56.SONG③
「朝か」多田裕也が呟いた。裕也はショッピングモールにある店舗で、安達信二と仮眠を取っていた。
「毒島の放送で目が覚めたよ」信二が目を擦りながら呟いた。
「行くぞ」
「ちょっと、待ってくれよ」信二は慌てて立ち上がった。
ショッピングモールの中央に差し掛かると、年配の女性が手榴弾を裕也に向かって投げた。裕也は手榴弾をかわした。辺りに爆発音が響いた。
「この婆さん、爆弾を持ってやがる」信二が叫んだ。
裕也は円を描くように動いた。
「文江さん、援護をお願い」高橋早苗が叫んだ。
「了解」伊藤文江は裕也を狙いながら、ベレッタ92の引き金を引いた。
裕也は銃弾を軽々とかわした。年配の女性たちとの距離を詰める。
「このババア」信二は早苗に向かって叫んだ。手には鉄パイプを持っている。
ほんの一瞬、早苗の注意が信二に向いた。裕也はその隙を逃さなかった。工事用ハンマーで早苗の横顔を殴った。早苗は横に吹っ飛んだ。
「ふ、文江さん、に、逃げて」早苗は朦朧としていた。裕也は工事用ハンマーを早苗の頭に振り下ろした。早苗の頭が潰れた。
文江は早苗の頭が潰れるのを見て、泣きながら逃げ出した。裕也は文江を追わなかった。
「逃がしていいのか」信二が尋ねた。
「あぁ、生きてる」裕也は両手を上げ、上を見つめていた。
「相変わらず会話が成り立たないな」信二はため息をついた。
裕也はバッハの『G線上のアリア』を鼻歌で歌い始めた。
「ご機嫌だな」信二は笑った。
文江は泣きながら歩いていた。(早苗さん、どうして? どうして死んだの。一緒に冒険をするんじゃなかったの?)
(あの男、絶対に許さない。必ず殺してやる)文江は拳を握った。文江の中で何かが変わった。
>>登場人物
多田裕也35歳
安達信二32歳
伊藤文江59歳
高橋早苗62歳
>>設定資料
ベレッタ92。扱いやすい自動拳銃。装弾数は15発。
M26手榴弾。破片手榴弾。爆発の衝撃と金属の破片を広範囲に飛散させる。




