13話: 休み休みのバカ
いろいろと腑に落ちねえ事がある。まずあの爆乳女と前からいた白髪バリキャリ風味の女とラガーマン全員の名前もわからねえ。ルーカスの意図もわからねえ。『今の自警団に何ができる』ってどういうことだ?何より、ものの数分で広場が阿鼻叫喚になるこの様よ。
意気揚々と一度、噴水を囲むように配置に戻る。左には例の白髪女、右には応援に来たのであろう別の男の隊員がいる。体格も普通、顔も普通と、面白みに欠ける外観をしているので、わざわざ言及するまでもなさそう。というか覚えられねえ。目の前では押さえつけられていたやつが次々と広場の外まで連行されており、また随分と大層な桶が置かれたかと思えば、皮かなんかで作られたホースらしきものがみるみる伸びている。消火ホースか?現代的な装備のような、そうでないような。ちょっと隣の女にあれについて知っているか聞いてみることとしよう。完全に好奇心ではある。
「あの管はなんですか?」
少し絞り出すように、女に話しかけてみた。
「消火ホース?とかいうやつ。消防局が買った最新設備とからしいけど…私もよくわからない。」
なるほどね、こっちだと税金の無駄遣いのように考えられているのか。ちょっと信じられないな。
なんだかいろいろ頑張ってもらってるのに、私は何もしないという命令を遂行せねばならない。だがそれはそれで罪悪感が湧くので、適当にそれらしき会話でもしてお茶を濁そうかと思う。
「あとすいません、さっき暴徒が『今の自警団に何ができる』って言ってたのが気になるんですけど…あれの意味ってわかりますか?」
「え?…あ、そっか。君難民系だから知らないよね。」
なんだよ。悪いかよ。
「えーとうちの法律だと、大体の犯罪が悪いこととされている理由が『王への反逆』になっちゃってるんだよね。今は王が崩御されるとすぐに跡取りが即位するようになってるけど、空白期間は無法状態…」
ちょっと待て。絶対その法律拘るところ違うやろ。人殺しが悪い理由が『王への反逆』ってなんやねん。王がいようがいまいが悪いことは悪いことやろ。王に怒られなければ何してもいいのかよ。小学生みたいな理論で国動かすな。
まあそれはわかったけど、それがなぜ自警団は何もできないと言われることにつながるのだろうか。深い意味なく『今の俺は止められないぜ』という意味なのだろうか。いいや待てよ、ルーカスは前に『殺さない程度に殴って手錠を嵌める』と言った具合のこと言ってたよな…絶対もっとちゃんとしたガイドラインがあるはずだ…まさか、王がいなくなると自警団から逮捕の権限が消えるとか!?
法の穴をついた直後、まるでその事実をもみ消そうとするかの如く、例のラガーマンがものすごい勢いでこっちに走ってきたと思ったら、すぐにこちらに話しかけてきた。
「少年、おやっさんが呼んでるからそっちいけ。代わるから。」
そういえばそうだった。全部思い出した。俺はやらかした立場だ。いくらここで警官ごっこしていても罪滅ぼしにはならない。急に現実が迫ってくる。ああ、これからどうなってしまうのか。怒られるどころの騒ぎじゃないだろうな…しかもこう有事にわざわざ呼び出すレベルでルーカスは思うところがあるって話でしょ。どの世界でもこういう目に遭うのかよ。今回ばっかしは自業自得だけど。
着実に一歩一歩この足は広場の外へ進んでいるが、心理的な足取りは重い。距離はそこまでないはずなのに。俺は難民でいられなくなってしまうかもしれない。下手したらその場で殺されてしまうかもしれない。逆に軽いペナルティで済んだとしてもそれはそれで気持ち悪い。何を求めてるんだよ俺は。もう深く考えるのはやめよう。もう何をされても受け入れるしかない。心を無にして。俺は罪人なのだから。
俯きながら広場を出ると、すぐにルーカスはいた。気づいた彼は俺をおういと呼び止め、混乱する道の端で話を始めた。なんとなくファンシーに見えていたこの世界の色合いが、いつになくシビアに映る。
「三つ話がある。端的に話すからよく覚えておけ。」
何を言われるのだろう。怖いなあ、怖いなあ…
「はい…」
「一つ、お前が言ってたシュミット剣の捜査が終わった。国境付近の街で、この国からプテラノに向かって剣を輸出していた商人が複数人摘発された。きっとご両親はそこから買っていたのだろう。」
…え?最初に持ってくるのがそれかよ。そしてちゃっかりお手柄だ。えーと俺は…どういう顔をしたらいい…?
