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26 平民は戻れない日々の幻を見る1

次の日も、外は土砂降りの雨だった。

エルは書斎の窓から、どんよりと薄暗い外を呆然と眺めていた。冷たい床に座り込み、そしてただじっとうずくまっていた。

昨夜は食事など喉を通るはずもなく、そして一睡もできなかった。エルはただただぼんやりと、雨が止むことだけを待っていた。





昼頃、書斎の扉がノックされた。エルが返事をする前にアランが扉を開けた。アランはエルの顔を見ると優しく微笑んだ。


「少しここで仕事をしてもいいかな」


アランの言葉に、エルは頷くとゆっくり立ち上がり、そして部屋から出ようとした。すると、アランがそんなエルを引き止めた。


「いや、そのままここにいてくれていい」


アランはそう言うと、書斎にある作業机の前に腰掛けて、そして大量の書類を読み始めた。エルはよくわからないまましばらくその姿を立ったまま見つめた後、取り敢えず先ほどまで座っていた床に腰を下ろして、そして両膝を抱えてうずくまった。


エルは、静かに仕事をするアランの背中をふと見上げた。書類の擦れる音や、ペンが紙の上を走る音が聞こえる。時々アランの息を吐く音がする。


するとエルは急に、胸の奥が絞られるような気持ちになった。そばに人がいることで急に、ネルを失った孤独を再確認してしまったのだ。

エルは、瞳から涙がこぼれた。ネルと笑いあったこと、ネルにバカにされたこと、ネルの前で泣いたこと。思い出せる彼女との記憶の全てが眩しくて、それが余計にエルを苦しくさせる。


「(…ああそうか……ネルはもういないんだ…)」


エルは、両ひざに顔を埋めて、声を押し殺して泣いた。アランの作業する音は止まらずに部屋に響き続けた。






泣き腫らした目で、エルは呆然と床を眺めていた。薄暗い外からは今の時間がよくわからなかったけれど、今のエルには、もうそんなことはどうでもよかった。 

アランはまだ作業を続けていた。エルは泣きつかれた頭で朦朧としながらも、しかし眠ることはできずに一点だけをぼんやり見ていた。


すると、部屋がノックされた。アランが返事をすると、マイクが入ってきた。


「殿下、マリア様がいらっしゃってます」

「マリアが?」

「…エリィさんに、お会いしたいと…」


マイクは気まずそうにそう呟く。殿下がエリィさんをここに匿ってること、あんまり広まって欲しくないのに、一体どこから漏れたのか…、などとマイクはぐちぐち言う。アランはエルの様子を見たあと、とりあえず通してくれ、とマイクに言った。






「ああ、エリィ…!!」


マリアが、書斎から出てきたエルを抱きしめた。エルは、ただただマリアにされるがままになった。


「ひどい怪我…、それに顔色もこんなに悪い…」


マリアは、エルを見て不憫そうに目に涙をためた。マリアはエルの肩を両手で撫でたあと、目を伏せた。


「…ネルのこと、聞いたわ。本当に…、」

「言わないで…!」


エルは咄嗟に両耳を手でふさいだ。ネルを罪人だと言い放つロゼがフラッシュバックして、エルは、これ以上信じていた人たちから傷つけられる言葉を聞きたくなくて、目を固く閉じた。

マリアはエルの異常な様子に少しおびえた後、心配そうに眉をひそめて、ごめんなさいね、と優しい声でエルの背中を擦った。


「…ねえエリィ、しばらく私の家に身を寄せるのはどうかしら」


マリアはそうエルに提案した。


「もう少し心が落ち着くまで、ね?どう?」

「…私、早く帰りたいんです。雨がやんだらすぐに」


エルはそう言って頭を振る。マリアは、でも…、とエルに訴えかける。


「ここからあなたの町までそれはそれは遠いわよ?こんな状態で一人っきりになったら、よくないことを考えて、よくないことをしてしまうかもしれないもの。そんなの心配よ。ねえエリィ、そうしましょうよ、ね?」


