエドワードとロゼがいた。ロゼは泣き腫らした顔をしており、涙を止め処無く頬に伝わせて、肩を震わせていた。

ラインハルトは帰ってきた執事に、おい、と乱暴に声をかけた。


「それで、詳細はまだか?」

「は、はい…。ミシェル様がお亡くなりに…」

「子どもは無事なのかを知りたいんだ!!」


ラインハルトが余裕のない形相で怒鳴った。エルは呆然とラインハルトを見た。


「ミシェルはもういい!子どもだ、子どもが助からなかったら、彼の国との縁が…せっかく紡いだ関係が……」


ラインハルトが頭を抱える。執事は、陛下…、と声をかける。


「お腹のお子は、無事お生まれになったと聞いております」


執事の言葉に、ラインハルトは目を輝かせた。


「それを早く言わんか!!ああ…よかった…それを聞いて安心したぞ…」


ラインハルトは脱力したように息を深く吐いた。エルはただ黙って突っ立っていた。


泣き続けるロゼが声を震わせて、あのとき…、とか細い声を漏らした。


「私、殿下に申し上げましたのに…ミシェル様のご様子がおかしいって…」


ロゼが涙をこぼして、そう悔しそうに唇を噛んだ。そんなロゼに、黙るんだ、とエドワードが冷たい声で言った。


「お前も王家側の人間になったのなら、黙るんだ」

「でも…でも…」


ロゼは涙をこぼしながら訴えた。エドワードは目を伏せて膝の上で組んだ両手に力を込めた。


「あの時ミシェルを助けていたら、彼の国との仲に亀裂が入って、国民の安全が危うくなっていた。…もうこれ以上言わせるな」


ロゼは、瞳から光を失った。そして、顔をエドワードから背けると、また体を震わせて泣き始めた。






エルは、何も言わずにこの部屋から出た。そして、ただただ無心で廊下を歩いた。

すると、後ろから腕をつかまれた。振り向くと暗い表情のアランがいた。


「…今日は、外出をやめたほうがいい。もう少し落ち着いてからにしよう」


アランはそうエルを落ち着かせるように気をつけながらも、内心、自身の気持ちが乱れているのがエルにはわかった。

エルはどこか冷静に、いえ、と頭を振った。


「今日いきます。決めていたんです」

「でも、」

「それと、…やっぱり私、町に帰ります」


エルはアランを見つめて言った。アランはエルの言葉に息を詰まらせた。エルは気持ちをごまかすように震える唇で笑った。


「私、ここでは生きていかれない」


エルはそう宣言した。アランは、はっと息を呑んだ。エルはアランから目をそらすと、彼の手から逃れてこの場を去った。

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