「二つ、お前が俺の鍵を勝手に持ち出した話。」
はー、きました。もう覚悟はできました。どうせできてないけど。もう処刑でも打ち首でも何でもしちゃってくださいよ。
「どんな理由であれこれは普通に問題だから、ちょっと懲罰は下ると思ってくれ。んでさ、何を思って持ち出したか聞いてもいいか?」
なんか違う流れだな。何がしたいのか掴めない。逆に怖いです。
「えーと、自警団で働く気があるならこの鍵を返しに来い、という意図を持っていたのかと思いまして…」
もう正直に言うしかなかろう。本当に恥ずかしい。
「やっぱそっちかいな。あれはな、あくまで中にいる難民がやむを得ず外に出る時のために残したやつなんだわ。そういう解釈するのか、と気づいた時にはびっくらこいたけど、こっちにも負い目がありそうな気がしてお前だけを責めるのも忍びないから、今日中の謹慎で済ませてやる。二度とすんじゃねえぞ。」
え、思ったよりずっとペナルティが軽い。すごく都合がいいな。もはや逆に気持ち悪いが非常に有難い話ではある。はあ、なんか急に肩から力が抜けてきた。
「最後。これは本当にまずい話だから、ちょっと大声で言えないんだが…」
そう言って彼は、顔を私の耳元に近づけて話し始めた。
「ヒドロ・アローズ様の後継人であるマスクキング・アローズ様が即位を拒否された。」
え?後継人不在?ん?ちょっと待てよ?
「えーと、それって…つまり…」
「わかっているようだな。この話が解決するまで国内は無法地帯だ。本当は俺らは仕事の権限も無くなるがもはやそんなの関係ないので、謹慎が明けたらお前を臨時の隊員に任命してやるから、しばらく頑張ってもらうぞ。」
おいおい嘘だろ。早稲田大学卒のムキムキパンイチ芸人と同じノリでエラいこと言いよった。さっきのまさかの話そのまんまやんけ。もう俺の命がどうなるみたいな話全部吹っ飛んだわ。
そして自分が望んでいた隊員になるのか。臨時とは言えど。へー…なんだろう、願いが叶ったのに嬉しいともなんとも思えない。何が起こってるのかもうわからない。ゆっくり喋ってくれないかな。なんも変わらないけれど。
「てなわけで今日はもう本部戻りなさい。熱意は伝わったから。」
そう言われて、俺はもう一度鍵をルーカスから渡された…おいちょっと待て。言語化しづらいがルーカスはなんも学習してないだろ。鍵奪った相手にもう一度渡すとか。対策って文字を知らないのか?これはちゃんと指摘しなきゃ。
「えっと…もう一度鍵渡すんですか?」
「いやだって今鍵ないんだもん。お前が持ち出したんだからちゃんと戻してこいよ。」
うんそういう所だと思うよ。自警団の税金が絞られてるのは。セキュリティ管理の甘さが全部の原因。逆にこれでどうやって維持してるの?
そういうことがありまして、私はけたたましいほどの騒ぎの広場を後にする。それに面する大通りも想像通りに荒れており、時折怒号も響いている。もしこれで殴られている子供とかがいたら、俺はどっちを優先すべきなのか?本来の職務…って言えるほどまだなんかしているわけじゃないけど子供を助けるべきなのか、あるいは上からの命令に従うべきなのか。というか大体こういうことを考えてる時って本当に近くに危険な目に遭ってる子供とかいたりするんだよなー…と思いつき、ふと左側に顔を向けても、そんな子供はいなかった。むしろいてくれたら困るわい。代わりに、私がこの国に来て最初の食事をした飲食店が目に入った。騒ぎを受けてなのかドアはCLOSEDの表示になっている。このお店の名前…アローズ…ってちょっと待って、国王陛下の苗字じゃん。そんな高尚な名前を平民のお店に使っていいの!?
ここ数日風邪を引いておりまともに筆…というかフリックする指が進みませんでした。
順次ペースを戻していきます。目標の文字数に向けて突っ走ります。




