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捨てられた悪役はきっと幸せになる  作者: ariya
第三部

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15 悪竜の独白

 ヴィヴィアの赤い髪に触れながらギーベルは昔を思い出した。――


 私の方が先に彼女に出会っていた。

 私の活動領域に毒草を採りにくる妖精、四人の女神を姉に持ちながら女神になれずようやく目覚めた能力は毒を操る忌まわしいもの。

 毒の魔女と呼ばれていた。人々は彼女を遠ざけ嫌い、毒や病に苦しむと頼り都合のよいように利用する。


 私から隠れて毒草摘みをしている姿は全て見えていた。

 長く艶やかな赤い髪、緑の瞳、真っ白い肌に華奢な手足、全てが愛しかった。

 私が姿を現すと怯えて逃げる姿も可愛らしくてたまらない。

 この時はまだ眺めるだけで満足しようとした。


 だが、彼女は恋をした。

 王の賢者に。


 なぜだ。何故!

 私の方が先に君に出会ったのに。

 何故あんな半端な者に!


 私は彼女を追いかけた。彼女に私の話を、問いを聞かせたく。

 彼女は私から逃げた。必死に。


 何度も追い回していると、王の賢者が彼女を連れ出してしまった。私の目の前で。


 ああ、憎たらしい!

 私が先に彼女を愛していたのに。

 私から奪った。許せない。許せない。


 私は恨みを積もらせ、王の賢者と英雄たちを観察した。その中で丁度よい操りやすい駒がいた。


 聖女ルフェル。


 土の女神の加護を受けて、強い治癒魔術を扱える聖女。数々の戦場で英雄たちの援護をしてきた。戦いがない間は修道院で傷病者の治癒活動をしていた。


 彼女は王の賢者に想いを寄せていた。

 当然、毒の魔女の元へ通うエムリスを面白く感じていなかった。


「もう毒の魔女の元へ行くのはやめた方がいいわ。退治する必要がないと王が判じたならそれでおしまい。心配なら適当に見張りの兵士を派遣すればいいじゃない」


 森の道中、ルフェルはエムリスを呼び止めた。


「ルフェル、私は彼女のことが好きで通っているんだ」

「やめた方がいいわよ! あれは毒の魔女よ。人々の噂を聞いているでしょう?」

「聞いた上で、彼女に出会い、好きになったんだ。彼女は噂ほどの悪女じゃない」

「騙されているわよ」


 何度も呼び止めるルフェルにエムリスは深くため息をついた。


「君に彼女を理解してもらおうとは思わないよ。ただ私のことは放っておいてくれ」

「でも、私はあなたが心配で……私はあなたのことが……」

「悪いけど、私は君の想いに応える気はない」


 エムリスは静かに言い放った。今までの王と騎士たちの戦いで彼女の後方支援は心強かった。だが、仲間としてであり異性としての想いを応える気がない。


 エムリスからの拒絶に言葉を失ったルフェルは呆然と彼が去るのを見た。


 しばらくしてルフェルへその場を立ち去る。

 野花が咲く領域まで来て、ルフェルは一輪のすみれを摘んだ。萎れたすみれに治癒魔術を施すとすみれは綺麗に咲き始めた。


「くそっ!!」


 ルフェルが一喝すると、すみれは一瞬で黒ずみどろりと手から落ちていった。彼女の足元はすみれと同様に黒く変性していた。


「はは、聖女にしては邪悪な能力だな」


 ずっと遠くから眺めていた私はルフェルに声をかけた。

 どうやら聖女と呼ばれるだけの治癒魔術以外にも能力を持っている。それは、毒と呪い。

 世間からは魔女と呼ばれる忌み嫌われている能力だ。

 ルフェルは長らくそれを隠し続けていた。

 だが、負の感情が暴発するとこのように毒と呪いが発動するようだ。


「あ、……悪竜」


 ルフェルは私の姿を見て腰を抜かした。同時に焦った。自分が隠し続けていた能力を見られてしまうなど。


「聖女ルフェル、お前に知恵を授けてもいいぞ。そうすればあの王の賢者を手に入れられるかもしれんぞ」

