探望
早朝、目覚まし時計の音がベッドサイドで定時に鳴り響いた。
蕭珊雅はゆっくりと目を開け、ベッド脇のナイトテーブルに手を伸ばしてスマホを取った。画面を指でなぞると、時刻はちょうど七時を示していた。
彼女はスマホを置き、寝返りを打って起き上がり、少し乱れた髪を整え、あくびをしてから薄い布団をはねのけてベッドを下りた。
ベッドサイドのナイトランプにとまっていたフクロウの守護獣は、蕭珊雅が起きたのを見て羽をばたつかせ、彼女の差し出した腕にすっと舞い降り、「クー」と優しく鳴いた。まるで昨夜は何も異常がなかったことを告げているようだった。
蕭珊雅はフクロウの守護獣の羽をそっと撫で、「お疲れさま。もう休んでいいよ」と小声で言った。するとフクロウは言葉が通じたかのように再び「クー」と鳴き、緑色の光球となって机の上に残された魔法陣の中に収まり、二度輝いて消えた。
蕭珊雅は長い髪をざっとまとめ、制服を取りにクローゼットへ向かった。寝室のドアを開けて廊下へ出ると、洗面所へ行き、鏡の前で首の後ろに貼った絆創膏を外した。首元を横目でじっくりと眺める。
昨日の血吸い蝙蝠が残した二つの浅い牙痕――就寝前に簡単な処置はしておいたが、今見ると出血はすでに止まっており、体にも他に異常はなく、あの蝙蝠が毒を持っていた可能性は低いようだ。
蕭珊雅は胸をなでおろし、再び絆創膏を貼って、洗顔や着替えなどの朝の支度を始めた。すべての準備を終えると、洗面所を出て、朝食の用意のために食堂へ向かった。
そのとき、ポケットの中でスマホがふたたび震えた。メッセージ欄を開くと、購読しているニュース系SNSアカウントからの速報が届いていた。
リビングのソファに腰を下ろし、通知の内容をざっと見る。「昨夜、東京都近郊でまた不可解な失踪事件が発生。自宅から奇妙な形で行方不明となり、現場には大量の血痕が残されていたが、遺体は発見されず。警察の初期調査では、最近相次ぐ失踪事件との関連が疑われており、現在捜査が進められている。今月だけで同様の事件は三件目だ」と書かれていた。
蕭珊雅はすぐに悟った。このニュースで報じられているのは、まさに昨日自分が遭遇した出来事だったのだ。
さらにコメント欄をスクロールしていくと、全体が緊張感に包まれていた。ある人は事件現場が自分の住まいの近くだと述べ、不安そうに「東京から離れてしばらく郊外に引っ越したい」と書き込んでいる。また、警察の捜査能力を疑問視する声もあり、今回の事件はこれまでの不可解な失踪事件とは明らかに異なる。現場に大量の血痕がある以上、失踪者はおそらく殺害されており、犯人は連続殺人犯である可能性が高い。警察が進展を見せなければ、都民は一日中不安と恐怖に怯えることになるだろう、と。
蕭珊雅はそれらのコメントを読みながら、小さくため息をついた。昨夜の当事者として、事件の真相は誰よりもよくわかっている。それは人間による犯行ではなく、真の犯人はあの不気味な狼型の生物だ。しかし今は、心中ではっきりと理解していても、それをネット上で口にするわけにはいかない。こんな話をしても誰も信じてくれないし、しかもこうした恐ろしい事件の真相を知ることを阻む、得体のしれない力が働いているようにも思える。
「やはり、自分で解決するしかないのか……」蕭珊雅はつぶやいた。
彼女はそのニュースを素早くスワイプして消し、スマホの画面上部にある「ダイナミックアイランド」に新たなニュースが表示された。見ると、次の記事のタイトルは「昨日、東京郊外の農場で野獣襲撃事件」とあった。
