小説家系VTuber
ヒミコがアカメを直接その目で見るのは、これが初めてだった。とはいえ、バイオレットがこれまで時折、控えめに漏らしていた話から、今朝を迎える前にすでに大まかな人物像は頭の中にできあがっていた。
彼女は丁寧に彼を観察した。友人の人生に関わるかもしれない相手に向ける、あの独特の注意深さで。肩の張り方、目元に残る疲労、明らかな消耗を抱えながらも崩れない身のこなし。
不思議なことに、彼はバイオレットが語っていた印象よりもずっと不穏さの薄い人物に見えた。あの、聞かれたときだけ渋々差し出されていた短い描写よりも。
「あれ? ヴィオ、今日予定あるなら言ってよ」
バイオレットはいつもの読み取りづらい表情のままヒミコへ目を向け、質問の明らかな好奇心にも何一つ表情を漏らさなかった。
「ただ、あなたを巻き込みたくなかっただけ」
ヒミコは首を傾げた。困惑は明らかで、こんな今になってもなお、友人がなぜ物事を自分だけで抱え込み続けるのか理解できずにいた。
「えー……前にも言ったよね、悩みがあるならいつでも私に話していいって」
そして彼女はアカメの方へ向き直り、慣れた様子で自己紹介をした。手を差し出し、明るい笑みを浮かべる。バイオレットの用心深い態度とは対照的な振る舞いだった。
「ヒミコ・フィオーリです。バイオレットの中学時代からの友達です」
好奇心はすぐに彼女の中で優位に立ち、このVTuber事業とやらが実際にどういうものなのか、彼女がほとんど何も知らない世界へと関心を向けさせた。休憩中に後輩たちが見せてくれる切り抜き動画くらいしか触れたことのない世界だった。
「最近、VTuber業界ってすごい勢いで伸びてるよね。まだまだ開拓されてないコンテンツもたくさんありそう」
ヒミコはしばらく黙って何かを考え込むような表情になり、それは軽い雑談の口調というより、どこか庇うような色合いへと変わっていった。
「気になるんだけど」
彼女はまっすぐアカメを見つめた。声の軽さは、質問の内容とはどこか噛み合っていなかった。
「もしバイオレットが事務所に入ったとして……朝三時までゲームしながら絶叫させられたり、しないよね?」
その問いが口から出た瞬間、バイオレットはすぐさま抗議した。平坦な表情にわずかな亀裂が入り、明らかな動揺が滲む。
「そんなこと、絶対にしない」
ヒミコは友人がその一言でどれほど気まずそうに身じろぎするかを見て取り、あからさまに面白がっていた。
一方アカメは、その質問とバイオレットの慌てた否定を聞いて、小さく笑い声を漏らした。作り物ではない、素の笑いだった。自分自身、少し意外に思うほど自然に。
「もちろんです。そういうことは絶対に起きないようにします」
ヒミコが現れる前と比べ、三人の間の空気は明らかに軽くなっていた。緊張は溶けていき、バイオレットとアカメの間にあったこわばりも、次第にどこか気安いものへと変わっていく。
「はは、それを聞いて安心した。すぱべーすって、具体的にどんなコンテンツを作ってるの?」
アカメは笑みを浮かべ、喜んでその好奇心に応えた。自分が本気で信じているものについて語れる質問に、どこか安堵していたのかもしれない。必死に求めているものではなく。
「もちろんです。すぱべーすは、小説家のために作られたVTuber事務所です。読者と視聴者をつなぐ架け橋になることが目標なんです」
彼の説明を聞いてもなお、ヒミコの顔には困惑が残っていた。実際のところどういうことなのか、眉根を寄せながら考えを巡らせる。
「つまり……小説家自身に、自分の小説についてのコンテンツを作ってほしいってこと?」
彼が頷くのを確認してから、彼女はさらに言葉を続けた。話すほどに、彼の表情はどんどん生き生きとしていった。
「はい、その通りです。でも、それだけじゃありません」
このコンビニに足を踏み入れて以来、初めて言葉が淀みなく彼の口から流れ出していた。バイオレットとの会話を特徴づけていた、あの躊躇いや入念なリハーサルの跡は一切なかった。
「自分の小説について語ったり、執筆の過程を話したり、そもそも何がその物語のきっかけになったのかを話したりできます」
彼は一度言葉を切り、次に続ける言葉を明らかに慎重に選んだ。
「ゲーム実況もいいですね。特に、しっかりしたストーリーや面白い設定のある作品なら」
ヒミコは頭を掻いた。小説家系VTuberという概念自体、まだどこか奇妙に感じていた。人付き合いを避けがちな作家たちが、いきなりカメラの前で見知らぬ相手に向かって喋ることに慣れるとは、なかなか想像がつかなかった。
「私が知る限り、たいていの作家は裏方でいることの方が心地いいんじゃないかな。物語は書くけど、大勢の前で自分を披露したいわけじゃない」
それを彼女は身をもって知っていた。親友が密かに小説を書き続けていることを――ノートや古いノートパソコンのファイルにひっそりと下書きを溜め込みながら。とはいえ、そのどれもが二話か三話を超えて続いたことはなく、まして出版に届いたことなど一度もなかった。
ヒミコはこの繰り返しを何年も見てきた。いつも同じ静かな熱意のあとに、突然の中断が続く。理由を尋ねたことは一度もない。ただ、いつか自分以外の誰かがバイオレットの作品を読んでくれる日が来ればいいと思ってきただけだった。
バイオレットの物語を読んだことがあるのは、ヒミコただ一人だった。それがずっと理不尽に思えていた。どの下書きにも、明らかに丁寧な手間がかけられていたというのに。
アカメが考え深げに頷いてから答えるのを、彼女は見ていた。その口調は単なる礼儀というより、静かな誠実さを帯びていた。
「その通りだと思います、フィオーリさん」
そう呼ばれた瞬間、ヒミコの表情にわずかな戸惑いがよぎった。自分のような気さくな人間には、その呼び方はいささか堅苦しすぎるように感じられた。
「フィオーリでいいですよ。その方が慣れてるので」
その言葉を聞いて、アカメは軽く頭を下げた。長年培われてきた丁寧なビジネス作法から出た、ほとんど反射のような仕草だった。
「分かりました、フィオーリ。僕は、VTuberというキャラクターの背後にいる作家たちを、もっと広く知ってもらえるようにしたいと思っています。それだけでなく、これまであまり注目されてこなかった小説家たちの作品も、ようやくもっと多くの読者に届くようにしたいんです」
その予想外の説明に、ヒミコの顔に驚きが浮かんだ。彼の言葉に滲む誠実さが、思っていた以上に彼女を動かした。
「へえ……それは面白いね」
ヒミコの頭の中で、何かが形を成し始めていた。一番親しい友人を助けることを中心に据えた考えで、一度根を張ってしまうと、簡単には振り払えないものだった。
彼女は手を伸ばし、自分で買ったばかりのポッキーを手にしたまま隣に立つバイオレットの肩を軽く叩いた。バイオレットは、ヒミコの頭の中ですでに動き出している企みには、まるで気づいていない様子だった。
「とにかく。赤和女さん、あなたはとんでもなく運がいいよ。私の友達――というか、私の親友がね、実は小説家なんだ」
その言葉を聞いた瞬間、アカメの表情がかすかに動いた。信じられなさと、静かな希望のあいだのどこかにあるものが、疲れた目の奥に宿る。まるで、欠けていたことにすら気づいていなかった一片が、不意にかちりと嵌まったかのようだった。