「そんなこと」

「いいのか。あいつを毒の魔女に奪われるかもしれんぞ。お前の方が優れていているのに。お前なら優秀な魔術師を産むことができそうだというのに」


 金の瞳をみてルフェルはくらりと心が揺れた。


 ――思いの外、扱いやすい女だ。


 私は彼女にとびきりの呪いを授けた。


 表向きは王の賢者を眠らせてルフェルがその間に関係を持ち、子を成せばいいと誘導して。

 実際はあの忌まわしい王の賢者を消し炭にする呪いだ。体が炭になる苦痛を味わいながら死ぬと良い。


 しかし、予想外のことが起きた。

 ルフェルが私の呪いを無事エムリスに植え付けたが、すぐにリリアが駆けつけた。


「エムリス!」


 自分のしたことに腰を抜かしたルフェルの横をリリアが通り過ぎる。

 森の中、強い呪いの気配を感じて心配になりきたようだ。


「リリア、私は大丈夫だから少し距離を置いて」


 リリアが近づくのを恐れたエムリスは苦しみながらそれだけを言った。


「苦しいなら黙ってなさい!」


 リリアは怖気付かずにエムリスに近づいた。彼の体に触れて呪いを探る。自分の魔術でどうにかする方法を考えた。


「あなたに毒を送るわ。あなたなら眠る程度で済む毒を……それで呪いを包み込んで無力化するわ」


 リリアは笑い、時間をかけて魔術の構築を始めた。


 ――やめろ。リリア、やめるんだ!


 私はリリアを止めようとした。

 しかし、近づくことができない。悪竜の気配を感じたリリアは同時に結界を張った。自分の邪魔をされないために。


 リリアは何重もの魔術の組み立て、その中に呪いを包み込む。呪いが触れる度にリリアは自身が焼けて炭になる感覚を覚えた。

 当然痛い。臓腑が焼ける感覚にリリアは涙を溢した。呪いで赤黒く変色していた。

 それでも手を緩めない。

 少しでも躊躇えばエムリスは死んでしまう。


「あなたなら夢の中でも新しい魔術を作り出せるでしょう? きっといつか、呪いを解けるようになってからこの毒を解いてね」


 そう笑いながら、リリアの体は崩れていった。


 そしてほんのわずかな間だけ動けるようになったエムリスは残った消し炭を握りしめた。


 悪竜の呪いの気配が消えて今まで震えて動けなかったルフェルはエムリスに近づいた。


「エ、エムリス。よかった! 私、こんなことになるなんて思わなくて」


 涙ぐむルフェルを一瞥して、エムリスはその場を立ち去ろうとした。


「待って! このことを王に報告しましょう。あなたの弟子たちを集めればきっと呪いも毒も」

「もう放っておいてくれ」


 彼の言葉は今までにないほど冷たいものだった。


「もう君のことも、国も何もかもどうでもいい。頼むから私が眠る時までリリアと静かに過ごさせてくれ」


 拒絶と、怒りが混じる声にルフェルは震えた。

 それでも彼女は、自分のしたことに言い訳をいうだけである。


 怒る時間すら惜しいエムリスは姿を消した。

 残されたルフェルは、王の元へ行き報告した。

 エムリスは毒の魔女によって眠りにつかされたと。

 人々は王の賢者の不在を嘆き、毒の魔女を憎んだ。


 そして5年後、王は悪竜討伐の命令を出した。

 二人の騎士、ルヴァンとアルウィン――そして後方支援として治癒魔術師ルフェルが同行する。


 悪竜が退治されて、ルヴァンの能力で体が焼かれた。

 こうしてルフェルの秘密は隠された。


 倒され二つの竜杯に力が分散される中、悪竜は誓った。


 いつかこの国を滅ぼそう。


 少しずつ内側から侵食して苦しめた上で、蘇り、全てを破壊つくそう。


 私からリリアを奪った王の賢者、私を倒した王と騎士たちに復讐を果たすために。


 まさか、リリアの生まれ変わりが現れるとは思わなかった。それもあの聖女ルフェルの末裔に。


 この時代で、私は今度こそ手にいれよう。

 復讐も果たして、愛する乙女を手に。


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