14話: 憤慨
急にまたむしゃくしゃしてきた。俺をそそのかしてきたのは例の難民だったよな?流された俺も流された方だけど、今頃腹抱えて笑っているかもしれないと考えると非常に腹立たしい。こうなれば、あいつに責任を全て擦りつけてやるまでだ。どうせ入ってすぐの例の部屋にでもいるのだろう。顔を見かけたら一発殴ってやる。
本部の鍵を開けても、外の混乱とは対照的に、まるで全員が猫でもかぶっているのかというほど静かである。勿論奴もいない。もしや、自分が悪いことをしたのを分かっていて隠れているのか?であれば余計に腹立たしい。
そういえば、罪人はこの辺に移送するという話をしていたが、既に捕まっている奴は居るはずなのに、一向に来る気配はない。状況が変わったのか、別に移送所等があるのかは分からないが、話が違うと言うだけで一抹の不安がよぎってしまう。…俺が罪人ってこと…?
うーん、この間をどうしようか。また振り返りでも入れたら読者が飽きちまうもんな。といってもやることがない。そもそも考え事をする気にもならない。心の奥底で猛烈に疲れを感じている。そして自警団のみんなは今も忙しそうに人をぶん殴っていると思うと、罪悪感だけが湧く。一人でなくても喧しいし、一人では寂しい。俺は何がしたいんだよ。
「よおお前、なんかえらい目に遭ってそうだな。」
椅子に座ったと思いきや、また声が聞こえる。絶対にあいつだ。ピューター・クロール=アームストロング。絶対にイニシャルを取ってはいけない。いきなり殴ってもいいこと無いだろうからとりあえず怒りは抑えて会話を始めなければ。
「貴様、本当に何してくれてんだよ。」
「はあ?俺が何したって言うんだよ。鍵があることを教えてあげただけやんけ。熊でもそんな逆ギレの仕方しないぞ。」
…畜生め。こいつが悪役だろ。ええい落ち着くんだ、ピキったら負け、ピキったら負け…とりあえず論理で攻めよう。なんかお茶を濁せそうな話題を絞り出そう。
「そもそもさ、お前ルーカスから鍵について説明受けてたの?」
「受けてねーわ。だからなんだよ。」
何となくわかる。こいつは嘘をついている。多分こういう返しをすることすら読まれている。ガキみてえな顔して小賢しいことしやがるな。こういう時は敢えて意表を突こうとすると大抵碌な事にならないもんだ。かと言って流されてもいけない。
発言の間も伺えず、野郎の話は続く。
「団長さんの怒られてる時に難民にも説明したって話あった?なかったでしょ。」
「ちょっと待て。なんでお前がそれを知っている?」
「少し抜け出して崩御の噂を先に流してやろうとか思っていたらいたんだよ、お前が。すっげえ偶然。」
「…は?」
また奴の話が続く。
「なにかしているのかなと思いきや突っ立ってるだけやん。それで臨時隊員になれるなら俺もなろうかな。」
コイツの煽り性能の高さは認めるが、怒りに任せて手を出すわけにも行かず、考えすぎてしまうとコイツの煽りが加速する。とりあえず何か返さないといけない。
「お前暇かよ。そして何で聞き耳立ててるんだよ。」
「俺こっち来て長いから暇なんだよ。なあわかってくれよ。」
「知らねえよ。てかお前さらっとゲロったけど、勝手の抜け出していた話上に報告するからな。」
「報告したところで何になる?本部に誰もいないぐらいみんな忙しいのに?」
それは盲点だった。こんな状況での難民の脱走なんて誰も気にしない可能性は高い。話が上手い、大変よろしく無い。
奴は調子に乗ったまま話を続ける。
「みんな頑張ってるのにお前は警官ごっこしに行かないの?あそっか〜謹慎くらってるんだよねーごめんごめん。おっぱいをくれるママもいなくて寂しいでちゅね〜」
…もう我慢の限界。きっと味方に甘いルーカスさん…敵に厳しいというデータもないけどまあ彼なら多分こいつを殺しても納得してくれる。俺は既に軽く握っていた左拳にさらに力を加える。その様子を見て奴は、
「うっひょ〜。スティグマだらけの捨て駒!落ち着けって!」
などとほざきながら、笑顔で一歩二歩後退りしている。また奴の口が開く。
「もうちょい煽り耐性つけた方がいいんじゃないすか?こんなんであったまってたら自警団務まらないよ!」
チキンな割に図太いメンタルしてるな。ちゃんと隅っこに追い詰めながらちょっと脅してみるか。
「いちおうこっちは臨時隊員だからな。あんま舐めた口聞くなよ。」
…だっせー…これ後で恥ずかしくなる奴だ…。
「まあまあ、お前だってでしゃばってるだけの難民じゃん。仲良くしようぜ。喧嘩は良くない!」
「どの口が言うとんねんアホ!」
そう言って俺は、チャージが完了した左手を思いっきり奴の右耳めがけて振り下ろしてやったが、現実で同じことをやってここまで綺麗にいくのか、と感心してしまいそうな程鮮やかなのけぞりで回避されてしまった。
「はい、これで手を出した方が悪い〜!」
やろう、司法を傘に着るつもりか。そうされると何もでき…あっそうだ、今法律機能してないじゃん!
