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虚界少女  作者: sara
復生の影
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真相

  天城由美は病棟の巡回を終え、少し疲れた体を引きずりながらゆっくりと事務室へ向かった。彼女がそっとドアを開けると、すぐに歌月が自分のデスクチェアに静かに座っているのが目に入った。


  歌月は手に栄養食を持っていた。「由美、巡回終わったでしょ?ずっと忙しかったからきっとお腹空いてるよね。ちょっと食べ物持って来たよ。」


  天城由美は栄養食を受け取りながら言った。「ありがとう、歌月。いつも本当に気遣ってくれて。」


  「由美、今日は珍しく二人とも暇だし、近くのショッピングモールでも行かない?リラックスしようよ。」と三森歌月は提案した。


  天城由美は一瞬戸惑い、少し困ったように言った。「歌月、私……実はちょっと迷ってるんだ。最近病院の仕事が結構多くて、それに……」


  歌月は由美が迷うことを予想していたようで、慰めるように言った。「心配しないでよ。さっき詩花に会いに行ったんだけど、彼女はすごく元気だったわ。もしかして詩花のことが気になって、外に出るのが気が進まないんじゃない?」


  「実は詩花だけじゃなくて、最近仕事のプレッシャーが本当に大きくて、毎日片付かない仕事ばかりで、もう息苦しいくらいなんだ。詩花の状態が良くても、やっぱり仕事のことが頭から離れなくて、モールに行っても楽しめそうにないよ。」


  「聞いたよ、由美。東郷天美の手術のことで緊張して不安になってるんでしょ?でも、それだけ仕事のストレスが大きいからこそ、リラックスが必要なんじゃないかな。ずっと張りつめたままじゃ体も持たないし、仕事の効率にも影響が出るかもしれない。たまには自分に休憩を与えて、調子を整えた方が、その後の仕事ももっとはかどるはずだよ。新しくできたモールには面白いものもたくさんあるかもしれないし、仕事の悩みを一時的に忘れられるかもしれないよ。」


  天城由美は眉をひそめ、少し悩ましげに言った。「確かにそう言われると分かってるけど、仕事でまだ終わってないタスクがたくさんあると思うと、どうしても落ち着かないのよね。」


  「あなたって、普段から働きすぎだから体が持たないのよ。仕事はメリハリが大事だし、自分の体をちゃんとケアするって約束したでしょ?ずっと張りつめた弦は切れやすいし、人間だって同じ理屈だわ。モールに行って気分転換すれば、もしかしたら仕事の難題を解決するヒントが見つかるかもしれないじゃない?」


  天城由美はさらにしばらく考えた後、「分かった、じゃああなたの言う通り、リラックスしに行くよ。この機会に少しストレスを解消できたらいいな。」と言った。


  天城由美は三森歌月に見守られながら、目の前に用意された丁寧な栄養食を一口ずつ食べ終えた。食事が終わると、三森歌月は天城由美を連れて、少し狭いその事務室を出ようとした。


  ちょうど二人が事務室のドアを出ようとした瞬間、天城由美が突然言った。


  「ちょっと待って!」


  「どうしたの、由美?」と三森歌月が尋ねた。


  天城由美はまるで習慣的な儀式をするかのように、ポケットから鍵を取り出し、振り返って事務室のドアに鍵をかけ、すべてが安全であることを確認した。


  「安全対策はしっかりしないとね。」


  「あなたって、いつも仕事に対して慎重だよね、由美。」と三森歌月は笑った。


  「仕事だからね。さあ、行こう。」


  二人の姿が廊下の先に消えてしばらくすると、緒方花音が急いで事務室の前に到着した。彼女はまず優しくドアをノックし、中から返事が来るのを期待したが、待っていたのはただの静けさだけだった。


  続いて彼女は無意識にドアノブを回してみたが、すでにしっかりと鍵がかかっていて開かないことに気づいた。「天城先生はもう外出されたのかしら?」と緒方花音は内心推測した。


  病院には厳格なルールがあり、医師が不在の際には万が一に備えて必ずドアに鍵をかけることになっている。


  緒方花音はその場に立ち尽くし、頭の中で関連する記憶の断片を探そうとした。やがて彼女の思考は徐々に鮮明になり、かつて天城先生と一緒にあのマンションに行ったことをぼんやりと思い出した。


