分かち合う物語
バイオレットは和歌山駅からほど近い小さなカフェの入り口から、数歩離れたところに立っていた。ホームからのアナウンスチャイムが、朝の空気の中にかすかに漂ってくるほどの距離だった。通勤客たちが彼女の両側を行き交い、片方の肩に鞄をかけて改札へ急ぐ者もいれば、信号が変わるのを待ちながらスマートフォンを確認するために横断歩道で立ち止まる者もいた。背後のどこかで、自転車のベルが小さく鳴った。そのどれもが、彼女には直接関わりのないことのように感じられた。小説『クラストボーン』の原稿を収めた黒いフォルダは、まるで壊れやすい何かを人混みの中で運ぶように、両腕で胸に押し当てられていた。
意図せず、彼女の思考はヒミコのことへと流れていった。新しい仕事のせいで、友人は朝早くに家を出て、夜は遅くに帰ってくるようになった。二人の間にある時間は週を追うごとに細くなり、共に暮らす部屋はかつてよりも静かになっていた。
バイオレットは視線を舗道へと落とし、買い物カートを引いた年配の夫婦が駅の方向へ向かいながら彼女のすぐそばを通り過ぎると、わずかに肩をすくめた。
子供の頃から、ヒミコはさまざまな迷信を彼女に語ってきた。祖母から受け継いだ小さな言い伝えの数々で、鏡や神社にまつわる話、爪を切ってはいけない時間帯についての、半ば冗談めいた忠告もあった。最初のうち、バイオレットはそれらをほとんど気に留めていなかった。けれども、いつの間にか、一人の運というものは、誰か他の人の犠牲の上に成り立つのではないかと考えるようになっていた。答えはわからなかった。それでも、ヒミコが笑いながら「最近ちょっと運が悪いのかもね」と言うのを見るたびに、あの静かで歓迎しがたい感覚が、名前のつけようのない場所へと這い戻ってくるのだった。
バイオレットは軽く首を振り、姿勢を正した。同じ考えをこれ以上巡らせたくはなかった。今朝は、なおさらだった。今日は、過去から引きずり出された古い心配ごとよりも、澄んだ頭を必要とする別の用件が彼女を待っていた。
彼女はカフェの入り口へ向かって歩き出し、戸口で自転車用の傘をたたんでいる年配の男性を軽くよけて進んだ。ちょうどそのとき、隣にいた誰かも同じようにドアの取っ手へ手を伸ばした。二人とも、その場で止まった。
「すみません」
バイオレットは、いつも通り落ち着いた様子で頭を下げた。
「すみません」
相手も頭を下げた。その声には、奇妙なほど不意に感じる親しみがあった。
あの声。
どこかで聞いた覚えがある気がした。ゆっくりと顔を上げる。
「……赤和女さん?」
目の前の男性も同じ瞬間に顔を上げ、その表情にも見覚えの色が浮かんだ。
「姫星さん!?」
しばらくの間、どちらも何も言わなかった。カフェの扉は二人の間で半分開いたままで、肩越しにコーヒー豆を焙煎する香りがかすかに漂ってきた。アカメは、取っ手の上で二人の手がほとんど触れかけていたことに、そのときようやく気づいたようだった。あと一寸で肌が触れ合うほどの近さだった。彼はすぐに手を引っ込め、顔からうなじにかけてかすかな赤みが広がった。
「すみません」
「大丈夫です。先に入りますね」
バイオレットの返事は、いつもと変わらず落ち着いていた。表面上は動じていないようでいて、内心では彼がどれほど狼狽しているかを静かに見て取っていた。彼女は必要以上の数秒間、その表情を観察した。彼の視線が、二人の間の舗道へと何度も落ちていく様子を見つめながら。彼は明らかに緊張していて、いつもの落ち着きはどこにも見当たらなかった。それについては何も口にせず、代わりにもう一度会釈をして、その場をやり過ごすことにした。
彼女が先に中へ入ると、抑えていた息を解き放つように、カフェの暖かさが体を包んだ。数歩進んだところで、後ろから彼の声が届いた。先ほどよりも落ち着いた声だった。
「姫星さん」
バイオレットは振り返った。