「今は無法状態じゃい!」
「なんだよそれ!自警団が言うセリフじゃねえよ!」
もう一度、着実に壁に追い込む。多少息が上がっているのがバレてはいる。やっぱり体力ねえなあと我ながら思う。無言の圧力でどうにかしてゴリ押そうとしているが、外から見たら迫力ないんだろうなあ。
よしよし、壁際に追い込んだ。今こそこの正義の鉄槌の二発目を叩き込んでやれ。このクソガキに人を小馬鹿にすることの恐ろしさを身をもって教育してやれ。
「あ、ヴァーチュオ!」
え?
「どこ見てんだよ!」
そう言われた直後、猛烈に自分の股間が痛んだ。もうそれはもう痛みのあまり立っていることができず、右前に倒れ込んだ勢いのまま、テーブルに顔を激しくぶつけてしまった。2キルである。こいつはどこまでも卑怯な手を使いよる。うめく中でもドタドタというわざとらしい足音が遠くなっていくのがわかる。この世界に来てから随分と殴られてばかりである。
「ガタガタうるせえよ!」
直後にドアを開けるような音がしたと思ったら、女の怒号が飛んだ。また別の難民だろうか。うん、今回ばかりは俺は悪くねえよ。軽やかな足音はこれまた自分のいる部屋に近づこうとしている。また新しいやつでも現れるのか?もう頼むから登場人物増やさないでくれ!
ふと目が合った。あいつだ。カランビットだ。更に呼んでない奴が来た。また殴られるかもしれねえ。そしたらもう四面楚歌よ。下手したらまともな現場に行く前に不随になっちまうよ。
「お前隊員になったんじゃねえのか?」
意外にも、彼女は突っ立ったまま、大きな感情などを抑える様子もなく、うずくまる俺に話しかけてきた。そういえば、例の纏足チックなローファーは脱いでいるし、違う色のワンピースを纏っている。
「ちょっとやらかして謹慎くらってるだけ。そういえばそっちこそ自警団手伝いたいって話してたんじゃないのか?」
「お前がやりたいって話聞いてやめた。」
「何だよそれ…」
普通の会話ができている。若干意外…というか気持ちわりいな。あんなに敵意剥き出しだったのに。逆に聞こう、お前の親の仇なんてそんなもんかよと。
「…殴ってこないのか?」
うわ絶対質問間違えた。かといってこれをどうやって言語化するんだよ。いやこれは小説だろ。頑張れよ。
「うわマゾかよお前、気持ち悪いな。やるにしてもあのおっぱいがデカい女にでも殴ってもらえよ。」
「何の話してるんだよ。あのー…なんていうの、前にお前が俺と会った時にはまあなんか色々あって抑えられないものがあったんでしょうけど、今は普通に話してくれてるのが正直怖くてさ。」
「あのあとこっぴどく怒られただけよ。」
「なるほど…?」
こいつもこいつで捉え所がなくて怖い。あんまり人の顔を見るのは得意ではないんだが、表情には険しさが残っている。溜め込んでいるものがあるのだろうか。お互い会話するのに相当言葉を選んでいるせいなのか、ヴァーチュオと同じ時よりと似たような気まずさが流れる。あまりに気まずいので、一回話自体を区切りたい…けどちょっと待てよ、今は怒ってくるような上司もいないし社会情勢も大変なことになっているのだから、彼女はまた私に手を出しても誰も咎めないはずだ…これ以上話すと俺が殴られる趣味がある奴みたいになっちまうな。そんなつもりはないぞ…
「ごめん、やっぱどっか行って。腹が立ってしょうがない。」
えっと急に話の流れ変わるやん。
「それはあなたが動けばいいのでは?」
「うるさいわね!何でもいいから視界から消えてちょうだい!また殴るわよ!」
「わかった、わかった。」
ヒステリーを起こした女ほど怖いものはない。そしてまた殴り合いをする気はない。さっさと元々の俺の部屋に引っ込むとしよう。
マイクラは人生破壊装置です。みんなやろう。