マリアはエルの両手を握って、そうエルを見つめて言った。エルはマリアの目をまともに見られずに目を伏せた。そして、頭を何度も横に振った。マリアはそんなエルに悲しそうに眉をひそめると、そう…、とひどく残念そうに言った。


「(…こんなに優しくしてくれる人が周りにいてくれるのに…私はなぜ手を取れないのか…)」


エルは、自分を思って心を痛めてくれるマリアを前にしてそんなことを考える。その時急に、エルを失って心を閉ざしたアランのことを思い出す。エルは、ぎゅっと歯を噛み締める。


「(…あの時の殿下の気持ちもたいしてわからずに、さっさと忘れたらいいのになんて、無責任なことをよく言えたものだ……)」


エルは苦しくて息が詰まる。ネルを失った悲しみが、動機を激しくさせて、肩でぜいぜいとエルは息をした。マリアはそんなエルに、狼狽える。


するとアランが、もう疲れただろう、とエルに話しかけた。エルは返事はできずにその場に座り込む。マリアは不安そうな顔をするが、マイクから、とりあえず、今日はこのあたりで…、とやんわり言われたために、後ろ髪を引かれるような顔で、アランの部屋から出ていった。










マリアと別れた後も、アランは書斎で仕事をして、エルはそのそばで床に座って黙っていた。

マリアの優しさと、それを素直に受け入れられなかったことに、エルは自己嫌悪した。自分の心が正常でないことに焦るけれど、でもどうしたらいいのかなにもわからない。

エルはぼんやりと、アランの走らせるペンの音を聞いていた。窓の外ではずっと、雨が振り続けていた。













エルは、ソファーの上で目が覚めた。いつのまにか眠ってしまっていたようだった。ソファーの上には布団が掛けてあり、恐らく床で寝ていたエルをアランがソファーに寝かせてくれたのだろう。


エルは、重いまぶたをこすりながらぼんやりと窓の外を見た。すると、久しぶりに晴れた空が広がっているのが見えた。エルはよろよろと立ち上がり、窓の傍に近づいた。


「…帰れる…」


エルはそう、どこか安心した気持ちでつぶやいた。

そのとき、窓の外が騒がしいことに気がつく。城の中はいつも以上に貴族たちが出入りしており、華やかな服を着て楽しそうに笑いながら歩いている。


エルは、不思議な気持ちで彼らを窓から眺めていた。すると、書斎の扉が開いた。振り向くと、正装をしたアランの姿があった。


「起きていたのか」


ノックをしたけど返事がなかったから、とアランは言いながら部屋に入った。エルは戸惑いながら窓の外を見た。


「…何か、あったんですか?」


エルがそう尋ねると、ああ、戴冠式があったんだ、とアランが言ってエルの隣に立って窓の外を眺めた。エルは少し目を丸くして、隣りにいるアランを見上げた。


「戴冠式?」

「ラインハルト兄さんのね。朝からずっと式が続いて、すっかりくたびれたよ。祝賀パーティーから抜け出してきたから、そろそろ気がついたマイクが俺を探し始める頃かな」


アランはそう言って小さく笑う。エルは、そんなアランの横顔を見つめる。久しぶりに晴れた春の太陽が窓から差し込み、アランがそれに照らされて眩しくて、エルはなんだか見られなかった。アランは、知ってる?とエルに尋ねた。


「城の外はお祭りをしてるんだ。戴冠式の後は1週間くらい、お祝いする人たちで朝から晩まで賑やかだよ」


アランの言葉に、エルは、前の国王の戴冠式の時に、アランと2人でお祝いのパーティーから抜け出して、お祭りを見に行ったことを思い出す。

幼い王子が居なくなったことで大騒ぎになったのか、すぐさま迎えが来たために、ほんの一瞬見られただけだったけれど、エルはその時のことをよく覚えていた。過去の楽しい記憶で締め付けられる胸を隠しながら、エルは、そうなんですか…、と返した。