「僕は前と同じ、アメリカーノを頼みます。それでよろしいですか」
「はい、大丈夫です」
「では、僕の分も一緒に注文します」
バイオレットは小さくうなずき、部屋の隅にひっそりと置かれたテーブルへと向かった。飲みかけのラテを前に話し込む二人組の女性と、窓際でノートパソコンとイヤホンを持つ男性一人の脇を通り過ぎる。彼女が選んだ席は静かで、カウンターとエスプレッソマシンの低い唸りから離れていた。細長い窓からは、自転車ラックが半分ほど埋まった通りの一角が覗いていた。黒いフォルダをテーブルの上に置き、腰を下ろし、癖で背筋を伸ばす。両手を膝の上でゆるく組み、視線を一度カウンターのほうへ向けてから、窓のほうへと落ち着かせた。
まもなく、アカメが二つのカップを手に現れた。かすかな湯気が両方から立ちのぼり、テーブルの間の狭い隙間を慎重な足取りで抜けてくる。彼はまずアメリカーノを彼女の前に置き、それから回り込んで向かいの席に腰を下ろし、少しだけテーブルに近づけてから静かに座り直した。
「来てくれてありがとうございます」
バイオレットは一度うなずいた。
「こちらこそ。小説の続きについてお話しできて嬉しいです」
二人の間に短い沈黙が下りた。ある意味では心地よく、ある意味では奇妙な沈黙だった。会話が向かうはずだった空間を、カフェのざわめきが埋めていった。カウンターの近くでは、店員が注文番号を呼び、誰かが席を立つときに椅子の脚が床を軽く擦った。バイオレットは急ぐことなく、いつものように時間をかけて彼を観察した。黒田で初めて会った日とは違い、彼は今朝、何度も集中を欠いているように見えた。視線はカフェの他の部分へと漂ってから彼女の顔へ戻り、指先はカップに近づくたびに一瞬止まり、わずかに丸まってからまた動きを止めた。まるで、その動作の途中で何をしようとしていたのか忘れてしまったかのようだった。
もしかすると、あの入り口での出来事から、まだ気まずさを引きずっているのかもしれない。バイオレットは、それ以上そのことを深く考えなかった。代わりに、持参した黒いフォルダを開いた。表紙が開くとき、背表紙が小さく軋んだ。それを二人の間の卓上に平らに広げる。
「赤和女さん」
「はい」
「前に話していた原稿、書き終えました」
彼は両手でフォルダを受け取った。見た目の重さ以上に価値のある何かを扱うような手つきで、肩をまっすぐに伸ばしながら。
「ありがとうございます。下書きから最終的な物語にする際、どれくらい変更を加えたのか、ぜひ知りたいです」
彼は最初のページを開き、注意深く読み始めた。視線は一行ずつ、急がず丁寧に動いていく。周囲のカフェの音は、遠く、取るに足らないものへと薄れていくようだった。ほどなくして、彼の中で何かが変わり始めた。眼差しが鋭くなった。肩の力みが抜け、先ほどまでの硬さが消えていった。動作は落ち着き、確かなものへと変わり、ページをめくるたびの間合いは急がず測られたものになり、間を置くたびに、ためらいではなく本物の考察の重みが感じられた。数分前まであれほど落ち着かない様子だった男は、彼女の目の前で、まるで別人であるかのように見えた。それは、バイオレットがまだ見たことのない一面だった。
バイオレットは何も言わず、片手にそっと顎を預けながら彼を見つめていた。二人の間の静けさは、もはや奇妙なものではなく、ただ彼が作業するための空間として役立っていた。
やはり、これだった。仕事に関することになると、アカメは本物の真剣さを見せ、先ほどまでの落ち着きのなさは、まるで最初から存在しなかったかのように消え去っていた。
彼女の口元がわずかに上がった。動きとしてはほとんど数えられないほど、彼女自身さえ気づかないほど、かすかなものだった。
「赤和女さん」
彼は最初のページから顔を上げた。目にはまだ、鋭い集中の色が残っていた。
「始めても大丈夫でしょうか」




