彼女だけのメッセージ
その朝、バイオレットはいつもより早く目を覚ました。理由は単純で、膀胱に溜まった重い感覚がしつこく彼女を揺り起こしただけだった。しばらくの間、彼女はじっと横たわり、カーテンの隙間から差し込む灰色の光に目を慣らしてから、机の上の目覚まし時計へ視線を向けた。五時半。
「……まだ早いな」
声は平坦で低く、息とほとんど変わらないほど小さかった。布団を押しのけ、上半身を起こし、両足を畳の上へ下ろす。裸足の裏に触れる畳はひんやりとしていて、体が訴える切迫感とは裏腹に、扉へ向かう足取りはのんびりしていた。薄い壁の向こうでは、遠くのどこかでカラスが二度鳴き、それきりまた静かになった。もう何年も気に留めなくなった、ありふれた朝の音だった。窓の外の通りは相変わらず静まり返っていて、他に何かが動き出すには、まだ早すぎる時間だった。
浴室の扉に手をかけようとしたとき、廊下の向こう、隣の部屋の扉が小さな音を立てて閉まるのが聞こえた。続いて、階段のほうへ遠ざかっていく足音がかすかに響いた。手が取っ手に触れるより先に、内側から扉が開いた。
「あ……バイオ。びっくりした」
ヒミコはタオルを体に巻いた姿で立っていて、もう一枚のタオルを両手で握りしめ、濡れた髪を拭っていた。肩の向こうから湯気が漂い、セールのときにいつも買う石鹸のかすかな柑橘の香りを運んでくる。
一瞬、バイオレットの視線は意図せず留まった。ヒミコは彼女より背が高く、体つきも豊かで、バイオレット自身の細くて角ばった体型とは対照的だった。その違いは胸元でとりわけ顕著で、タオルの中に収まる量そのものがヒミコのほうがはるかに多かった。それは嫉妬というほどのものではなかった。もっと静かな感情で、バイオレットは自分自身にすら名前をつけたことのないものだった。運というものは二人の間で均等に分け与えられたわけではなく、ヒミコのほうがより恵まれた側を手にした、というささやかで見慣れた確信だった。
彼女はそれを口には出さなかった。ただ視線をヒミコの体から顔へと移した。深く考えたくない事柄をやり過ごすときに、いつもそうしているように。
「ヒミコ。お風呂、もう済んだの?」
「うん」
バイオレットの眉間にわずかな皺が寄った。長年この部屋を共にしてきた人間でなければ気づかないほど、かすかなものだった。
「たしか、新しい仕事は和歌山市内だったはずよね。どうしてこんなに早くシャワーを終えているの?」
ヒミコは首を横に振り、いつもの笑顔を浮かべた。まるで何の苦労もないかのように軽やかな笑顔だった。
「ああ、違うのバイオ。今回はもっと遠いところ。岩出」
「岩出……」
バイオレットはその言葉をゆっくりと繰り返した。頭はまだ眠りから半分しか覚めていなかった。数秒経ってようやく、その意味の重みが胸に落ちてきた。目がわずかに見開かれる。
「岩出? どうして岩出なの? 前に新しい仕事が決まったって言ったとき、最初に口にしていた場所じゃない? 今さら気づいたけど……この二日間の朝、目が覚めたときにはもう出かけたあとだったし、帰ってきても、まだ戻っていなかった」
ヒミコは短く笑い声を漏らした。表面上は軽い響きだった。
「うん……最近、ちょっと運が悪いのかもね」
バイオレットはしばらく黙り込んだ。頭の中で、その意味を整理していた。もしヒミコがそれほど遠くまで通うようになるなら、こんな朝はもう少なくなるだろうし、頼まなくてもヒミコが差し出してくれていた、あの小さな当たり前の助けも減っていくのだろう。数秒考え込んだあと、彼女は再び口を開いた。
「……ひとつ、手伝ってほしいことがあるの。今回だけ」
ヒミコは首を傾げた。「どうしたの? 何か困ってる?」
バイオレットは小さくうなずいた。「メッセージを送るの、手伝ってくれない? もう一度、文面を書いてほしくて」
