15話: 大目玉合戦
気持ち悪い。なんだあの女。あのまま大人とかになったら男からも女からも見放されるぞ。あの理性のあるツンデレみたいなの何。本当にイライラする…
見渡せば、外はある程度の秩序を保ちつつも絶えないどよめきが起こっている。とはいえ、まだ王の崩御が発表されてから3時間程度しか経っていないし、この作品も5万字後半まで書いているにも関わらずまだ3日しか経ってない。どちらにせよ、犯罪のファーストペンギンが飛び込んだら、どうせここも火の海だ。そういえば広場の火は大丈夫だろうか。あと腹が減った。
なぜだろうか、三日も僻地にいれば家族や友人、そして糞やら尿やら[表現規制により削除]を垂れ流していた故郷のトイレが恋しくなるものだと思っていたが、不思議とそういうものはない。考え直してみれば、アニメの転生者たちは新しい環境に適応するのが早すぎるんだよな。父や母がこの世界からいなくなった、もう会えないから悲しい。これはわかる。しかし自分がこの世界からいなくなった、自分以外の全員には会えない。ここまで来ると人間の思考回路はあっさりと割り切ってしまうのだろうか。
今何時だろうか。えーと15時…だろうか。こっからまた何もしない時間が始まるのだろうか。スマホの禁断症状が急に押し寄せる。他に娯楽はないのか。せめて書物があったりは…した。なんか小難しそうなことが書いてある。とりあえず片っ端から読み潰してしまうか?いいや、それに夢中になっていたら読み終えた時に本当の娯楽がなくなってしまうぞ。読書は…計画的に。
まず手に取った本の名前は『帝国メイス』らしいもの。メイス…神話…?なんでこんな色んなものを履き違えてしまったVTuberみたいなタイトルにしちゃったの?普通に神話でいいじゃん。果たしてドーパミン漬けになった俺が活字にどこまで耐えられるか。怖いもの見たさでページを開こうじゃないの。
私はアリス♩大地を司る神様♩今回神様の学校である催神学校に進学したんだけど、イケメンたちに囲まれて大変♩
なんだこれは。ぶち○すぞ。こんなラノベみたいな神話があってたまるかよ。想像を裏切らねえ。もう読む気失せた。
こんな調子じゃ他の本も期待できねえな。難民を収容してる施設の書棚なのであったらもっと富国強兵な中身の本があってもいいんじゃないか?我が国はこんなに素晴らしいんだぞと、ラノベ神話があって、国王が死ぬと機能不全に陥るクソみたいな法律があって、皇太子が即位を拒否するようなやんごとなき事情のある国ですって、きっちり示して欲しいものだよね。
はあ。腹が、減った。ただこんな混乱の中まともな飯にありつけるとは思えねえ。昨日何のためらいなく飯を食っていたのが嘘のようである。俺のスローライフ返せ。
ただ一方、腹が減っては戦はできぬとも言うだろう。だから隊員向けには多少の飯はあると思う…たぶん。そうであってくれ。
まだ居間にヒス女はいるのだろうか。言い方を変えれば未来のクソババア。妊婦から優先席を強奪してそうな感じの。いるのであれば俺は自分の部屋から動けぬ。ふとドアを開けて覗くと…いるな。どうしようか。また別の本で時間潰すしかねえな。
次はそうだな…「帝国のすべて」というやつ行くか。いかにも富国強兵って感じのタイトルじゃん?やはりずっしりしている。こんぐらい厚みのあるものじゃないと。
幾万年も前、神々が我々に大地と、人間をはじめとした生命を、我々が知覚できる形でお与えになった。人間はその歳月で神への感謝を忘れ、文明によって生み出された魔術とかなんかそんな類のものを発明したことで、人類こそが星々の頂に値するものだと錯覚した。それは神の大いなる怒りを誘い、酸味のある雨によって全ては洗い流された。今のエルボートン帝国はその雨を初めて目撃した地に都を構え、全ての市民の平静のために王が祭事を代行している。
ちゃんとそれっぽいものだったな…じゃあさっきのラノベ神話は何?難しい文字が読めない人にはこれでも読んでろってこと?…今ナチュラルにラノベを貶した気がするな。ああ、運営会社さん怒らないで!
