12話: 国王崩御、国王万歳!
なんだかんだ5分ぐらい経ってるけど、絶えずどよめきが起こるだけで、特に乱暴なことが起きてる様子はない。まさか立ってるだけでいいのけ。嘘だろ。なんなんだよ、こっちは命捨てる覚悟で臨んでいると言うのに。面白くねえー…ホンマおもんねえ…自分の言ってることヤバいだろ。
まあだって、スマホのない世界だもん。弄ってないと嫌な事を思い出してしまう。あっ樹さん、どうか写真フォルダの非表示のやつは見ないでくれ…そしてあいつなんか…小学生の時俺をいじめてきた奴にそっくりな顔だな…。結局どの世界にもいるのか。さ、考え事早めにしないと。いつドキドキパニックが起こるのか分からないし。けどやっぱ…不謹慎な事言うけど案外平和なもんだな。絶対口に出せないけどね。
そんな事を考えているとすぐ、例のいかつい男が言った。
「…なんが案外平和だな。」
何で俺が踏みとどまったの言うんだよ!しかも案外の部分まで一緒!何で?気持ち悪っ。
「そうね、面白くないわね。」
女もだよ。しかもそれ一番言っちゃダメな所。そう言えば二人とも名前なんですか?
男が続ける。
「あんまそういうの口に出すな。だいたい『フラグ』って奴になってしまうんだよ。」
いや、平和だなとか言い出したのお前な。そしてフラグとか言うなよ。てか何で知ってるんだよ…落ち着けー俺、ニコラ。俗称。ニコラ。バイクカワサキバイクみたいに言うなよ。もうボケが多すぎてツッコミが渋滞してやがる。そして面白くもない。
まあまあ、フラグがどうたら言ってるうちは何も起こんないと思うよ…うん。ただ何が起きるかわからんから油断はもちろんできないけ…
「おらあ!今日は宴だ!」
ごめん前言撤回。なんか紙と火打石と打ち金持って広場に突進しながら叫ぶ男がいるわ。あれ止めにいかにゃあかん。火打石と打ち金なんてマイクラ以外で初めてみたよ…。
最初に向かってくれたのは味方の男の方だった。意外にも俺は足が竦んでしまい、動けなかった。優先席に座ってる時、目の前に来たオバハンに席を譲るか悩んじゃった時を想像してほしい。まあ情けねえ…俺だけ何もできず…この女は何してんだよ。同じように見てるだけかい。うーん、批判的な事を言おう、というか書こう、というか残そうとした気がするが、全く人のことを言えないので飲み込むことにしよう。
「こら!やめなさい!」
味方の男の方はそう叫びながら、マイクラ野郎に向かってタックルしようと言わんばかりの突進をする。別にマイクラは悪くない。味方の方はラグビーとかやらせたら強そうだな。一回ラガーマンって呼ぼうか。
「今の自警団に何ができるんだよ!」
バシンと、肉と肉とぶつかる音がした。マイクラ野郎はラガーマンのタックルに抗おうと、足に力を入れている。文字通りの肉弾戦だ。うーん、44kgにできることはなさそうなので、俺はとりあえず姿勢を戻すことにする。
「犯罪を止める権利は変わらずあんだよ!」
「な訳あるかいな。王がいないと何もできないのに?」
「…どっちにしろその火打石を捨てなさい!燃やすのダメなのは王がどう以前の問題だから!」
そう言ってラガーマンは強く力を横から差し込むと、マイクラ野郎の足はあっさりと持っていかれたようで、諦めて受け身を取り始めた。と思えば、後ろからこれまたバリー・ボンズのように屈強な男が後ろから迫ってきている。多分あいつのグルっぽい。だとしたらまずい。あんなやつと張り合って、自分の身がどうなるかという不安はあったが、それよりも男とぶつかりそうな場所へ走ろうという本能の方が早かった。なんだよ、意外と勇気あんじゃん。俺もそう思う。多分なんかテンションおかしかった。
その刹那、マイクラ野郎が後ろから応援するバリー・ボンズに向かって火打石と打ち金をパスしているのを視界に入れた。まじでやってることラグビーじゃねーか。ちゃんと後ろに投げるところも含めて。
ただそこに気を取られていたら、もうバリー・ボンズは眼前に迫っていた。そもそもタックルの姿勢なんてわからないから取っていない。受け身も知らない。あゝくそ、投げ飛ばせないならせめて転ばせる方向に――
あれ、足が…眼の前をかすめ…うわ避けやがった!デカいのに瞬発力もあるのかよ。奴の手にはちゃっかり火打石も見える。えーとどっち行ったんだ、右側!
「ストーン!キャッチャーあるか?」
「あるよ!」
味方の男と女がそう会話しているが、今やることはあいつを追いかけることだ。ストーン?何だそれ…
俺が集中を戻した時には、バリー・ボンズはそれなりに先の方にいた。急に止まってしゃがみ込んだかと思えば、わずかに火花が散っているのを見かけた。草むらはあっという間に火を灯している。くそ!言うてる場合か、とりあえず身柄は抑えないと。
って今度は横から誰か来る。情報量多すぎ。これまたごつい男だ、ごつい男…いやトカゲ?…亜人?あ、バリー・ボンズに突っ込んで…倒した。これまたタックルで。俺何もしてない。火は広がる。巨体も藻掻く。えーと俺は何をしたらいい。
人は最悪殺せばどうにかなる。火はどうにもならん!こっちだ!
