最初の物語の始まり
バイオレットのスマートフォンが震え、返信が届いた。静まり返ったダイニングの中で、その音は妙にはっきりと響いた。
通知が表示された瞬間、彼女の意識はすぐに端末へ向かった。画面が完全に点灯するより先に、指がもう手を伸ばしていた。
後ろに立っていたヒミコも身を乗り出し、画面を覗き込んだ。顎がほとんどバイオレットの肩に触れそうなほど近づいている。
二人でそのメッセージを読んだ。
「姫星さん、こんばんは。ご連絡ありがとうございます。正直、このお知らせをいただけて本当に嬉しく思っています。まずは正式に加わるかどうかを決める前に、一緒にお仕事を試してみてくださるとのこと、感謝します。見せていただきたい作品の準備ができましたら、次回お会いする際にぜひお話しさせてください」
返信を読み終えると、バイオレットは画面を消した。それでも視線は、暗くなった画面に注がれたままだった。まるで言葉が今もその黒さの下に残っているかのように。
「ヒミコ、明日のシフトが終わったあと会う時間、送ってもいいかな」
バイオレットは隣の椅子に腰を落ち着けようとしているヒミコへ視線を向けた。
「もちろん。でも、彼が本当に空いてるかどうかは先に聞いてね。勝手に時間決めちゃだめだよ」
バイオレットは頷いた。
「分かった。じゃあ、私の物語を書き直すの、手伝ってくれる? せめて、赤和女さんに見せる下書きだけは先に用意したいの」
ヒミコの目が大きく見開かれ、顔いっぱいに笑みが広がった。誰の前でも、まして相手がバイオレットであってもあまり隠さない、あの興奮のこもった表情だった。
「うん、絶対!ようやくあなたの物語、正式に読ませてもらえるんだね。あなたの部屋に招かれるの、これが初めて――」
言い終える前に、バイオレットが遮った。ヒミコを少し戸惑わせるほどの速さで。
「あなたがいつも勝手に部屋に入ってきて、勝手に私の書いたもの読んでたからでしょ」
ヒミコは小さく後ずさりし、友人が苛立っているらしいことに気づいて弁解を試みた。
「わ、私はいつもちゃんと許可取ってるよ……あはは……ヴィオが返事してくれないだけだから」
ヒミコはすぐに立ち上がった。
「小説書きに行こう!」
彼女は待たずにまっすぐバイオレットの部屋へ向かった。靴下姿の足が廊下の床を軽やかに叩く。
バイオレットもそのすぐ後ろについていった。歩調はずっと落ち着いていた。
部屋に入ると、ヒミコはバイオレットの隣に立ち、バイオレットは椅子に腰を下ろして机の上からいくつかのノートを引き寄せた。散らばったペンや折れ曲がったページの、見慣れた乱雑さが木の机の上に広がっている。何度も夜を徹して半端な思いつきを追いかけてきた痕跡だった。
バイオレットは一冊のノートを手に取った。表紙の角は何年も開閉されてきたせいでやや擦り切れている。表紙にはタイトルが書かれていた。『オーキャット・ブルータリティ』。
ページをめくりながら説明していく。
「これはパンの中に住むネコの怪物の話。この版では、村人たちがネコの肉をパンのトッピングとして使ってるの。そのうち、パン自体から何かが現れ始める」
バイオレットはさらに数ページめくった。
「実は、怪物の由来には何パターンかバージョンがあるの。これはその一つでしかない」
隣でヒミコがすぐに意見を口にした。ページをよく見ようと少し身を寄せながら。
「今回はこれでいこう。でも他のバージョンも捨てないで。続編とか、前日譚とか、あるいはスピンオフに取っておけばいいよ」
バイオレットはノートをめくる手を止め、ノートを膝の上にそっと置いてから答えた。
「そうだね。あなたがいつも指摘してくれる問題もあるけど、私、本当に一つのアイデアに絞るのが苦手なの」
バイオレットはメモでぎっしり埋まったページを見つめた。親指が、明らかに何度も書き直された文字の上をなぞる。修正の重なりで、ほとんど判読できなくなっている単語もあった。
「新しいアイデアが浮かぶたびに、すぐ書き留めちゃうの。結局、一つの話に対してバージョンが増えすぎる」
椅子から立ち上がることなく、バイオレットは机の右側の棚にある別のノートへ手を伸ばした。指がいくつかのノートをかすめたあと、目当てのものに落ち着く。
ヒミコは彼女の左側に立ったまま、作業を見守っていた。
バイオレットがタイトルとあらすじの整理を始めようとしたちょうどそのとき、ヒミコはまた別の提案をした。ノートの端を軽く叩きながら。
「『オーキャット・ブルータリティ』、まだ変えられると思うな。怪物の本来の由来にもっと近いタイトルにしてみたら?」
ヒミコはバイオレットの前に広げられたメモを指差した。
「あらすじの方はあなたに任せる。あなたの物語だから」
それまで手を動かしていたバイオレットは、その手を止めて友人の方を向いた。ノートは膝の上で開いたままだった。
「この椅子、二人分の幅はあるよ。一緒に座って」
ヒミコは満面の笑みを浮かべ、すぐにバイオレットの隣に腰を下ろした。椅子が二人分の重みでわずかに軋んだ。
椅子は二人が座るのに十分な広さがあったので、ヒミコは横からバイオレットに腕を回すだけの余裕も残っていた。何度も繰り返されてきた夜と同じ、慣れきった気安さで二人は寄り添っていた。
ヒミコが腕を回す。
バイオレットは何も言わなかった。
手はずっとページの上を動き続けていた。
「タイトル、『クラストボーン』にしたらどう? 想像してみて、何年も何年も焼き続けてきたパンの皮から、ついに何かが生まれるって」
バイオレットは書く手を止めた。
「クラストボーン……」
ページの一番上にその言葉を書いた。
「これをタイトルにする」
その下に、もう一つの名前を書いた。
「でも、怪物の名前はこれにする」
カルアスト。
「パンで有名なある村では、住民たちがひそかにネコの肉を材料の一つとして使っていた」
隣に座ったヒミコは、バイオレットの書く様子を近くで見守り始めた。顎を友人の肩に乗せながら、文字がページを埋めていくのを見つめる。
「ある夜、彼らが作ったパンの中から何かが動き始めた。その生き物はネコのような形をしていたが、体は生地とパンの皮だけでできていた」
バイオレットは少し手を止め、たった今書いたばかりの言葉をいくつか消した。ペンをページの上に浮かせたまま、もう一度言葉選びを考え直す。
「名前はカルアスト。一体だけなのか、何体もいるのか、まだ決めてない」
「へえ……だったら、今は決めなくていいよ」ヒミコが言った。「もう確信が持てるところだけ、先に書いておけばいい」
バイオレットは小さく頷き、また書き始めた。
その夜、バイオレットは親友のヒミコと並んで、書き続けた。使い古された同じ椅子に心地よく収まったまま、シェアハウスの他の場所がすっかり静まり返ったあとも、二人はそこにいた。
時折、気に入らない一文を消したり、しっくりくるヒミコの提案を書き留めたりしながら、あらすじの一部を書き直し、ページの余白に新しいメモを書き加えていった。
久しぶりに、物語がただノートの中に閉じ込められた散らばったアイデアの寄せ集めではなくなっていた。
ページの一番上には、新しいタイトルが書かれていた。机の灯りの温かな光の下で、インクがまだかすかに光っていた。
クラストボーン。