アランはエルの横顔を見た後、そうだ、と言うと、書斎から出ていった。ばたばたとなにやら騒がしい音の後、王子にしては簡素な服に着替えたアランが現れた。

アランは手にストールを持っており、それをまだ顔の傷が痛々しいエルの頭に被せた。エルは何が何かわからずに狼狽えながらアランを見上げた。アランはエルと目を合わせてから微笑むと、エルの手首を掴んだ。


「見に行こう。ほんの短い間だけ」


アランはそう言うと、エルの手を引いて歩き出した。エルはわけがわからないまま、アランに連れられるがまま部屋の外へ出た。









エルはアランに手を引かれて、城の廊下を抜けて、門も抜けた。周りにはたくさん人がいたけれど、皆お祭り気分で浮かれていて、王子が横を通ったとは誰も気が付かなかった。


お城の近くの街では、皆が笑顔で踊ったり、歌ったり、食べたり飲んだり、明るく陽気な空気が流れていた。

何人かが花びらを空に散らしているのが見えた。色とりどりの花びらが、この華やかな空気の中ひらひらと舞っていた。

エルはアランとフラワーシャワーの下を通り、そしてどんどん街を進んだ。エルは周りを見回しながら、昔の記憶を思い出した。あの日も、アランと2人でここへ抜け出してきた。見慣れない光景に胸を躍らせて、ほんの短い時間だったけれど、とても楽しい体験だったことを覚えている。


晴れ渡る青い空の中、人々の楽しそうな笑い声が聞こえる。きれいな花びらが舞う。そんな光景が、今のエルには眩しくて、つい立ち止まる。その拍子に、アランの手がエルから離れた。

アランはエルの足が止まったことに気がつくと、自分も足を止めてエルの方を振り返った。エルは少しずつ顔をうつむける。この綺麗な空の下にいることだけで胸が苦しくて、この場所に蹲りたくなる。


「ねえ、お姉ちゃん」


町の少女に、エルは突然話しかけられた。10歳にもなっていないだろうか、幼い少女はそばかすのついた頬を緩ませてエルの瞳を見つめた。


「これあげる」


少女はエルに小さな紙袋を差し出した。エルは目を丸くしてその紙袋を見つめる。少女は受け取らないエルに、大丈夫、とにっこり微笑んだ。揃わない歯が彼女の口からのぞく。


「私、これの他に2つももらったんだ。妹の分もあるから平気だよ」


少女はそう言って視線を動かした。エルがそれに続いて視線を動かすと、女性が紙袋を投げて子どもに配っている光景が見えた。子どもたちはそれをもらうために、楽しそうに彼女の周りで飛び跳ねている。


「…あの…ありがとう…」


エルはその袋を少女から受け取って、開けてみた。中には小さなクッキーが2枚ほど入っていた。少女はエルの方を見て、またにっこりと笑った。


「美味しいよ、うんと笑えるくらいにね!」


じゃあね!と少女はエルに手を振って走り出した。少女が向かう先には、彼女の妹らしき女の子と、その子と手をつなぐ母親、そして父親がいた。少女は父親の腕に飛びつくと、家族と笑って歩いて行った。


エルは笑い声や歌う声の中に埋もれながら、少女からもらった紙袋を震える両手で優しく包んだ。


「(……憎いよ…この世界が………)」


エルは震える唇を噛み締める。喉の奥が痛いほど詰まり、呼吸すら難しくなる。

花びらが舞い、人々は歌い踊り、そして楽しそうに笑う。そんな光景を、エルは涙のにじむ瞳で見つめる。


「(こんなに憎くて、苦しくて、やるせなくて、虚しいのに…それなのになぜ…こんなに美しいんだ)」


エルは、少女の笑顔を思い返す。こんな世界にいたくなんかないと吐き捨てたくて胸がいっぱいなのに、この世界で見られたあの優しい笑顔が、どうかいつまでも続いてほしいとも心の底から願ってしまう。