蕭珊雅は軽くタップして詳細を開く。記事によれば、ある農場で飼育されていた家畜が一夜にして全滅し、現場には多数の爪痕が残されていた。一部の家畜の死体には激しい裂傷が見られ、現場で一人が死亡、もう一人は地下室で発見されたが、酸欠状態で意識不明のまま病院に搬送され、幸い命に別条はないという。地元警察は捜査に乗り出し、大型の野生動物、おそらくヒグマによるものとみて調べている、とあった。
蕭珊雅は事故現場の写真を拡大してじっくり見た。不快感を避けるためか、写真はややぼかされているが、家畜の体に残る爪痕や牙痕の輪郭は、彼女の記憶の中のそれとまったく同じだった。意識不明だった少女こそきっと小禾であり、大事に至らずに済んだのだ。
そう思うと、蕭珊雅は少しだけ安心した。もし小禾が自分に出会っていなければ、あの怪物に見つからず、地下に閉じこもったまま、あの奇妙な狼型の怪物を目撃することもなかっただろう。つまり、彼女には目撃の記憶が残らず、警察が彼女から有用な情報を得ることもできないはずだ。
とはいえ、昨夜の夢の後半部分はまだ鮮明に覚えている。あの狼たちはいったいどこから現れたのか? 自分が聞いたあの声は何だったのか? 意識を失ったあと、一体どんな姿になっていたのか? 蕭珊雅は、これらの出来事が決して偶然ではないような気がしてならない。
考えれば考えるほど頭が混乱してきたので、彼女は少し膨れ上がったこめかみを揉み、スマホの画面を消した。壁掛け時計の針はちょうど七時半を指しており、彼女はひとまず簡単な朝食を作って、雑多な思いをひとまず脇へ置くことにした。
キッチンへ入り、冷蔵庫から卵一個と海苔のふりかけを取り出し、戸棚から即席ご飯の袋を一本出して小さな電気炊飯器に入れ、水を加えてタイマーをセットすると、ご飯が蒸し上がっていく。
ご飯が炊けるまでの間に、授業アプリを開いて今日の予定を確認した。今日は午後に選択科目の「ビジネス英語」が一コマだけあり、教室は三号館の202室、開始時刻は十三時きっかりだ。あのとき、この科目を選んだのは単位取得のためだけだったと記憶している。
「今日は凛が退院する日だよね」と蕭珊雅はふと思い出した。「怪我もだいぶ回復しているはずだし、迎えに行かなきゃ」
凛の退院予定は午前十一時。蕭珊雅は少し考えて、朝食を済ませてから病院へ行き、凛を迎え、その後学校へ向かうことに決めた。
そのとき、キッチンの炊飯器が「ピッ」と音を立て、ご飯が炊き上がった。蕭珊雅は戻ってご飯を茶碗に盛り、卵を割り入れ、海苔のふりかけを振りかけて、ささやかな海苔ふりかけご飯を完成させた。茶碗を持って食卓につき、温かいご飯と黄身を箸で混ぜ合わせ、大きな口で食べ始めた。
朝食を終えると、蕭珊雅は食器を洗って戸棚に戻し、キッチンも簡単に片付けた。時計を見ると八時を過ぎたところで、凛の退院までまだ三時間近くある。時間は十分に余裕がある。
彼女はそのままリビングへ戻り、目の前のテレビをつけた。天気予報が流れており、女性キャスターが「本日、東京地方は曇りのち晴れ。最高気温は二十二度ですが、午後からは春の寒波の影響で六〜七度程度まで下がります。皆さま、暖かくして風邪をお召しになりませんようご注意ください」と伝えていた。
この春の寒波は数日前に突然到来し、本来なら暖かくなるはずの季節が一気に冷え込んだ。急な気温変化に多くの東京都民が対応しきれず、風邪や発熱で病院を訪れる人も増えている。今も日本各地で猛威を振るっているようで、ニュースでも繰り返し気温変化への注意が呼びかけられている。
「日本の天気はますますおかしくなってきたな」と蕭珊雅は思った。
テレビでは予報が終わり、次の番組予告に切り替わった。放送中の時代劇だが、蕭珊雅にはあまり興味がない。リモコンを手に取り、音楽チャンネルに変えた。穏やかなピアノ曲が流れ、窓からの陽光と相まって、リビングの空気が一段と和らいだ。彼女はソファにもたれかかり、図書館で借りてきた『日本民俗学概論』を開いて読み始めた。
