10話: 気分屋
ほんまにスローライフはどこにあるんですか?完全に主観だけど前の世界よりずっと危ない目に遭っている気がするんですが。
直後、ここにいる難民も含めて、本部にいた人間が例の狭い部屋にミチミチに招集された。自警団と思しき人間はヴァーチュオ含めてパット見8人程度、その内2人はもう片腕が無いように見える。怪我人が多いってマジやんけ…怖え。鳥肌立ってきた。難民も私以外にも4人は居るように見える。例の暴力女はいない。もうそろそろ許してやれよ、と思ってしまうが、かといって殴られるのも勘弁である。そうだな、意外と難民も多いのか。俺も含めて計6人かな?どんだけこの周りの治安安定してないんだよ。特段デカい村でもなかろうに。そんでこの建物にこんだけの人それぞれの個室があるってことが?住むには狭いにしても難民一人に与えるにしては割と広い場所だよね。そんなスペースが確保できるほどのデカい建物には見えなかったけどな…初めて知ったよ。あ、なんかなろう小説っぽい語り口になってる気がする。そう思うのは俺だけ?
ルーカスは話を始めた。
「落ち着いて聞いてくれ。そしてこれは外部に漏らさないでくれ。」
じゃあ叫ぶなや。多分あの音量で言ったら2件先までバレバレやと思うで。そして難民わざわざ集めてそこそこの機密情報喋るのアホやろ。そんな管理だから税金満足に割り当ててもらえないんじゃん?関係ないか?
「本日午前5時頃、ヒドロ・アローズ国王陛下が71歳で崩御された。スネル村近辺の市民には本日12時頃に民間の新聞社を通じて公表する予定だ。」
「それに伴い周辺地域で暴動が起こる可能性があるため、防衛にいる人間は最低人数のみ残して数日間攻撃課の応援に行ってもらう。」
まあそうなるよねー…ってまて、ほぼ全員内側に持っていくのだとしたら自警団の人少なすぎん?これもしかして重役だけが会議出てる感じ?柱〇会議みたいなもん?おおっと危ない、英知が集う会社に怒られてしまうよ。ちょっと攻めすぎ。
「こういうわけなんで、しばらくの間ここの本部は開けさせてもらう。難民の皆さんには申し訳ないけど、食事とかはちゃんと出すからそこは安心して。話したいのはこれぐらい。」
まあまあ、こればっかしは大変なこった。けど俺はまだルーカスにはちゃんと意向は伝えてないし、いくら人が足りないにしてもそんなすぐに招集されるわけはないやろ…
「あーでも…ニコラ、お前は残れ。話がある。」
分かりやすいフラグ回収だなおい!
他のものがそそくさとはけたあと、あんなに人を詰め込むキャパシティのある部屋には、贅沢にもルーカスと俺だけが使っていた。
「お前さ、自警団やりたいって言ってたよな?悪いけど初仕事だ。」
そんなこったろうと思った。大変なのは分かるが俺は今はやりたくないね。
「ちょっと待ってください。研修とかないんですか?」
「…こういう事言うのもあんま好きじゃないんだが…そんな事やってる場合でもなさそうなのはわかるじゃろ…」
うお…そういう感じで泣き落としに入るのね。わかったわかった。じゃあなおさら抗ってやるよ。泣き落としでどうにかなるなら警察いらねぇ…いや自警団いらねぇんだよ。なんならそれ自警団がやっちゃダメでしょうが。
「俺はまだちゃんと職務の説明を受けてませんし、正直なことを言うとまだ覚悟が決まっていません。今突然行けって言われても無理があります。」
こんな簡単に翻していいのか?いや…うーん…
「…ったくよ…あのさ、話はヴァーチュオから聞いてるんだわ。攻撃か防衛かどっちがいいかという具体的な相談があったってさ。てかそもそもさ、自警団やりたいって言い出した時点でいつでも行けるようにしておけよ。周り見てみろよ。覚悟がないってのは言い訳にならん。」
出た、周り見てみろとか頭使えとかそういう類いの説教。毎回何を言われてるのか全く分からなくて嫌いなんだよね。少し頭にきたわ。
「そんなの言いがかりですよルーカスさん。俺だって難民で、まだこの国に来て数日も経っていない。新しい環境に慣れるのが精一杯で…」
「じゃあなんで自警団行くとか言い出した?憧れだけじゃ務まらないんだぜ?言ったからにはやってもらう。なんかおかしいこと言ってるか?」
「おかしいですよ。ついてこいと言われてもなにすれば良いのか説明されてないですもん。」
「お前ホントうぜーな。いいか?危ないことしてるヤツらがいたら殺さない程度に殴って手錠嵌めて、この辺に移送する。わかったか?」
マジでこの人…デリカシーとかないのか?
