16話: 水泡に帰す
そんなわけで、俺は今別の広場へ駆り出されています。ちゃんと自警団の制服も貰いました。というか今まで初期装備のボロで三日過ごしていたのが信じられません。多分三回ぐらい鼻が曲がりました。
「さっきぶりだなお前。」
「なんでこうなるんだよ…」
隣にいるのは某カランビットさんだ。例の爆乳姉妹が相次いでダウンしたという話はさっきした。ついでに救援に来てくれたヴァーチュオもどきはヴァーチュオの姉だったことを知った。最初にラガーマンと居合わせた女とは別である。
「姉妹揃って趣味が露出とはイカれてやがるぜ…」
「なんか言った?」
「いいや?気にせんといて?」
「(ここに考える絵文字を挿入)」
あっかん口に出てしまった。しかもだいぶ破廉恥なやつ。
話を戻して、カランビットは俺と一緒に仕事したくなくて自警団を辞退していたようだが、ルーカスに以前自警団をやりたがっていたことを突かれて駆り出されてしまったようだった。ご丁寧に制服まで用意されている。と言ってもそんなに高尚なものではなく、私はシャツとジャケットを合わせたような深い青の服に二時五十分をさし示していそうな人がつけているようなズボン兼タイツをまとっているような感じだ。カランビットのも同様のものだと思ってくれていい。たぶん露出は上級騎士の特権だろう。そもそも、この時代で女騎士と言うのはそこまで一般的ではないはずだが、この自警団では綺麗に1:1程度の男女比となっているように見受けられる。男女共同参画なんちゃらが進んでいる村だこと。
そんで、あんだけ忌み嫌っていた俺と無賃労働しているというのは、皮肉を通り越して可哀想な話だ。にしてもあの貼り付けたようなツンデレキャラは若干に気持ち悪いものがある。えーと、親の仇を変に理性で押さえつけると人ってああなっちゃうのだろうか。あかん、俺は奴に殴られた時の出来事思い出したらイライラしてきた。ただでさえ眠たいし腹も減ったのに。ちょっとだけ食べたけど。あんなの思春期の少年には雀の涙同然である。
もう一つ、端折った割に重要な話だったので今更情けなく補足をするが、拠点を出る前にルーカスさんから二つ言いつけられた。一つは王の任命拒否の話を絶対に口外しないこと、もう一つは新聞社の応対には応えないこと。
さて、こんな平和にナレーションができているぐらいには、またしても広場は静かである。そして隣にいる女は常にイライラしているが、逃げたりなどとは考えていないように見える。本人的には何かをせめぎ合っているようにも感じる。あれ程物騒なものを見せられてしまっては、俺は曲がりなりにも相当な覚悟で赴いているというのに、何だこの平和ボケは。道行く人々への苛立ちが止まらない。おいそこのお前、破廉恥な服を着るな。おいそこのバカップル、さっさと失せんか。おいそこのヨボヨボジジイ、未来ある若者へその消えかけの命をくれてやれ。俺の前で笑顔を見せるな。今は政変の時だろうが。嘆け喚けのたうち回れ。
直ぐ、凶暴な女が口を開いた。
「何も起きねえな…」
これは良くない。すぐに撤回させなければ。
「そう言う事言わない!フラグになるから!」
軽く声を張り上げてやった。寧ろ傷口をえぐっているような気がしなくもないが、気にしてはいけない。
「フラグ?プテラノ語の?」
何か良くない兆候を覚えた。意味は分からないものの、とりあえず頷く他ない。
「ああ…」
「お前一応そっちの人間だもんな…プテラノ語わかるならそっちで話しても…いいか?」
なんと、日本語はこの国の標準語以上のものではなかった。それであればカランビットは日本語を使いこなしすぎている。家族から教えられたと考える他あるまい。そんなことより、俺はそもそもプテラノとやらに足を踏み入れた事もない偽装難民である。そんな言語があることを今知った。
「えーとな…俺な…」
