3話: 虚しさの癒やし方
あんなに虚しかった人生が、ただわけもないのに今や目の前を生きることに躍起になっている。不思議な話だ。所詮はルッキズムやねん。そういやあまだこの世界での容姿を見たことがなかったな、けどどうせ見るも無惨なクソチー牛が鎮座している未来しか思いつかないので、みないでおこう。ここでも醜形を受け入れなければいけないのは流石にきちーよ。
ヴァーチュオが目指していた建物は少し歩くだけで現れた。コンパクトシティにも程がある。二階建てでそこそこの規模があり、そこら辺の建物とは少し違う威厳がある。それは貴族の屋敷のような下品さもなく、かといって見窄らしさや手入れが行き届いていない感じもない、ある意味一番上品なタイプの造り方をしている。
ヴァーチュオは私をどう見ても裏口のような場所へ案内し、腰につけていたキーチェーンからこの建物のものと思しき鍵を探し、それを使ってドアを開けた。そんな分かりやすい場所に人から預かったであろう鍵をしまうんじゃねえ。
「さ、入って。」
内装はなんだろう…牛乳を注ぐ女の壁を思い出してほしい。あまりにまんまなモンだからこの建物がモデルじゃないかと考えてしまうレベルなんだよ。てか内装のレポ毎回したほうがいい?そろそろだるくなってきた。
私が建物に入るなり、ヴァーチュオは慣れた口調で
「ルーカスさん今いる?」
と聞いた。ルーカス。3人目ぐらいの登場人物か?あいやあの看護師は差別してくるから人とカウントするのは憚られる。てなれば2人ぐらいか。他のモブキャラも入れると…そんなことやってたら話の終盤には何人に膨れると思ってるんだ。そこまで人のこと覚えられないやろ。特にここ数日は引きこもってたんだから。
「ヴァーちゃんか、どうしたん?」
「そのババアみたいな言い方やめてくれカスさん。」
「誰がカスや!」
いや仲良いなお前ら。よそでやれよ。ルーカスって誰だ?あいつの彼氏?まあそうだろうな。あんな見た目してりゃあ男の一人や二人はいる…二人いたらダメだろ。ここにて童貞の企みは全て爆散した。まあわかってた。どうせ他の男とイチャコラしているんだろうなってのはわかってた。さっき私の頭を触ってきた時もどこかしら手つきの慣れを感じたし。同じようなことをいろんな難民に繰り返して、このルーカスって男にも毎晩同じようなことをして懐柔させてるんだろうな。ああくそ、己のオスとしての弱さを感じるぜ。
その男は通路を通ってすぐに出てきた。若干細身で背は高いが、しっかりとした筋肉が乗っているのを感じる体格だ。もうちょい屈強で握手しただけでぶっ飛ばされるような輩を想像していたもんだから、少し安心はした。にしても顔いいなこいつ。こりゃヴァーチュオも惚れますわ。シャープな輪郭と鋭いけど柔らかさのある目つき、パーマをかけていないと到底成し得ないようなおしゃれな髪型。もう勝てる要素がない。んて過去の時代にパーマってあったの?そんなところまで記憶にないぞ。
「んで?その人は何?」
「ほらさっき伝えたじゃん、東スネル山の中で保護した若い男の人だよ。とりあえずご飯食べさせてそのまま役所で手続きしてもらうつもりだったんだけど、ちょっとプテラノからの難民の可能性があってさ…」
ええ、この時代でもう役所とかあんの。そこで難民の申請とかする感じなん?んてかやっぱそうだよな、私には興味ないんだよな。うへー、こんなのばっかりだよ。
「あ、あの人か。申し遅れた、この村の公認自警団の団長をしているルーカスという。『カス』ではない。」
やかましいわ。そして公認自警団ってなんだ?それってもう普通に騎士団やろ。でもあれか、王というか国の管轄からははずれていてあくまで勝手にやっている体だけどほぼ騎士団的な組織ってことか?なんでこういう異世界って庶民の主人公と国or国の軍隊を邂逅させようとするのけ?庶民が軍に絡まれることなんか滅多にないでしょ。とはいえ理由はわかる。英雄奇譚を作るためにはやはり軍隊とかと一緒に組んだほうがいいと判…
「じゃあ、よかったら話してもらえる?プテラノの中で今何が起きているのかを。」
ああ、また考え事に更けてしまったよ。そうだよ本題。やっぱ思いつかねーよそんなの。そうだな、ただあらかじめの断りをなんとなくれておくことだけは思いついている。えーと、えーと…いい冒険話を作るには力のある軍隊と組んだほうがいいと判断されることが多いからだ。そして国からの直々のお願いで魔王を討伐するという流れがやりやすいからだ。ってことはえ?まさか俺歩兵として戦争とかに駆り出されるの?勘弁しておくんなまし〜。そういう死に方は経験したく….
「ちょっと!何ぼさっとしてるの!」
「ひいい!」
あーもう。思考があまりに散漫している。咄嗟のヒステリーを抑え込みながら、集中を目の前の男に当てる。今は嘘をでっち上げる、プテラノ国を売る、とりあえず呼吸を整える…ひっ、ひっ、ふー。それ出産の時のやつや。もう助けてくれ。どうやったらこの脳みそ綺麗にできるんだ。なんでもいいから用意したセリフを放つんだ。
「ちょっと僕自身もまだちゃんと自分の状況を飲み込めてなくて…もし違う情報があったらすいません。」
「まあわかってるよ。こっちだって話半分で聞いてるもん。」
じゃあわざわざ呼び出すなや。今回ばかりは好都合だけど。てかさ、さっきの看護師といいこのルーカスって男といい感じ悪いな。そういう国民性か?