  天城先生を取り巻く環境は非常に特殊で、常にさまざまな危険が潜んでいるため、緒方花音は思わず不安を感じた。


  「どうやら今は自分で頑張るしかないみたいね。とにかく、あのマンションにもう一度行くしかないわ。」


  彼女の曖昧な記憶の中では、あのマンションの近くで黒いレザージャケットを着た少女に出会ったような気がする。その少女は重要な場面で彼女を助けてくれたのだ。もしかしたら、この謎めいた少女が失踪事件に関する何か手がかりを持っているかもしれない。


  三森歌月と天城由美は一緒に近くの賑やかなショッピングモールへ行くことにした。モールの中は人で溢れ、さまざまな店が並んでいた。歩いているうちに、三森歌月が突然目を輝かせて、遠くで光るゲームセンターの看板を指差した。「由美、ゲームセンターに行こうよ。きっと楽しいと思うよ。」


  天城由美は彼女の指差す方向を見ると、ゲームセンターの中には若々しい若者や学生たちがいっぱいいた。


  「私たちもうこんな年齢なのに、行くのはちょっと違うんじゃない?」と天城由美は少し照れくさそうに言った。


  三森歌月は天城由美の迷いに気づき、笑いながら言った。「大学時代、私もよくゲームセンターに通ってたわ。当時は友達とここで思いっきり遊んで、楽しくて活気に満ちていたの。今回は青春時代を思い出すつもりで、もしかしたらあの頃の無邪気な気持ちを取り戻せるかもしれないわよ。」


  天城由美は三森歌月の言葉を聞きながら、自分の青春時代の姿を思い浮かべ、少し迷った末にようやく頷いた。


  ゲームセンターに入ると、色とりどりのライトと楽しげな音楽、そして次々と鳴り響くゲームの効果音が二人を包み込んだ。二人はいくつかのゲームをプレイした。緊張感あふれるレーシングゲームから反射神経を試すシューティングゲームまで、最初は少し戸惑っていた天城由美も次第に夢中になり、笑い声もどんどん増えていった。


  三森歌月は隣に大きなプリクラマシンを見つけた。彼女は天城由美の腕を引っ張って言った。「由美、記念にプリクラ撮ろうよ。今日の楽しい瞬間を残そう。」


  「昔もたくさんプリクラ撮ったよね。でも卒業後、どこに置いたか全然覚えてないわ。」


  「あなたがいつも部屋を整理しないから、どこに置いたか分からないのよ。」と三森歌月は突っ込みを入れた。「ちょうどいい機会だからまた一枚撮ろう。今度はちゃんと保管してね。」


  天城由美は笑って頷いた。二人はマシンの前に立って、いろいろとおかしくて可愛らしいポーズを取った。カメラのシャッター音が鳴ると、次々と楽しさあふれる写真が記録されていった。


  写真が印刷されると、三森歌月は一枚を丁寧に選び、天城由美に渡しながら言った。「由美、この写真はあなたにあげる。私たちの友情の記念に。これからもこんな楽しい時間がもっとたくさんありますように。」


  天城由美は驚きながら写真を受け取り、二人の明るい笑顔が写ったその写真を見て、思わず笑ってしまった。


  「もちろん、ちゃんと保存するよ。」


  不吉な雰囲気が漂うあのマンションの前では、空気が異様に静まり返っていた。緒方花音は一人でその静けさの中に立ち、あの少女がどこにいるのか、助けられた少女の痕跡を探そうと周辺を入念に調べていた。


  突然、彼女の視線は街角の自動販売機のそばに立つ一人の姿に釘付けになった。


  そうだ、あの子だ!