思考がこれまでにないほど回っている。どんな答えを返してもいちゃもんの材料となる。血筋の話に持ち込めば面倒臭いことになるだろうし、嫌な思い出があるなどと言ってもこれまた面倒なことになる。考えるときの癖でどことない場所に視線を逸らすと、敵であろうにも関わらず、印象に残ってしまうほど、美しい瑠璃色の目をした女性となんとなく目が合った気がした。その瞬間、あまりにできすぎたその瞬間と都合が良いその瞬間だった。
ドォン。
鈍い音は唐突に、この虚しい広場の刺客として現れた。その方角を見れば、小さく砂埃が上がっている。音の割に勢い自体は爆竹のそれと変わらないように見えたが、その場しのぎの手にはちょうど良かったので、
「ほら?こうなるやろ?」
と我が物顔で返してやった。
「なんと都合いい…」
彼女はそうぼやいたと思えば、すぐに近くの植え込みから轟音と共に白い煙が見えた。さっきのものとは規模感の違う、どう見ても殺傷能力のある爆発であることは自明だ。気づけば俺は、腕の形を変えずに、一歩後退りしていた。
先ほどまで平和ボケしていた広場に、貼り付けたようなどよめきが走っている。さっき俺は嘆き喚けのたうちまわれとは確かに思ったが、実際にやれとは言っていない。フラグになったのはこちらのようであった。
動こうにも動けない。何をしようにも何もできない。この人数じゃ単騎で突撃しても蜂の巣になってしまう。いずれこの行動は後悔するだろうなと思いながらも、足がすくんでしまってどうも言うことを聞かない。あゝ、恐怖ってこう言うものを言うのか?いや違う。この体から自由意志が再び奪われようとしている。何者かは知らないが、俺の体で好き勝手されるのは少々困る。
次いで二発目が反対の植え込みから炸裂する。眩しさで思わず目が眩む。間違いない、これは混乱に乗じた武力攻撃だ。だが今の俺には何もできない。異世界にやってきたときのように、体がこわばって動かない。やはり奴だ。思い込みかもしれないが奴だ。そいつは俺の意思に反して、好き勝手行動しやがる。
失われつつある自我の中で必死に脳から命令を送り込み、首を上げてみれば、広場の中心街に向かって、何かが飛んできている。この大きさの感じは…手榴弾かもしれない。ゲームのやりすぎか?いいや見間違いで死ぬより見間違いで晒し者の方がいい。今やれることは…逃げることしかない。俺はカランビットの腕を強引に引っ張り、爆弾から可能な限り離れた場所へ走り込んだらしい。俺が死力を尽くして守ろうとしてあげてるにも関わらず、あの女は
「ちょっと!何するのよ!」
などとほざくので、たまらず俺は
「逃げねーと死ぬぞアホ!」
と、横の女と大衆に向けて声を大袈裟に張り上げてやった。大衆どもは意外に利口で、俺の背中を追うように一目散に爆弾らしきものから離れていく。何秒後に炸裂するか知らないが、とにかく被害が出ないことを祈る…
――騒いだのはいいが、何秒待とうと肝心の爆弾は作動しない。報酬系に良くない。あれだけ騒がしかった広場に静寂が訪れ、大衆どもは俺にどこか冷たい視線が浴びせているような気がする。もしや見間違いだろうか。いやまさかね。俺はカランピットの手を離し、その物体の正体を、突き止める好奇心の方が勝ってしまった。
フラググレネード。ピンを抜くと五秒後に爆発し、半径5mの人間に致命傷を与える…強力な武器だ。形を見るにおそらく米軍式だ。ピンは刺さっている。お間抜け兵士だこと。フラグになったのはこの手榴弾の方であったか…いいやおかしい。俺は前々よりこの世界の変なところを粗探ししてきた。しかしながら現代のものが出てきたのはこの爆弾と…トイレのピクトグラムぐらいだったか?ただおかしい。そもそも俺がみているこの世界はなんだ?てか俺って誰?
もう一度爆弾に目をやると、なんとピンが抜けている。え?俺死ぬの?さっきピン刺さってたよな?…もうこの距離では逃げられない。はあ。よもやここまでか。じゃあもういっそのことあの女だけ庇って成仏してしまおう。カッコつけでもなんでもいい。えっと人生の悔いは…せめてヴァーチュオの乳を
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