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23 侯爵と王子様2

真夜中にエルは目が覚めた。

喉の渇きを感じて起き上がった時、体中に汗を滝のようにかいていたのに気がつく。エルはふらふらとソファーから立ち上がると、水差しを探しに部屋に出た。

コップに水を注いで、エルは一息で飲み干した。はあ、とため息をつくと、動機が激しくなっていることに気がつく。エルは無表情のまま眉をひそめると、窓から差し込む月明かりを見つめた。


ふと、寝室の扉が空いていることに気がついた。エルは、ヴェルドの様子を見ようとそっと扉の隙間をのぞき込んだ。

すると、ヴェルドの眠るベッドに上半身だけを乗せて眠るアランの姿が見えた。ヴェルドの様子を気にしたまま寝てしまったのだろうか、とエルが思っていたら、ヴェルドの手がゆっくりとアランの方に伸びるのが見えた。

月明かりに照らされて、弱く光るアランの金髪に、ヴェルドの手がそっと触れた。横になっているヴェルドは目を薄っすらと開けて、アランの寝顔をじっと見つめていた。


「……ん…」


触られたことで気がついたのか、アランはゆっくりと目を開けた。そして、目を覚ましたヴェルドに気がつくと、ヴェルド!と声を出して体を起こした。


「具合はどうだ?今医者を呼んでくる」


アランはそう言うと立ち上がろうとした。そんなアランに、待ってくれ、とヴェルドがかすれた声で言った。


「まだ…意識が朦朧としているんだ。もう少し静かにしていてくれ」


ヴェルドにそう言われて、アランは、わかった、と言うと、ベッドのそばにあった椅子に腰掛けてヴェルドを見た。


「助かって良かった。…君がもう、目をさまさないかと、最悪のことまで考えてしまった」


アランは、そう安心したように息を吐き、そして微笑んだ。ヴェルドはそんなアランをぼんやりと見つめていた。アランはヴェルドを見つめると、水を持ってこよう、と立ち上がった。しかしヴェルドが、待ってくれ、と止めた。


「もう少し、…そのままでいてくれ」


ヴェルドはそうアランを引き止めた。アランは首を傾げつつも、わかった、と言ってまた椅子に座った。ヴェルドは、じっとアランを見つめた。アランはそんなヴェルドに、どうしたんだ、と優しく尋ねる。


「…いや」


ヴェルドはそう小さく頭を振った。そして、緩く唇を噛んだ。


「…君は相変わらず、美しいな」


ヴェルドはそう、震える声で言った。アランは、予想外のヴェルドの言葉に目を丸くしたあと、一体どうしたんだ、と優しく笑った。ヴェルドはそんなアランにつられて笑ったりせず、ただただ唇を噛みしめて、苦しそうに眉をひそめた。アランはそんなヴェルドに笑うのをやめて、まじめな顔で彼を見つめた。


「…ずっと、夢だったんだ。君と一緒にこの国を動かしていくことが。学生の頃に、君と勉学の話を一緒にすることが楽しくて、それがずっと続けばいいと、そう願っていたから…」


ヴェルドは、震える声で言った。アランは黙ってヴェルドの話を聞いていた。


「だから邪魔だった、エル・ダニエルが。あの女がいるから、君は王になれないんだと、そう思っていたから。だから、…あの事件の当日に、彼女を火事で消してしまうという話を聞いたときは、ああ良かったと、そう思ったんだ。あの女が死ねば、アランが国王になれる。そうしたら俺の夢も叶うと。その件を知った時間から考えて、現場に間に合っても助けられるかわからないし、知らないふりをして放っておけばいい、とそう思ってしまった」


アランは、ただヴェルドの話を聞いていた。ヴェルドは、苦しそうに眉をひそめた。


「でもいざ事件が起きて、たくさんの罪のない人がその火事によって死んだと聞いて、それからやっと、ことの大きさを理解した。自分が火をつけたわけじゃない。けれど、事前にあの事件を知っていた立場として、罪の重さを感じずにはいられなかった。その時点で、あんな事件を引き起こしたのにいつもと変わらない顔をして過ごす犯人たちのことをどうかしていると、そう気がつくべきだった。あの女が死んで変わり果てた君を正常に戻したかった。でも、俺のほうが正常じゃなかった。罪のない人を殺してまで自分の思い通りにしようとした奴らを肯定しようなんて」


ヴェルドは歯を食いしばった。


「…あの女だって、何の罪があったわけじゃないのに」


ヴェルドはそう言うと、腕を目元において苦しそうに口元をゆがめた。


「…何となく、気がついていたよ」


君がこの事件を知っていたのは予想外だったけれの、とアランは、そう静かに話した。

ヴェルドは荒く呼吸を繰り返しながら、呆然とアランを見た。そして、小さく息を吐くと、アランから目をそらした。


「…パーク侯爵だ」


ヴェルドはそうアランに言った。アランはその名前を聞いても、どこか察していたのか、そこまで驚きはしなかった。


「あの宿屋の火事の主犯はパーク侯爵だ。実行犯は別にいる。…今回俺を刺したのもパーク侯爵の指示だ。あの女を殺そうとしていた。エル・ダニエルを殺し損ねたと勘違いしていたようだった」


ヴェルドの言葉に、アランはどんどん眉間にしわを寄せた後、そうか、と静かに言った。


「君は、彼女を庇ったのか」


アランはそうヴェルドに聞いた。ヴェルドは少し黙った後、そうだ、と言った。


「邪魔だったよ。あの女もいなくなればいいと思っていた。思っていたのに、…あの女を失った君の顔を想像したら、身体が勝手に動いていた」


ヴェルドはそう言うと黙り込んだ。アランは目を丸くしてヴェルドを見つめた後、何も言えずに目を伏せた。

ヴェルドはしばらく黙った後、アランを見つめた。


「…俺が好きだった君は、結局、あの女がいて完成していたんだ。そして完成している君は、国王にはならない」


ヴェルドはそう苦しそうに言った。アランは、ヴェルド…、と呟く。


「俺は、国王になった君のそばで、この国の未来を見たかったよ。…俺はもう、君から離れるよ。君の婚約者を見殺しにしたんだから」


ヴェルドの言葉に、アランは、それは違う、と強く言った。


「エルのことで、君が負うべきことはない。そこは勘違いしないでくれ」


アランの言葉に、ヴェルドはほんの少しだけ救われたような瞳をした。

しかしアランは目を伏せると、…でも君が俺から離れるのは止めない、と言った。


「これまで俺のそばにいてくれてありがとう。…君はもっと、国王になる気のある兄についたほうがいい。君ほどの人なら、ラインハルト兄さんは必ず気に入るさ」


アランの言葉に、ヴェルドは少しむっとした。そして、まあ伝わらないか、と小さな声でつぶやいた。アランは、え、と小首をかしげる。ヴェルドは、そういう話はいい、と軽く手を払うしぐさをした。


「それで、君はこれからあの火事の犯人を追うんだな」


ヴェルドはそうアランに尋ねた。アランは、ああ、と頷いた。


「君もこんなことになってしまった。…このまま放ってはおけない」


アランはそう、まっすぐヴェルドを見つめて宣言した。ヴェルドはアランを見て、どんなことでも協力するよ、と返した。アランはヴェルドを見つめて目を丸くする。


「いいのか?」

「もちろん。俺は最後まで、君の味方でいる」


ヴェルドの言葉に、アランはゆっくり微笑み、ありがとう、と返した。ヴェルドはほんの一瞬だけつらそうに瞳をゆがめた後、見たことがないほど綺麗に、当然だ、と微笑んだ。





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