  黒いジャケットと短いジーンズを履いた少女は、今まさに彼女の方を背にして、退屈そうに自動販売機の前に立ち、コーラを買おうとしているところだった。しばらくすると、機械から「カチャン」という音が響き、少女は腰をかがめて商品出口から飲み物を取り出そうとした。


  緒方花音はほとんど小走りで駆け寄り、大きく足を踏み出して相手の肩を強く叩いた。


  「きゃっ!」


  とても可愛らしい女の子の声が、黒い服の少女の口から漏れた。彼女はかなり驚いたようで、手が震えて、ついさっき手にしたばかりのコーラの缶が「バタッ」と地面に落ちてしまった。


  少女は怒ったような顔で振り返り、文句を言おうとしたが、後ろに呆然と立つ緒方花音の姿を見て、言葉を失った。


  「びっくりさせちゃった?」と緒方花音が尋ねた。


  「あなただったの?」と少女は苛立たしげに言った。


  「やっぱり私を知ってるの?」と緒方花音は即座に彼女の言葉の矛盾を突いた。


  黒い服の少女は自分がうっかり口を滑らせたことに気づき、内心舌打ちをした。すぐに関係を否定しようと試みた。「知らないわよ、あなた誰?」と彼女は言った。


  「そんなふりしないでよ。」と緒方花音は諦めずに問い詰めた。「明らかに私を知ってるじゃない!あのマンションから助けてくれたでしょ?」


  「知らないって言ってるでしょ!」と少女は頑なに否定し、地面に落ちた壊れたコーラの缶を拾い上げた。冷たい液体がプツプツと泡を立てながら、プルトップの隙間から流れ出している。


  少女は怒りがこみ上げてきて、空の缶を力いっぱい握りつぶし、緒方花音を睨みつけた。「あなたって人!何してくれたか分かってるの?」


  緒方花音は自分が悪いと分かっていたので、慌てて謝った。「あ、ごめんなさい。もしコーラが欲しいなら、私がおごるよ。」


  「誰がおごってもらうかって言ってるでしょ!早くどっか行ってよ!」と少女はこの厄介な相手から一刻も早く逃げたい一心だった。


  しかし、緒方花音の注意は別のことに引かれてしまった。彼女はふと先ほどの声を思い出し、首を傾げて興味深そうに尋ねた。「そういえば、さっき近くに女の子がいたよね?すごく可愛い声を出してたみたいだけど。」


  少女の体は少し強張った。「彼女、聞こえたのかな?」


  緒方花音は彼女の異変に気づかず、むしろ一種の幻想に浸っていた。「こんな可愛い声を出す子って、きっと優しいんだろうな。どこにいるか分かる?探してくれる?」と彼女は言った。


  「おい!」と少女の額に青筋が浮かび、低い声で警告した。「ここは危ないから、あなたが誰だろうと、早く立ち去った方がいいよ。」


  「やっぱり何か知ってるんでしょ!」と緒方花音の直感は相手が重要な情報を隠していると告げていた。「そうでなければ、なんでここが危ないなんて言うわけがないでしょ?」


  少女は一瞬言葉に詰まった。この一見おっちょこちょいに見える看護師がここまでしつこいとは思わなかった。もちろん真相は知っているが、怪物のこと、虚界のこと、自分の改ざんされた記憶のことを全部話しても、あの神秘的で強大な力が瞬時にまた彼女の記憶を書き換えてしまうだろう。すべてが無駄になることは明白だ。


  彼女はきっとまた、隠された真相を探そうとするだろう。


  「一体何がしたいの?」と少女は説明を諦め、不機嫌そうに尋ねた。


  「あのマンションの8階に行きたいの。」と緒方花音は毅然とした口調で言った。「以前そこに何かあったような気がするの。きっと答えがあるはずだから、探しに行きたいの。」


  「それなら一人で行けばいいじゃない。」と少女は両手を広げた。


  「それはダメよ。」と緒方花音は少女のジャケットの袖をつかんだ。「あなたが付き添ってくれないと。」


  「は?何でこの面倒な女に付き合わなきゃいけないのよ?」


  「別に付き合わなくてもいいけど。」と緒方花音は突然妙案を思いつき、咳払いをして口元に手を当ててホラのような形を作った。「じゃあここで可愛い女の子を探して遊んでるわよ。」


  「ちょっと!あなた……」と緒方花音が叫んだ瞬間、彼女の口を覆う手が現れた。


  「ぐあっ!」


  「もういい加減にしなさい!」と少女は素早く彼女の口を押さえつけた。あの「きゃっ」という黒歴史を誰にも聞かれたくなかったのだ。


  「付き合うから、もういいでしょう!本当に面倒くさい!」と少女は吐き捨てた。


  「良かった!」と緒方花音は勝利の笑みを浮かべた。「私は緒方花音よ。あなたのお名前は?」


  「春谷時雨。」と少女は渋々自分の名前を告げた。



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