あんま本文を長々と書くと俺が小学生の時によくやっていた読書感想文の手法のようになってしまうので要約させてもらうと、世界と言うのは複数あり、この世界は確かに外界として捉えられているようだ。だからこの世界の人々は王が神事を代行して、上の世界の人のご機嫌取りをしていると。そのかわり市民は政治に口出しする権利を最低限しか持っていないと。故に、他の国のように毎日礼拝に強制参加する必要はないらしい。
もしかしてだが、この国はどのような手段であれ、礼拝という形で神様たちのご機嫌取りをしているのかもしれない。プテラノはおそらくだが1日何回か神なり王なりへの礼拝が義務付けられていた可能性がある。それにした人々が、戦争を起こしてる可能性は無きにしも非ずか。であれば、カランビットはどっかで礼拝をしていてもおかしくないはずだがとても見た事は無いので、まあまず違うのでしょう。
そののち、この国の主な産業基盤などについての説明があった。この国に海はないため、隣国の海洋資源とこの世界の魔術で作ったなんかしらを取引しているらしい。なんと、この世界にも魔法はあった。しかしながら3日経っても、混乱の中でさえも、魔法のようなものは見たことがなかった。これはどういうかまとと?魔法って主に人殺したり動物殺したりとかするために使ってるものじゃないの?
もう少し読み進めると、魔法に関する説明もあった。魔法は基本的に免許制で、それを持っていないと魔法を発動するための杖とかなんかを所持できないらしい。そして免許を持っている人は基本的に一般人の村に入れないらしい。プレイヤーキルしまくった時のMMOかよ。この国が1番得意としているのは洗濯と木の自動伐採の魔法らしい。もうちょい人殺すのに使えよ。面白くねえな。
本を読み終えて、急に劣等感が襲ってきた。今の俺には何ができる?勉強も運動も碌にできない、価値なき命があの修羅の世界から一つ淘汰された。それを自然の摂理のように思っていたが、淘汰されたのは俺だった。挙げ句の果てに、三途の川を見るまでの広告みたいな世界で近づくこともできない乳のでかい女に寄りつこうとしてイキリ散らかして。本当に恥ずかしい。気持ち悪い。自分じゃあ何もできないってのに。特に気が見えるような理由もないのに。どの世界でも自分でやってる事は変わらない。そもそもこれは自分なのか?見た目も違う、そういえば声も違う、名前も違えば、住んでる世界も違う。けど確かに前の世界と思しき記憶があって、確かにこの体に自由意志がある…もしあの神話が本当のものだとしたら、俺は神の世界から降りてきた何かか?そうなんだとしたらもう少し無双させてくれよ。わたしゃあ神の子ぞ。
考え事を重ねれば重ねるほど虚しくなっていく。外は暗くなり始め、部屋の中こそ平和だが、外は軽く阿鼻叫喚と化している。こういう不気味な静けさの時は、大体碌でもないことが起こ…
「イタイ…アツイ…」
呻き声が廊下から聞こえる。ほらね、ビンゴ!虚しい。
騒ぎを嗅ぎつけて廊下の方に出ると、そこにはさっきのヴァーチュオもどきが、例のラガーマンにお姫様抱っこされて運ばれてきた。なんかルーカスと…ヴァーチュオもいる。ヴァーチュオもどきの右腕と右脇腹の皮膚は、淡い色になって膨れ上がっている。どう見ても火傷だ。ヴァーチュオは…これまた右腕から血がダラダラと垂れている。二人揃って怪我かいな。
「あ、ちょうどよかった。少年来てくれ。」
俺はルーカスに呼び止められた。
「ちょうど今パケット姉妹が怪我しちまってな…謹慎中だったけど人手が足りなくなったから出てくれないか?」
え!?逆に今まであの人数で回ってたの!?
最近編入試験に向けて勉強をしているおですが集中力が持ちません。助けてください。