ヒミコは顎に指を当て、少し考える仕草をした。
「もうすぐ仕事に出なきゃいけないんだけどな。今回は文面まで手伝えると思うけど、これから先もずっと下書きを書いてあげるわけにはいかないよ、バイオ。前に教えたよね、きちんとした形式のメッセージの書き方」
バイオレットは静かにうなずき、自分の部屋へ戻った。スマートフォンを手に、もう一度姿を現し、それを差し出す。ヒミコはそれを受け取った。しばらくの間、ヒミコの親指は迷いなく素早く画面の上を動き、やがてそれをバイオレットへ返した。
「はい、メッセージを読んで。それから、下に書いておいたメモも」
バイオレットは両手でスマートフォンを受け取り、視線を画面へ落とした。
彼女は文面の一番上から読み始めた。
「おはようございます、アカメさん」
その一行を一度、声には出さずに目でなぞり、視線を次の行へと移す。
「早朝にご連絡してしまい、申し訳ございません」
親指は画面の端にとどまったまま、スクロールはせず、読み進めるにつれて視線だけが下へ動いていった。
「今度の土曜日、ご都合はいかがでしょうか。休みをいただいておりますので、以前の続きについて、お話しできればと思っております」
そこで一瞬止まり、頭の中でもう一度読み返した。ヒミコの指ではなく、自分自身の声で読み上げているところを思い描きながら。
「もしよろしければ、ご都合の良いお時間を教えていただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。バイオレットより」
メッセージの終わりまで読み終えると、彼女はさらに視線を下へ落とした。そこにはヒミコが書き加えたもう一つの項目があり、見出しにはただこう記されていた。
「きちんとした約束のメッセージの書き方」
バイオレットは一点ずつ、記憶しておきたいものを読むときのやり方で、順番に目を通していった。
「まず、丁寧な挨拶から始めること」上の文面を読み返し、すでにそれを守っていたことを確かめる。
「次に、都合の悪い時間に連絡してしまった場合は謝ること」もう一度確認する。それも含まれていた。
「三つ目は、目的をだらだらと引き延ばさず、明確に述べること」その一行を、彼女は二度読んだ。
「四つ目は、相手に負担をかけない形で、希望の時間を提案すること」少しの間そこに目を留めてから、先へ進んだ。
「五つ目は、最初に示した時間が合わなければ、相手が別の案を出せる余地を残しておくこと」彼女はひとり小さくうなずいた。
「六つ目は、感謝の言葉で締めくくること」それも、メッセージにはすでに含まれていた。
「七つ目、送信する前にもう一度すべてを読み返し、誤字や失礼な印象を与えかねない箇所がないか確認すること」他の項目よりも少し長く目を留め、もう一度読んでから、先へ進んだ。
彼女はその一覧を二度通して読み、それぞれの項目を上の文面と照らし合わせてから、ようやくスマートフォンを下ろした。
「わかった」
ヒミコは満足そうに微笑んだ。「これからは自分で覚えて、練習していかないとね。忘れないで、最近は赤和女も、そばにいるんだから」
そう言い残すと、ヒミコは身支度を整えるために自室へと戻っていった。廊下には彼女のかすかな鼻歌が漂い、やがて遠のいていく。
バイオレットはしばらくその場に留まっていた。スマートフォンはまだ手の中にあり、数秒間動きがないまま、画面は自然と暗くなっていった。頭の中でもう一度、七つの項目を順に確かめ、静かに、たった今アカメへ送ったメッセージと照らし合わせた。それからスマートフォンをダイニングテーブルの上に、小さな音を立てて置き、ようやく浴室のほうへ体を向けた。そこでようやく、遅ればせながら、自分がベッドを出た本来の理由を思い出したのだった。




