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虚界少女  作者: sara
虚界呼唤
27/70

贈り物

  お昼頃、陽光がちょうど良い具合に差し込んでいた。


  宮野鞠子は会社近くで軽くランチを済ませると、午後の国語の興味教室に参加するため、通う女子高校の校門へと向かった。キャンパスの正門入口では、いつも彼女に優しく気遣ってくれる保健室の先生、三原楓さんに再び出会った。


  「こんにちは、宮野さん。」と、鞠子を見つけると、三原楓さんはさっと微笑みながら声をかけてくれた。


  「こんにちは、三原先生。」


  「体調はもう大丈夫なの?」と、三原楓さんは鞠子をじっくりと観察するような、心配そうでありながらもどこか鋭い視線を向けた。


  「ええ、本当に大丈夫です!先生のご心配、ありがとうございます。」と、鞠子は笑顔で答えた。


  「実は先日、同じ日に二度も私のところへ来てくれたんでしょ?」と、三原楓さんは冗談交じりに話しながら、しかしすぐに真剣な口調に戻って尋ねた。「今回はちゃんと本当のことを教えてね。本当に問題ないの?」


  「もう大丈夫ですよ、本当に完璧に治りましたから。」と、鞠子は笑顔でさらに誠実そうな表情を心がけながら言った。


  「それは良かった。」と、三原楓さんは小さく頷くと、今度は彼女の額のあたりに目を移した。「それに、頭のあの傷も完全に癒えたでしょう?まだめまいや不快感はない?」


  「もうすっかり治りましたよ。お気遣い、本当にありがとうございます。」と、鞠子は思わず、かつて奇妙な角が生えていた場所を触ってしまった。だが今はその角が生えたことなど、すっかり忘れてしまっていた。そこは今、元通り滑らかで、ほんのわずかな薄い傷跡だけが残っているだけだった。


  三原先生との別れを告げ、鞠子は久しぶりに訪れるキャンパスへと足を踏み入れた。教学棟に向かう途中、彼女はメインストリートの掲示板の周りに大勢の学生たちが集まり、何かを指差して小声で議論しているのを見つけた。少し好奇心が湧いた鞠子も、その輪の中に混ざり込んだ。


  すると、掲示板には鮮やかな赤い印鑑が押された処分通知が何枚も貼られていた。


  鞠子は一目でそれらの名前を認識した。まさに先日カフェで美空を侮辱し、挙げ句の果てには自分を殴って怪我を負わせた、あの三人の不良少女たちだったのだ。通知には白紙に黒々と文字が並び、彼女たちが校外で他人を故意に傷つけたとして、重大な懲戒記録と留校察看という厳しい処分を受けたことが明記されていた。


  「聞いた話によると、この三人の生徒はすでに数日間連続で欠席しているらしいわ。」


  「あのケガをさせた女の子はもう退学したみたい。両親が彼女をアメリカに留学させる準備をしているんだって。」


  掲示板を取り囲む女子生徒たちがそんな噂話をひそひそと交わす中、鞠子は処分通知を見つめながら、胸の奥にずっしりと爽快な気持ちが込み上げてくるのを感じた。自分の記憶は少しぼやけているものの、美空のために立ち上がった時の怒りや、自分が傷つけられた時の悔しさは、今でも鮮明に蘇ってくるようだった。そして今、ようやく彼女たちにも相応の罰が下されたのだ——。この処分通知が、行方不明になっている美空に少しでも安らぎを届けてくれることを、鞠子は心から願ったのだった。


  「今、彼女たちって全校で有名になっちゃったんだよね。」


  そばから、少し茶化したような声が聞こえてきた。鞠子がそちらに目を向けると、茶色のロングヘアに紫の瞳を持つ、原田瞳の姿があった。あの日、カフェで知り合った友人でもあり、一緒に遅刻して教室に忍び込んだ仲間でもある。


  「やあ、宮野さん。」原田瞳は鞠子を見つけると、堂々と挨拶をした。


  「こんにちは、原田さん。」鞠子も笑顔で返す。


  「意外と早く退院できたんだね。茉莉ちゃんが届けてくれた最新刊のライトノベル、結局役に立たなかったみたいだよ。」原田瞳はちょっと残念そうに言った。


  そう、あの日病院でメイドさんが口にしていた「クロティア様」こそ、本当に原田瞳だったのだ。鞠子の胸には温かな気持ちが広がった。人とのつながりが希薄になりがちな都会の中で、こんなふうに誰かに気にかけてもらえるのは、とても贅沢な幸せだと感じられたからだ。それに、鞠子と原田瞳が知り合ったのはまだそれほど長くなく、出会ったのはほんの二度だけだった。


