11話: 覚悟という便利な言葉
んでどこに合流すりゃいいんだよ。わからねえ。そして何をすればいいんだよ。わからねえ。…そういえばさっあんぽんたんな風貌の男から逃げてきた時に、俺は割と全速力で走っていたのだが、不思議と疲れはない。最初はあんなに疲れていたのに?都合よく体力でも手に入ったか?いや体力を手に入れるってなんだ?肺活量とかその辺だろうか?
ええい、んなこと言ってる場合か。とりあえずルーカスさんを探さなきゃじゃん。あ、建物の鍵は逃げる前にちゃんと閉めてきたよ。もしいるとしたら…重役であることも考えても…そうだな、役所の近くとかその辺を任されてもおかしくなさそう。そっちに急ごう。というか、その団長クラスの人であればむしろ本部を守ってる方がいいのでは?ルーカスさんが襲われたら機能不全やろ。そんなに組織もデカそうには見えないし。それにしてもさ、さっきの記者は何を聞こうとした?一番ありそうなのは…王の崩御の話かな。それでそんなに街ってパニックになるかな?とはいえなんか話したら不味そうなのは安易な想像がついてしまうので、何も言わなくて正解だったな。うん、やっぱルーカス個人の不祥事を今聞いてくるわけがないんだ。色々ありそうだけどあの人。うーん。今のところ街は体感的に気持ち悪いほど静かなだけで、特段変な様子はない。とにかく役所って風呂屋の近くだったよな?案内板にあった気がするんだ。たしかスパイク通りをガーッと3つ?いったところか。あっかん、小説と思えない語彙力の稚拙さと頭の悪さ。
あったあった。ここを左だったよな。さあ急げ。今すぐにでも応援に行かなければ。今の体は疲れ知らずか何かだろう、バフかなんかだとしたら切れる前に行ってしまいたいな。そういう概念があるのかは知らないけどね。
前回はあんなに体感で長くかかっていた風呂屋までの道のりも、瞬く間に通り過ぎてしまう。二周目にしてすでに面白みのない街と捉えるのが正解か、あるいはそこまで目配せする余裕がないと考えるのが正解か。いや単純にお前の足がおかしいだけだよ。そんで、風呂屋の数軒先に役所は…これだ。なんか人が集っている。記者達か?それを取り囲むように…自警団員がいる?そういえばこの組織正装とか無いよな。誰が団員なのか雰囲気で伝わらんこともないけどまずわからんやろ。とりあえず急げ。
目の前には、警備員っぽい雰囲気を纏った人が男女ペアで2人いる。白い髪をお団子のようにまとめており、腰に小さい剣らしいものを納めている女の方はさっきの作戦会議にいた気がするが、多分軽トラぐらいだったらタックルで勝てそうな感じにガッチリした男の方は全く知らない。うへー。あれとハイタッチしただけで腕の骨持ってかれそうだなあ。どちらも堂々とした佇まいで、後ろで手を組んでおり、明らかに威圧感はある。肝心のルーカスさんは見当たらない。うーん、役所にいそうと言う読みまでは当たってたんだけどなあ。とりあえず話しかけてみるしかないか。作戦会議にいた方の人の方が確実だと思う。だっていかつい人は…怖いし。小学生みたいな理由だなおい。
「すいません…自警団の人すか?」
「そうだけど…って、あのアホ坊主?結局合流してきたんだ。」
んだよそのあだ名。誰が名付けやがった。気に入らねえ、それだけ問い詰めてやる。
「それ言い出したの誰ですか…」
女は答えた。
「ほら、あいつだよあいつ!」
「それが誰か聞いてるんですよ!」
あまりにも不毛な会話だ。
「わかるでしょ、お前さんに怒ってた人だよ。」
そう聞いて、全て察した。まずこの女は自警団の人間であるという確信と、俺以外にもルーカスの横柄な態度を違うと思っている人物は存在するのかもしれないという穿った推察をした。
「なるほど…わかりました。とりあえず、ルーカスさんに…」
「やる気あるんだったら手伝って!話し込む時間も本当はないの!」
だから何をだよ。もしや近くで立ってるだけでいいの?こんな格好なのに?ああわかったよ、この人の隣で同じように腕組んでおけばいいのね。の前にとりあえず鍵!俺が持っていい代物じゃないだろうし、こんな大事なもの。より強靭な人が持つべきだよ。
「あ、ちょっと。預けたいものがあって。」
「何?」
何て説明しようか。なんだか名前を出したらあかん気がするんだ。
「これ、団長が置いてった本部の鍵です。」
そう言って俺がポケットに入れていた布切れの付いている鍵を差し出した。
「え?なんでお前さんが持っているんだ?」
「え?」
苦慮の顔を浮かべている。予想と違う。何があかんのかはわからないが、やらかしたことだけは確かなんだろうな。やっべえ、なんかフォローしないと。
「えっとこれルーカスさんが置いていったやつで…」
「だから何でお前さんが持ってるのよ。」
察しの悪い女だな。俺がどうにか説明してやろうとしているのに下手な遮り方しよって。もうちょい建設的な会話の姿勢というのを見せて欲しいものだわ。どいつもこいつも。バカは何回も説明しないと覚えられないってことか。ちょっと周りにバレたらまずいから言葉を選びながら、なおかつ小さい声で…音楽記号じゃねーんだよ。あれ?誰にも伝わってない?