消火剤的なのはないのか?ぱっと見は見当たらない。そう言えば、布をかけると酸素が遮断されて鎮火するとか聞いたことあるな。俺の服は…スッカスカやんけ。絶対遮断どころか燃料になる。んてかこの服透けすぎだろ。そろそろ乳首浮きでそうだわ。だーから言ってる場合かっつうねんアホ。次の消火手段を…
今度は何だ?また誰か突っ込んでくる?とりあえず受け身とか…とらないと…?もうやることやらせてくれ!
「国王陛下万歳ー!」
と言いながら、ちょっと古典的なセリフで突っ込んできている細身の男と目が合った。申し訳ないけど、こいつならやり返せる気がする。おいこっち来いよ。変な自信がついた俺は強いぞ。そんな設定ないけど。
体がぶつかろうと、大した衝撃はない。意外とどうにかなりそう。これならいけそう。わずかな睨み合いの後、相手が俺の胸ぐらを掴んだのち、体をひねって股の間に右足を差し込もうとしているのが見えたので、やつが狙っている右足に力を入れながら、左足を上げてやったら、あっさり転んでしまった。そのままうつ伏せにして押さえつけろ。もう火は他の人に任せた。今はこいつ押さえつけなきゃいけないから動けねえ。
よそ見にならない程度に顔を上げれば、あっという間に広場は阿鼻叫喚だ。これが割れ窓理論ってやつ?違う?これを2+1人で抑えようだなんて上層部は何を考えてらっしゃる?無理だろ。とりあえず応援を読んでもらわにゃあかん。もう藁にもすがる思いで民間人に泣きつくぞ。
ちょうど、目の前を走り抜け、広場の出口を目指す女がいた。この人にお願いしよう。
「すいません!」
そう軽く叫んではみたものだから、女の耳には確実にうるさいほど聞こえているはずだが、軽くこちら側に首を傾けたのみで、聞こえないふりをしよる。本当に失礼だな。どいつもこいつも。そろそろ押さえつける腕から、わずかな肉の痙攣が伺える。動こうとしている。消耗戦になったらおそらく逃げられてしまう。女の方は刺股のようなものでさっきのマイクラ野郎を押さえつけているが、男の方はさっきの亜人かなんかに代わってバリー・ボンズを捩じ伏せている。火もどんどん広がってくる。早く誰か来てくれ。さっさと来てくれ!
んなこと言われても、あの感じを見ると誰も察して行動などしてくれやしないのだろう。今はみんな理性より本能が優先のように見える。とはいえ、もうそろ体力が限界を迎えそうである。いつこの騒乱に文字通り火に油を注いでしまうかわからない。もう一度善意がこの世界にも存在するという望みをかけて。
「すいません!」
やっぱり虚しく響くな。無理だな。どうにもならねえ。あーあ、これから俺は難民からも追い出され、下手したら国外追放され、出まかせで広がった戦場によくわからないまま放り込まれる。こりゃあ前の世界より救いがね…
「どうしました?」
え?俺に言ってる?女神様でもいらっしゃった?
「私に言ってます?」
一人称が勝手に変わってる。もうなんでもいい。
「もちろんです!どうしましたか?」
「ちょっと他の場所にいる自警団の人に応援を頼んでも大丈夫ですか?」
「わかりました!」
「ありがとうございます!」
そう言って、善意というものを持って話しかけてくれた女神さんはどこかへ消えた。気を緩めるな、ここからが踏ん張り所。援軍が来るまでの時間って話の流れ的に端折られがちだけど、今の俺にはそれが長いんだよ。燦々と燃えゆく火を前に話を省略するなんてできるかいな。本当に誰か消火をしてくれ!あれだろ、水魔法かなんかでドパーってやればいいやん。言ってること頭悪っ。自分で思ったけど。そして奥にも暴れてそうなやついるな。なんか殴り合いになってるし…でも今やるべきことを考えて。俺がやることはとりあえず明らかに俺をめがけて突っ込んできたこの阿呆の身柄を豚箱に放ってやることなんだよ。
「少年、そこの男変わるから配置戻って。消火もこっちでやる。」
誰だ?ヴァーチュオ…じゃねえ。なんか似た雰囲気はあるが俺より背が高い。相変わらず乳はでかい。うーんとね、なんか助けが来たことはわかった。なんだよ、案外早いじゃねーかよ。そういう話の埋め方をするわけね。今はお言葉に甘えて変わってもらう。…ちょっと思ったけどさ、こんだけすけべな女に拘束されるのもはやご褒美でしょ。うわー、初めて犯罪者に憧れたわ。
最近はマインクラフトに人生を破壊されつつあります。この前は人権を失いました。