  「別に大したことないの。ただ軽い貧血気味だったから、すぐに治っちゃったんだ。」鞠子は穏やかに微笑んだ。


  授業開始のチャイムが鳴り響き、原田瞳は鞠子に手を振って別れを告げた。「宮野さん、じゃあまたね。私は別の建物にある経済学の授業に出なきゃいけないから。あなたもすぐ授業が始まるんでしょ?また後で会おう。」


  「うん、また後でね。」鞠子も答えた。


  そして、鞠子は趣味講座が開催される洋風建築へと向かった。歴史を感じさせる趣のある古い講堂で、すでに多くの学生が集まっていた。鞠子は周囲を見渡し、窓際の一列が空いていることに気づいて、そっとその席へと歩み寄り、腰を下ろした。


  その隣の席を見つめた瞬間、鞠子の心は突然締めつけられるように苦しくなった。それは、美空と最後に一緒に授業を受けたとき、二人で並んで座っていた場所だったからだ。あのとき、美空は満面の笑みを浮かべながら、本を抱えて鞠子の隣に座り、優しく声をかけてくれた。そして、竹内先生に突然指名されて戸惑っている自分に、そっと正しい答えを教えてくれて、それを繰り返すことで窮地を救ってくれたのも、まさにこの席だった。


  ところが、その授業が終わると、美空は完全に鞠子の人生から消え去ってしまったのだ。


  鞠子は隣の、今は空っぽになった席を見つめ、じわりと目に涙が滲んできた。目を閉じれば、きっと美空がそこに座り、優しく微笑んでいる光景が蘇る気がしたからだ。


  そんなとき、突然誰かが隣に座った。ぼんやりとしたまま、思わずそちらを振り向くと、さらりと腰まで伸びた髪が印象的な少女が、鞠子の隣に静かに腰を下ろしていた。その仕草や表情は、どこか記憶の中の美空と重なるようで、一瞬、大切な友人が戻ってきたのかと思ってしまった。


  しかし、座ったのは実は親友ではなく、冷たい雰囲気を漂わせる一人の少女だった。彼女は鞠子の隣に落ち着くと、自分の長い髪をそっと整え、なだめるように撫でた。


  バッグを置いた少女が横を向き、鞠子の方を向いたとき、ようやく彼女が蕭珊雅であることに気づいた。


  「こんにちは、蕭珊雅さん。」我に返った鞠子は、小さく挨拶をした。


  「こんにちは。」蕭珊雅も軽く頷き、返事をする。


  「頭の方はもう大丈夫?また病院で診察を受ける必要はない?」蕭珊雅が自発的に尋ねてきた。その口調は少し冷淡だったが、どうやら彼女も少しずつ他人への気遣い方を学んでいるようだった。


  まさか自分が気にかけてもらえるとは思っていなかった鞠子は、少し驚きながら答えた。「もう完璧に治りました。心配してくれてありがとう。医師によると、単なる軽い貧血で、あとは十分な休養を取れば大丈夫だそうです。」彼女の優しさに感謝の気持ちを伝えると、同時に、以前の授業で蕭珊雅が突然息切れを起こしていたことも思い出した。


  「あなたの体調はどうなの?あのとき、すごく苦しそうだったから……」鞠子もまた、心配そうに問いかけた。


  「大丈夫。」蕭珊雅は一瞬、視線を揺らしたが、すぐに淡々とした口調に戻った。「昔からの持病の気胸くらい、特に問題ないさ。」


  彼女は決して、自分が深刻な喘息を抱えており、いつ命に関わる危険があるか分からないという事実を、他人には知られたくなかったのだ。それは、彼女にとって、決して外に明かしたくない秘密だった。


  話しているうちに、竹内先生が教案を手に講堂に入り、今日の趣味授業を始められた。鞠子と蕭珊雅はそれ以上会話を交わさず、一緒にノートを開き、真剣にメモを取り始めた。古びた窓から差し込む陽光が、静かに座る二人の少女たちに降り注ぎ、まるで一幅の穏やかで美しい絵画のように映えた。


  授業が終わると、鞠子はすぐに帰ろうとはせず、一人で学校の裏門の前へと向かった。あの日、ここで彼女は美空が落としてしまった壊れた腕時計を拾ったことを思い出していた。ふと顔を上げ、夕日に照らされ金色に染まる空の彼方を見つめながら、心の中で再びこうつぶやいた。


  「美空、きっとどこかで生きているよね。」彼女の胸の中では、今もそう信じ続けていた。


  午後、学校での用事を済ませた鞠子は、新鮮な果物をひと袋手に、妹の優子を訪ねて病院へ向かった。


  小さな病室のドアを開けると、そこにはすでに見覚えのある姿があった。遠山凛が優子のベッドサイドに腰掛け、二人して体を寄り添わせ、最新号の『怪盗少女クロエ』について熱心に話し合っているところだった。


