41.鰐
「才華ちゃん、交代だ」大田は才華の肩を揺らした。月明かりが才華を照らしている。
「よく眠れたか?」
「はい」
「じゃ、俺も休むよ」
才華は双眼鏡で外を眺めた。東にある森の中を鹿の群れが走っている。才華は荷物からグミの袋を取り出した。
(動物か)才華はペットショップで小さい鰐を飼いたいと思ったことがある。だが、父親の隆史が猛烈に反対したため、鰐を飼うことはできなかった。(お父さんのあの表情は傑作だったな。『逃げたらどうするんだ?』とか)才華は一人で笑った。
グミを口の中に入れると才華は大田の寝顔を見た。(大田さんは顔の作りが幼いんだ。それで年相応に見えないのか)
(しかし、人を殺したのに実感が湧かない。まるで夢でも見ていたような感覚だ)才華は髪を撫でた。
(あの人にも家族がいるだろうな)才華はスナイパーライフルをタオルで拭いた。黒い汚れがタオルに付着した。(このタオルは私と同じだ。汚れている。真っ黒に)
才華は夜空を見上げた。澄んだ空気のおかげで星々が輝いて見える。星を眺めていると自然に涙が零れた。
(はぁ、私、泣き虫じゃないのに)才華はため息をついた。
再びグミを口の中に入れた。グレープフルーツの味がした。才華は妄想の中で鰐の名前を考えていた。
>>登場人物
鈴木才華17歳
大田六三郎49歳
>>設定資料
L115A3。ボルトアクション式の大口径スナイパーライフル。射程距離は1,500m。弾はマグナム弾。