「えーと…まずプテラノで内紛が起きているのはご存知ですよね?」
「それは知ってる。だから聞いてる。」
なんかいちいち腹立つんだよなこいつの喋り方。絶対友達少なそう。
「そちらの方には話してあるんですけど、私は親が民主派だったので一緒に運動に参加させられていました。けど先日、運動中に両親が逮捕されてしまって。私は3人兄弟なんですけど、長男の私がみんなの安全のためにとりあえず西の方に逃げる決断をしました。そして道中で一人は獣に襲われ、もう一人は深夜に突然叫んだ後にどこかに消えてしまって。そしてこの辺に逃げてぶっ倒れていたのをヴァーチュオさんに助けていただいたんです」
よし。もう泣かない。ヴァーチュオも流石に泣かない…か。…ん?てことはこの女語り掛けのトーンに流されているだけとか?さっき泣いたのは何?あの時の涙はなんなんだ?どうか訴えないでくれ。どちらにしてもさ、こんなに流されやすくて女騎士務まるの?敵に言い寄られたりでもしたらどうするん?そしたらまた…あの男が助けに行くんだろうな。ああくっそ。救いがなさすぎる。
「そういう感じね。亡命を決断した日付って覚えてる?」
うん全く予想外の質問だよ。適当でいいよな?
「6日前ですね。」
「6日も彷徨ってたのか。どうやって食い繋いでいたの?」
「亡命を決断した時に護身用に持ってたナイフでタケノコとかキノコとか取ってて…」
「あの辺にタケノコとか生えてるのか?割と乾燥してるから生えてないと思ってたぞ。」
やっばー。やらかしたー。んてか元から無理があったんだ。え?これどう乗り切る?でも話半分だからそれ信じれば訂正がきく?まあやってみるしかないよな。うわー、うわー。
「いやタケノコじゃ…なかったかも?とにかくなんか食ってたんですよ。」
「まあいいや…ナイフ以外で使ってた武器とか覚えてるか?」
ワーオ乗り切った。主人公補正すっげえ。まあ次ここは前にでっち上げた嘘があるはず、これでいこう。あのー…前やってたゲームから引用したあれ。
「シュミット…剣みたいなやつかな?なんか短剣とかが多かった記憶が。」
「シュミット剣!?それって隣の自治体が作っている剣じゃないか!?なんでプテラノで見つかってるの!?」
もうなんでこういう偶然ばっか起こるの!?これ絶対俺スパイとか疑われるやつじゃん。どうすればいいのこれ。非常に参りました。
「それを誰から渡された!?」
「親からです。」
「それをどこで買ったか知ってるのか?」
「そこまでは…」
「だよな。てかなんでシュミット剣を使っているのかすら知らなさそうな様子だもんな。」
「そうですね。ほんとに親からほいって渡されただけなので…すいません。」
「まあちょっとこれは…事実関係を後で確認するからこちらに任せてくれ。他に知ってること覚えてることあるか?」
「ちょっと今は…思い出せないです。」
「だろうな。とりあえず最低限聞きたいことは終わった。また色々話聞きに行くから呼び出しがあったら必ず応じてちょうだい。今日は遅いし、ここで休んでいいよ。」
そういってルーカスは席を外し、奥の通路へと引き上げていった。まさかの解放だぜ。都合いいなほんまに。とうとう私の無双フェーズか。俺TUEEEの夢を見られるのか。というか、もう日は沈んでいるのか。想像よりもずっと街が明るいもんだから気にならなかった。
「ニコラさん、案内するからこっちにきて。」
少し気まずい静寂を打ち破るようにヴァーチオはそう言って、ルーカルが通ったのとは違う通路に通され、ちょっと独房みのある小さな部屋に案内された。
「とりあえず今日はここで休んでちょうだい。設備は最低限だけどね。文句は税金を分けてくれない国に行ってちょうだい。」
やっぱ国から補助金もらってるんだ。となると組織としては独立してるのかな?まあいいや、とりあえず生きられていることには感謝しなければならぬ。特に考えるまでもなく、私はその藁でできたベッドに飛び込んだ。臭い。
なんなんだこれは、何を見ているんだこれは。この1日だけでいろんなことが起こり過ぎている。多分私はこれが2度目の人生だし、それを何故か大人の状態から迎えているし、夢にしては現実感が有り余る。もしこの人生に主人公補正かかってたら、どんなピンチもある意味死ななくていいように奇跡的に回避し続けていくんだろうし、HPが1になっても服も破けずに戦闘力が落ちずに殴り続け、見た目が変わらないのにレベルが上がって攻撃力が数百倍に跳ね上がったりするんだろうけどな。まあ私はごめんだけどこれで歩兵で雑魚死したらある意味史実に忠実で流れとしてはめっちゃおもろいけどな。話としてはありえないぐらい面白くないけど。
こういうことを思いながら、私はゴツゴツした硬いベッドの上でありきたりに、だらし無く眠りに落ちたのである。どっちにしてもまた見るのはこの世界だろう、ホンマ救いがねえ。
集中というのは恐ろしいもので、流石に今日更新するのはきついかなーと思いながら文章を書き始めたのが15時13分ごろ、そっから2時間ぐらいで一気に仕上がってしまいました。こうなったら毎日連載の勢いで頑張ります。
なんでしょう、誰にも伝わらない例えですが、文を書いている時の集中の仕方はプログラムを書いている時のそれに近いものがあります。自分が何となく得意な分野なのかもしれないですね。