「ええっとですね、まず私は会議の後団長さんに呼ばれて話をしたんですよ。そこでちょっと警備を手伝ってくれと言われまして、ですが研修もなしにいきなり現場に行くのは流石に怖いという話をしたら喧嘩になりまして…それでこの鍵を置いて『やる気があるならついてこい』的ななんかよく分からないことを言って出てっちゃったんですよ。」
「うーんとね、何の説明にもなってない。」
「ん?えっとー…ちょっと待ってくださいね?」
「別に置いてったからと言って、それを持ち出す必要はなかろうに。何で?」
「んーと、一回話を整理しましょう!」
「整理も何も…」
「いいや、余計複雑になるだけ。お前は言われた質問にだけ答えろ。」
ちょっと待て、さっきから誰が話しているんだ?確実に例の女じゃない奴と話しているよな。えーとえーと?ひい、さっきのいかつい男じゃん。あーもう、文章じゃ誰が喋ってるかわかりづらいんだからぬるっと入ってくるなよ…ただでさえわけわからん状況なのに。
男は言った。
「まず、お前の名前は?」
「ニコラです。」
「ホンマにか?随分とメス臭え名前してんな。」
この世界の奴ら本当にデリカシーとかないのか?
「…あはは、よく言われます。」
「やかましいわい。そんで、お前は自警団に関わりがあるんだろうな。」
何だよ聞いといてやかましいって。器狭いな。コミュ障拗らせてる俺に言われるようじゃおしまいやで。
女は言った。
「ああ、そこは私が補足するよ。彼プテラノの難民でここで匿ってたんだけど、なんか自警団手伝いたいって言い出したらしいのよ。」
「ずいぶんと安直だな。でその鍵は?誰のだ?」
何だお前。随分と喧嘩売ってくるな。ええい、こいつがもしもませたガキとかだったら、その態度に一髪ゲンコツ飛ばしてやろうぞ。というか今の前座を置いた意味は?名前はともかく半分わかってた話じゃないの?一回堪えろー、六秒数える奴…1…2…ダメだ、余計イライラする。
「団長のもの…だと思います。そう難民の人が教えてくれました。」
男は言った…この言ったシリーズもうちょいバリエーション持たせようぜ。
「ふーん。てことは、鍵を渡された時に団長から説明は受けてないんだな?」
急に鋭いことを言ってきよる。どうした。
「何も受けていません。鍵については。」
「じゃあさ、ルーカスになんて言われたんだい。」
「やる気があるならついて来い、やる気がないなら辞め…」
急に鐘が鳴った。どうやら俺の会話をいちいち邪魔してくるのは目の前の脳筋野郎と気が強そうな女だけではないらしい。何が起こるのかと少々戸惑ったが、すぐに理由を思い出した。ルーカスの言っていた『本日十二時に、国王の崩御を発表する』という話。話し込んでいるせいで肝心な時に定位置についてないとは何事だ。ふざけていやがる…俺のせいやん。
すぐに男は言った。
「まあいい、あとでじっくり話そう。とりあえずその鍵寄越せ。」
そうだよ、とりあえずそうしたかったんだよ。俺は持っていた鍵を、恐竜の手と言われても差し支えないようなごつごつした物体の上に置くと、すぐそれは男のジャケットにあった、小さなポケットに何の躊躇いもなくしまわれた。そんなところに仕舞ったら落とすだろ。この前筆者も胸ポケにメガネ入れて無くしたらしいし。そこのお前も気をつけろよな!
うーん。ふと思ったけど、この世界って案外情報の伝達が早そうだよな。この村が王都?からどれぐらい離れてるのかわからんけどね。なんとなく東京と八王子ぐらいの距離じゃないのかなと適当に予想してみる。
例のマスコミと同じような服を着たやつが、一目散に2人ぐらい役所の向かいにある広場に走っていくのが見えた。あっ言い忘れたけど、俺らがいるのそっちね。手に持ってるのは…号外か?好奇心にかまけて体が前のめりになるが、今は定位置についてないといけない。
「号外です!国王陛下が崩御されました!」
男たちはその紙を配り始めた。やっぱ号外じゃん。多分中身は王の崩御に関わることだろう。ああ、始まったな!終わりの始まりだ!
前々から警備員やら記者がいる時点で既に仰々しい空気が佇んでいる広場に、更なるどよめきが起こっていることは、言うまでもない。何でかは知らんが自棄に扇動的だ。ああ、目の前で起こっている事のえげつなさで、自分のやらかしが霞んでくれはしないだろうか?




