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20 その双子は2

ラインハルトとその執事の話を聞いてからも、エルはヘレナに変わらずに接した。

ラインハルトも変わらずに、ヘレナに愛妻家の顔をして会いに来ており、それをあの執事や他の貴族たちが微笑ましげに褒め称える姿を、エルは無表情の下で、背筋が凍る思いで見ていた。







仕事が終わり、エルは宿舎の外で、いつものようにネルの隣で夕飯を食べた。あの日からもネルは変わらずに夕飯を待っていてくれるし、あの日の話をお互い触れない。エルはネルの気持ちをつかみあぐねているが、エル本人はどこかぎこちない気持ちでいた。

ネルは、そういえば、と言った。


「パーク侯爵、最近ラインハルト殿下の周りを探ってるらしいぞ」


ネルの言葉に、エルは、え?と首を傾げた。


「どうして?」

「今の国王がいよいよやばいんだろ」


ネルはそう言って、もうすぐ夏が来る夜空をみあげた。エルはよくわからずに、えっと…、と口籠る。


「それとラインハルト殿下の周りを探るのと、どういう関係があるの?」

「……」

「…ごめんなさい」


あきれた目をしたネルに、エルは謝る。ネルは頬杖をつくと、次期国王の件に決まってんだろ、と言った。


「パーク侯爵はシェリーと第三王子を結婚させて、そんで国王になった第三王子のもとで自分の思う通りの政治がしたいんだ。そうしたいなら、次期国王候補筆頭のラインハルトが邪魔だ。評判を落とすネタを探ってんだよ」

「…なるほど……」


エルはネルの話を聞きながら、前に見たラインハルトの醜悪な様子を思い出しながら、探せばいくらでもありそうだ、と心の中で呟く。すると、エルははっとしてネルの方を見た


「…つまり、エドワード殿下も何か探られてるってこと?」

「はあ?エドワード殿下なんか眼中にないだろ。周りからの評判も悪いし、本人もあの頭の硬さは国王に不向きだってわかってんだろ。自他公認で国王候補からは外れてるよ」


ネルに、そんなんもわかんねえのかよ、という呆れたように言われながら、エルはしゅんとする。エルは小さく息を吐きながら空を見上げて、ラインハルトの何かが暴かれて、ヘレナが傷つくことにどうかならないように祈った。







メリーベルの代わりにヘレナの侍女をエルがするようになって3日ほどたったころ、ヘレナの部屋に来客が訪れた。それは、体が大きく筋骨隆々で、無精ひげを生やした、線の太い紳士だった。彼はフィリップスとメリーベルの兄である、ハーン侯爵だった。彼があの線が細く可憐な容姿のあの双子の兄だということを、エルはにわかに信じがたかった。


大きな声で豪快に話す彼は、どうやらメリーベルを探しているようだった。ヘレナがメリーベルのことを、体調不良で休んでいる、と説明すると、その紳士は、メリーベルのことを情けないと怒った。


「フィリップスも騎士団を休んでいるというし…。全く昔っからあの2人はなっとらん!根性が間違っておるのです!!」


ハーン侯爵は、ヘレナ妃に多大なご迷惑をおかけして…と深々と頭を下げた。ヘレナは、とんでもありませんわ、と微笑む。


「メリーベルにはいつもお世話になっておりますのよ。とっても心遣いのできる、とても素晴らしい人です。体調を崩すのだって珍しいのです。どうかご容赦なさって」

「そうヘレナ妃に言っていただけることが救いです」


ハーン侯爵は、突然失礼いたしました、とまた深々と頭を下げると、部屋から出ていった。エルは、急に静かになったように感じる部屋に、はあ、と緊張が解かれたためにでたため息をついた。


「なんだか…メリーベル様やフィリップス様とは真逆…のようなお方でしたね…」


エルの感想に、ヘレナはくすくすと笑った。


「とても真面目で心の熱いお方なのよ。あの2人は見た目が清涼感があるからそうは感じにくいかもしれないけれど、2人とも心は真っすぐで真面目よ。実は似ているところもあるのよ」


ヘレナの言葉に、確かにあの二人も真面目だ、とエルは考え直す。ヘレナはエルを見ながら微笑んだ後、窓の外を見た。


「…何もなければいいのだけれど」


ヘレナはそう、小さく息をつく。エルは、どうかされましたか、とヘレナに尋ねた。ヘレナはエルの方を見ると、ええ、ほら、と少しどんよりした雲を指さした。


「天気が悪いみたいだから、雨が振らなければいいって、そう思って」


ヘレナにそう言われて、エルは窓の外を眺めた。たしかに、どんよりとした雲が空を覆っていた。これでは洗濯物もうまく乾かないだろうなあと、元の仕事のことをエルは憂いた。










ヘレナがラインハルトと夕食を取りに行ったので、エルは少しの間休憩時間をもらえることになった。

エルはヘレナの部屋を後にして、息抜きに城の中を歩いた。いつも掃除を担当していた中庭に出た時、更に雲が厚く、どんよりとした空気をまとっていることに気がつく。

ふと、中庭のベンチにじっと座る誰かの姿が見えた。エルはその人物に目を凝らした。そこには、ぼんやりと空を見上げるシェリーの姿があった。


「(…あんなところでなにをなさっているんだろう…)」


エルは不可解に思いながらも、彼女には話しかけずに素通りをしようとした。しかし、もうすぐ雨がふりそうな天気と、どこか異様な彼女に、ついついエルは引き返してしまった。


「……あ……あの……」


エルは意を決して、シェリーに話しかけてしまった。どんなに使用人仲間から彼女の悪い噂を聞いても、実際に会って冷たく彼女からあしらわれても、あの頃の笑った彼女をどうしても信じてしまったからである。

そんなかすかな望みも、エルの方を振り向いて、冷たい視線を刺してきた彼女に打ち砕かれた。


「平民風情が、やすやすと私に話しかけないで」


シェリーはそう言うと、また空を見上げた。エルはすっかり彼女に怯んでしまい、すごすごとその場を去ろうと歩き始めた。

すると、シェリーは急に立ち上がった。エルは、はっと彼女の横顔を見た。

シェリーはひどく強張った、色の悪い顔をして少しのあいだ固まった後、すぐにぱっと、エルがこれまでよく見てきた彼女の顔に変えると、アラン殿下、と可愛らしい声で歩き出した。シェリーが歩いた先には、アランとマイクがいた。マイクはシェリーの登場に嬉しそうに顔をほころばせて、とりあえず応接室にでも、と勧めている。エルは、マイクに見つかると面倒くさそうだと思い、さっと物陰に身を隠した。じっと三人がここから去るのを待ちながら、エルはふと、先ほどのシェリーを思い出す。


「(…シェリー様は、アラン殿下がお好き…だったのよね…?)」


シェリーのあの表情と、フィリップスを見つめるエミリーの表情の差が著しくて、エルは同じ゛好きな人を見つめる横顔゛だとはとても思えなかった。

エルは考えたけれど答えが出るはずもなく、三人がいなくなったら、さっさとこの場から移動してしまった。

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