エルは、頬からこぼれ落ちた一粒の涙を手のひらでぬぐった。


アランはエルを見つめた後、ゆっくりエルの前に歩いてきた。そして、ポケットから白い布で包まれたものを取り出して、エルに差し出した。


「…これを君に」


アランはそう言うと、白い布を取ってみせた。中には、ネルがいつもつけていたブレスレットがあった。エルは息を呑んだ。


「これ…」

「これだけは連れてこられた」


エルは、アランの手にあるブレスレットを震える手で受け取った。そして、それを胸に抱きとめた。エルはまた目から涙をこぼして、そしてアランを見上げた。


「…彼女の家族のところへ、連れて行ってあげてもいいですか?」

「ああ、そうしてやるといい」


アランは優しく頷いた。

周りの人たちの楽しそうな声が響く中、エルはブレスレットを見つめて、また一粒涙をこぼした。













エルはアランと共に城に戻った。アランの部屋に向かうと、部屋の前に鬼の形相をしたマイクが立っていた。


「ああっ!殿下やっと見つけた…っ!」


マイクがばたばたとアランのそばにやってくると、どれだけ探したかと…!とお小言を言い始めた。アランは、すまなかった、と特に悪びれずに言う。マイクがため息をついた時、アランの後ろにエルがいることに気が付き、眉をひそめた。エルはなんとなく居づらくて彼から目をそらした。

すると、アランが、ヴェルド、と声を上げた。エルが振り返ると、そこには使用人に支えられて歩くヴェルドがいた。アランはヴェルドに近寄った。


「どうしたんだ」

「もう家に帰ろうかと思ってな。身体が治るまでは城に顔は出せんくなるが」


ヴェルドはそう言ってため息をつく。アランは、ゆっくり休んでくれ、と彼に声をかけた。


「アラン殿下、いい加減祝賀会に戻りますよ!」


マイクはそう言うとアランの腕を引いた。アランは、わかったわかった、と言うと、渋々歩き始めた。しかしすぐに足を止めて、エルのほうを振り向いた。


「部屋に戻っていてくれ。夕飯までには戻るから」


アランは優しい声でエルにそう言うと、また歩き始めた。マイクは何かを言いたげに口籠ったものの、早くアランを戻らせたいのか、何も言わずにこの場を去った。

エルは、ヴェルドのほうを見上げて、あの…、とおずおず声をかけた。


「ネルの実家の住所がわかったら、教えていただくことはできますか?。一度お墓参りにいきたくて」

「ああ…。今その件も含めて調査をさせているから、また教える」

「ありがとうございます」


エルは深々とヴェルドに頭を下げた。ヴェルドは軽く咳払いをした。


「お前は、いつまでここにいるんだ?」

「えっと、もうすぐにでも帰る予定です」

「そうか、ならいい」


ヴェルドはそう言った後、また咳払いをした。


「…これからあの火事の被害者の調査が始まる。じきにあの遺体がお前じゃないこともわかるだろう。そうなる前に、ここから去ったほうがいいと思ったからだ」


ヴェルドはつけ足すようにそう言った。エルは、そうだったんですか…、と呟く。ヴェルドはエルをちらりと見ると、小さく息をついた。


「…まあ別に、お前が生きていることはもう知られても構わんのか」

「え?」

「お前を殺そうとしていた奴の件は済んだし、…次の国王はラインハルト陛下に決まったし」

「えっと…?」

「エル・ダニエルとしてまた生きたらどうかと提言してやってるんだ」


ギリギリと歯を鳴らして苛立った様子でヴェルドが言った。エルは目を丸くしたあと、あの…、とおずおず口を開いた。


「ダニエル家はもうなくなったので、どのみちエル・ダニエルには戻れませんが…」

「…そういうんじゃなくてだな、だから、エル・ダニエル…じゃない、エルとしてまたアランと…ああもういい!勝手にしろ俺は知らん!以上!!」


ヴェルドは大きな声を出したせいで、また傷口が痛んだのか、脇腹を押さえてひたいに汗を垂らした。傍にいた使用人たちが慌ててヴェルドの無事を確認している。エルが呆然としていると、向こうの方からルーナがとたとたと駆け足でやってきて、そしてエルに抱きついた。