「口頭で言われても…」
というとルーカスはとうとう俺の猛攻に耐えられなくなったようで、声を荒げてこうはなった。
「うるせえんだよこのとんちき!やる気があるなら俺について来い!ないならそこにいろ!そして辞めちまえ!」
ええ。そこまで言わなくていいじゃん。いいよ、こっちも辞めてやってもいいぞ?この貴重なピチピチの若者を逃していいのか?
「やる気ないのに自警団やるとか二度と言うなよ!こっちは税金で動いてんだから!」
…じゃあ雇用関係しっかりしなさいよ。
そう言って彼は裏口のドアを乱暴に閉め、外へ出ていった。どうしよう、怒らせちまったな。面倒くせぇな…こんままだと中の雰囲気悪くなるし、さすがに頭下げとかないと…あーでも顔見るだけで怒られそうでめんどくせえ。そもそもなんだよ半分根性論みたいな理論に持っていきやがって。それで何とかなるのは昭和までだ。これだからバカの相手は嫌いなの。やんなきゃいけないことはわかるがその腰が重い。面倒臭い…怒られたくない…もうバックれちまうか。やめだやめだ。そこまでして自分が自警団にこだわるわけはなんだ。所詮デカ乳に飼われたいだけじゃないか。何が誰かのためになる仕事だよ。そんなこと言ったらお前がバカにしてる仕事だってなんもしていない奴らよりずっと経済回してるんだよ。わざわざこんな理不尽な職場選ばなくてもええやん。
イライラする。本当にイライラする。逆に何をしろっていうんだよ。誰がヤバいやつなのか判断できない可能性もあるのに家を殴り回れってことか。アホだろ。それもうどっちが自警団かわかんねーだろ。腹立たしい...やけんサボろうと思って言ったわけやないよ。やる気ないとは一言も言ってないし。そんな唐突に言われても無理。それだけの話。わかってもらえるかな。いやあ、ここまでついてきてもらっている読者なら、きっとわかってもらえるはずだ。俺被害者やろ?そう思わん?え思わない?なんで?
まいったなあ。どう動いても不正解な気がしてきた。手伝いに行ったら行ったで『でしゃばった真似をするんじゃねえ』と怒られそうだし、出ないなら出ないで『お前の覚悟はその程度なんだな』と言われる未来が見える。どっちにしろ出ようとした努力は見せないと。流石に話にならない気がする。そうやってルーカスがやってきたみたいに泣き落としの先方に走れば良い。どれだけ姑息な技なのか思い知らせてやるよ。
とはいえさ、同じ手法でやり返すのは低レベルな醜い争いだよ。思い知らせてやるって堂々というのはいいけどやり返すってあんまり知的な行動ではないぞ?ただでさえない俺のメンツがさらに潰れちまう。やったらあかんべ。けど大人しく従うのもどっか屈辱なんだよな。わけわかんね理論で怒鳴ってきてやめちまえとか言うやつにだよ。もうなんなら脱走してもいい。恥なんか色んな世界で散々かいたんだ。何も感じねえよ。白痴だと言われようといい。論理も何も破綻しているこの自警団とやらに身を置くことのどこが安寧だ。かねて親から逃げ出したように、己から動かなければ何も手に入らないのだよ。さあ動けニコラ、立ち上がれニコ...