  そんな和やかな光景を目にした鞠子は、思わずほっとした笑みを浮かべた。


  「こんにちは、遠山さん。今日も優子ちゃんのお相手に来てくれたの?」と、彼女は中へ声をかけた。


  その声に反応して、遠山凛はすぐに顔を上げ、鞠子を見て嬉しそうに立ち上がると、「こんにちは、宮野さん!今日こそあなたが来るって分かってたから、待ってたんだよ!」と元気よく挨拶した。


  「まさか、遠山さんがわざわざここで私を待っていたなんて……?」と、鞠子は内心驚いた。なぜ遠山凛が自分を特別に待っていたのか、彼女にはまったく理解できなかった。


  遠山凛はそう言うと、自分のリュックから丁寧に仕立てられた、中には金色の流砂が入った小さな砂時計を取り出し、鞠子に差し出した。「この小さな砂時計、君にあげるね」と、彼女はにっこりと微笑んだ。


  「え?どうして私にくれるの?」と、鞠子は少々戸惑いながらも、思わず受け取ってしまった。


  「それはね、私たちが仲良くなった記念に。」遠山凛の笑顔は、まるで太陽のような明るく輝いていたが、同時にどこかぎこちないものでもあった。彼女自身、それが嘘だということも分かっていたからだ。


  しかし、鞠子はその美しい砂時計を、陽光に反射してキラキラと輝く様子をじっと見つめながら、少し迷っていた。自分は遠山凛のために何かしたわけでもないのに、こんなに高価なプレゼントを受け取るのは気が引けると思っていたのだ。


  でも、隣にいた優子は、その美しい砂時計をまっすぐ見つめ、姉がなかなか受け取らないのを見て、「じゃあ、お姉ちゃんがいらないなら、私にちょうだい!ちょうど私の小さな楽園を飾るのにぴったりだから!」と、ニコリと笑った。


  優子は自分の病床脇にある小さなキャビネットに目をやり、そこに並べられた可愛らしいおもちゃたちを指さした。彼女は、その上にこの新しい砂時計を置きたいと思っていた。


  その言葉が、まるで鞠子の心の奥底にある何かを突然突き動かしたようだった。彼女はほとんど無意識のうちに、すばやく遠山凛から砂時計を受け取り、強く握りしめた。


  「誰がもらわないなんて言ったの!遠山さん、これ、ぜったい私に渡して!」と、鞠子は急に焦ったように大声を上げた。


  「受け取ってくれたんだから、もう私たち、仲良しになったね!これからはあまり堅苦しくしなくていいから、直接『凛ちゃん』って呼んでくれたら嬉しいな!」


  「えー!」と優子はそれを聞いて、すぐにやきもちを焼いてしまった。彼女は不満そうに唇を尖らせ、遠山凛の服の端を引っ張りながら甘えた口調で言った。「凛姉ちゃん!どうしてお姉ちゃんにはプレゼントくれたのに、私にはくれないの?私は凛姉ちゃんの一番の大切な妹・優子じゃないの?」


  遠山凛はそんな可愛らしい姿に思わず笑ってしまい、優しく優子の頭を撫でてから言った。「わかった、わかった。じゃあ、優子ちゃんも欲しがってるなら、次回もっと素敵なやつを買ってあげるよ。それでいいかな?」


  「本当!?」と優子の表情は一気に曇りがちだったのが、ぱっと明るくなった。


  「本当だよ。」


  「じゃあ、指切りげんまんしよう!」と優子。どうやら彼女は、この指切りげんまんという儀式に特別な思い入れがあるようだ。それを見た遠山凛もまた、微笑みながら小指を差し出し、二人で改めてしっかりと指切りをした。その様子をじっと見つめていた鞠子も、ほっとしたような笑顔を浮かべていた。


  「凛ちゃんがこんなに貴重なプレゼントをくれたんだから、私もお返ししないとね」と、鞠子は遠山凛に話しかけた。


  「お返し?」と遠山凛は少し興味深そうに尋ねる。


  すると鞠子は、遠山凛の目の前に歩み寄り、真剣な眼差しで彼女を見つめながら、とても素直な口調で言った。「凛ちゃん、今日、うちに遊びに来てくれない?私がご飯作ってあげるから。それに、これからは『鞠子』って呼んでもいいよ。」


  それを聞いた遠山凛は、嬉しそうに頷いた。「うん、いいよ!本当に嬉しい!東京にいる友達の家に遊びに行くなんて、初めてなんだ。ずっと気になってたから、今からすごく楽しみだよ!」



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