ほどなく時間が過ぎ、蕭珊雅はそろそろ出かける時間だと判断し、テレビを消した。凛を見舞いに行く準備をするため、寝室に戻って少し厚手のコートを取り出し、午後の気温低下に備えてバッグにしまった。
外出前にいつものように変装を行った。髪を二つに編んで胸の前へ垂らし、黒縁メガネをかけ、そばかすシールを貼って、普段はかなり目立つ雰囲気をほとんど隠した。
これで彼女は、月野兎美という名の大人しい普通の女子大生だ。鏡の前で身なりを確認し、特に問題がないと確かめてから、スマホの時刻をちらりと見た。十時三十分。これなら凛の退院時間にちょうど間に合う。
彼女の住まいは病院からそれほど遠くなく、歩いて約二十分だ。リュックを背負い、アパートを出て、通りを歩きながら病院へ向かった。
土曜日のせいで、いつもより歩いている人が多い。子どもを連れて散歩に出ている若い親たちや、三人、四人と連れだって買い物に出かける学生たちもいる。
蕭珊雅は黙って人混みの中を歩き、視線を避けながら低頭して進んだ。ほどなく病院の玄関に到着。立ち止まらずに受付へ向かい、面会手続きをしようとしたそのとき、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「あ、月野さん!」
蕭珊雅の体がわずかに強張った。それは凛の声だった。振り返ると、凛が少し離れたところに立ち、各種検査票を手に、驚いた表情でこちらを見ていた。
「月野さん、ここで会えるなんて」と遠山凛が足早に近づき、温かな笑みを浮かべて尋ねた。
蕭珊雅はリュックの肩ひもをぎゅっと握りしめ、慌てて落ち着いた声で答えた。「え…あの…私も、まさかここで会えるとは思わなくて」
「月野さんは体調が悪いんですか?」
「最近、天気が変わりすぎて、ちょっと風邪を引いてしまって。薬をもらいに来ました」
「そうですか。確かに最近、気温の変動が激しいですね。入院中も看護師さんたちが言っていました。風邪を引く人が本当に多いんですよ。月野さんも体調には気をつけてくださいね」
「はい、気をつけます」
「あ、そうだ!」遠山凛は何かを思い出したように、ポケットから札束を取り出した。「これは先日、百貨店で貸していただいたお金です。なかなか返せずにいました」
「え? あの……」蕭珊雅は意外だった。凛がずっと覚えていてくれたのだ。遠山凛は、時間が経ちすぎて忘れてしまったのかと思い、続けて言った。
「あのとき、月野さんが助けてくださったおかげで、友達にあげる限定版の漫画を買えました。本当に困っていましたから」
「ああ、あれのことですか」と蕭珊雅も話に乗った。「いえ、そんなにお礼を言われることではありません。ほんのちょっとのお手伝いでした」
「とにかく、これは受け取ってください。祖母も、人の恩義は無駄にしないようにと言っていますから」
「それじゃ……いただきます」と蕭珊雅は彼女が強く勧めるので、仕方なくお金を受け取り、さらに尋ねた。「そのお友達の具合はいかがですか?」
「もうずいぶん良くなってきました。医師も順調だとおっしゃっていましたし、もう少ししたら退院して経過観察に入れるそうです」
「それは良かったですね。一日も早く元気になってほしいです」と蕭珊雅は心から言った。
「それでは、月野さん、私は主治医の先生のところへ行って、検査結果を渡してきますね」
遠山凛はそう言うと、にっこり微笑み、廊下の方へ向き直って歩き出した。
「はい、それでは、また」
蕭珊雅は彼女に別れを告げ、遠山凛が完全に去るのを見届けてから、ようやく安堵のため息をついた。