「ルーナ様!」


エルは、目を丸くして彼女と目を合わせた。ルーナは片目は包帯で隠した痛々しい姿だったけれど、元気そうな笑顔をエルに見せた。エルは彼女の傷に胸が痛み、目を伏せた。


「…私のせいで、あなたに傷を…」


ルーナはエルの口元に両手を当てて黙らせた。エルが言葉をとめると、ルーナはカバンから紙とペンを取り出し、そして文字を書いた。


「(レグラス家で使用人として雇っていただけることになったの)」


エルはルーナの目を見て驚いた顔をした。ルーナはにこりと微笑むと、また文字を書いた。


「(話せないけど、文字の読み書きはできるから、雇ってもらえたのよ。エリィが教えてくれたおかげ)」


エルはゆっくりとルーナの顔を見た。ルーナは優しい目でエルを見つめると、また文字を書いた。


「(あなたのおかげで、お父さんとお母さんの無実も証明された。本当に本当に、ありがとう)」


ルーナの文字に、エルは目の奥が熱くなった。ついエルは、うっ、と嗚咽を漏らした。そして、両手で顔を覆って、子どものように泣き崩れてしまった。ルーナは床に座り込むエルの傍にしゃがむと、エルを優しく抱きしめた。そして、頭を優しく撫で続けた。

ヴェルドは小さくため息をついて2人を見下ろした。そして、ルーナ、門の傍に停めた馬車に来るんだぞ、とだけ言うと、使用人を連れて歩いて行った。








ルーナは、エルが泣き止むのを見届けると、ヴェルドの待つ馬車に向かった。

エルは泣き腫らした目で、アランの部屋に入った。そして、書斎にある自分の荷物を纏めた。外は夕暮れに染まっていた。今から歩いて帰れば数日後には港町に着くだろうか、ということをぼんやり考える。


「(…エルだということを明かす…)」


ふと、ヴェルドが言っていたことを思い出す。エルは、荷物をまとめる手を止める。


「(…アラン殿下にエルだと明かして、…このお城でこれからも暮らす…)」


ダニエル家はなくなってしまったから、エルは貴族には戻れない。だから、エルと明かした後もエリィとしてこのお城で使用人の仕事をして、結婚はできなくてもアランのそばで暮らす。そんな生活がふとイメージされて、エルは帰る準備をする手が動かなくなった。


すると、扉がノックされた。返事をすると、アランが部屋に入ってきた。アランはエルの顔を見ると安心したように笑った。


「やっと終わったよ。本当に長かった。明日も明後日も似たようなパーティーをするらしいからうんざりだよ」


もうすぐマイクが夕飯を運んでくるから、とアランはエルに言った。エルは、ありがとうございます…、と頭を下げる。アランはエルの手元に視線を移した時、エルが荷物をまとめていたことに気がついた。

アランは一瞬言葉を詰まらせると、目を伏せた。そして、少しの間の後、エルの目の前まで歩いてきた。エルはアランの方を見た。


「…この通り、ラインハルト兄さんが国王になって、俺は前ほど利用価値もなくなった。これからは君が利用されることもさほどない、ように思う。だから、」


アランは一度言葉を止めて目を伏せた。そして、今一度エルの目を見た。エルもアランの目を見つめ返す。


「だから、君さえよければもう少しここに、」

「殿下!大変です!!」


書斎に息を切らしたマイクが飛び込んできた。マイクはアランの傍に来ると、ミシェル様がいらっしゃいました!とアランの腕を引いた。アランは目を丸くして、ミシェルが?と言った。


「早くこちらへ!」


マイクはアランを急かした。アランはうなずいた後、エルの方を見て、君もおいで、と呼んだ。エルは頭が混乱したまま頷いて、アランの後に続いて歩いた。

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