「さっきから何ぶつぶつ言ってるんだよ…」
え。なんか坊主の背が高い男が立ってる。怖い。誰だお前。タンクトップみたいな布に半ズボン。ど田舎の若造かよ。けど顔は西洋の人のそれを感じる。どっちにしろ服装が現代的すぎな。
「あなたー…誰ですか?」
「誰かって?ピューター・クロール・アームストロングだよ。てかお前さっき怒られてたやつやろ。行くなら行けよ。」
なんで聞いてるんだよ、気持ち悪いな。本当に恥ずかしいわい。そして名前に聞き覚えがある。少なくとも絶対に略すと個人名になることだけは想像がついてしまう。ああもう腹立たしい、フラストレーションをちょっとばかし此奴にぶつけてやろう。
「んだよ、言われなくてもやっとるわい。」
「お?強がりか?いいねえ〜。」
本当になんだこいつ。クソガキかよ。こんなやつに顔尾を赤くする自分の気の短さが恥ずかしい。このやろう、俺の逆転人生に水を注そうだなんて、生きては返さぬぞ。
例の野郎は続ける。
「さっきでてったやつ鍵置いて言ってたぞ、返しに行ってやれよ。そんじゃあね〜」
ああくそ、待ちやがれ!こいつを部屋に戻したくはねえ。だがそう思った頃にはもう姿が消えてやがる。俺の人生いっつもこうだよ!やられるだけやられてそのまんま!
でもまって、さっきの田舎もんなんて言ってた?鍵を置いていってる?探してみるか。あの机の上?あった。本当に鍵置いてってるじゃん。奴以外に他の難民は出てくる気配ないし、これを持って合流してこいって話なんだろうな。合ってるよな?いやこれでこもってろって話じゃなさそう…だよな?部屋にいたのは俺とカスだけ。うーーーん、やめちまえとか強いこと言う割に残ってほしいんじゃねーか。ほんと素直じゃないな、気持ちわりい。
あーもう、俺はこう言う手段に出られると本当に弱い。しょうがねえな、行ってやるよ。ここ数十分の出来事全部に腹立つけど、どっちにしろ今大変なんだろうし。もうちゃんと動いてやることが俺なりのやり返しってことで納得しよう。こういう言い訳がましい論理は本当は大嫌いなんだけどな!
どこに合流したらいいのかわからないが、外に出ないと何も始まらないので、鍵を持って裏口から出ることにした。服は相変わらずのボロ切れ。そろそろ匂いが怖い。そんでドアを開けると、ずっと待ち構えていたであろう人がいた。ルーカスでは確実にない。なんだ?関係者ではなさそう?それならなぜ此奴は裏口を知っている?
「すいませんー、モロハ新聞ですー。ちょっとお聞きしたいことがございましてー。」
うーわ、マスゴミどもか。ルーカスにスキャンダルでもあるのか?ありそうだもんな。不倫の一つや二つぐらいやってそう。いやまずあの性格だと結婚できなそう…いいや、ああいうやつに限って伴侶も一人や二人…二人いたらダメだろ。今は関係ないんだ。そんなことをしている場合ではない。ルーカスにそれなりのものを見せなあかんのだよ。
「お答えできません。」
「いやちょっとお時間いただいても…」
「俺はただの『団員』でしかありませんので!お答えできません!」
そう言って俺は、久々に足を素早く回す。この世界に放り出された日のことを思い出す。
「ああ、ちょっと!」
悪いな!今は緊急事態なんだよ!
腐るほどあった創作意欲が最近消沈気味でございます。梅雨の微かな晴れ間、風情はありますが私にとっては天敵です。




